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会議にて

 昼休みにちょっとしたトラブルに巻き込まれたが、それ以外は特に事件もなく一日の授業が終わった。

 

 アリナはこの後友達とお茶をしに行くと言って、授業が終わったと同時に足早に去っていってしまった。

 

 「グラム。お前なんか今日この後用事あるか? 無いなら図書館で勉強しようぜ」

 「悪い、俺今日は会議に出席しなきゃいけないんだ」

 「そっか。主席の仕事、頑張って来いよ。会議が終わったら、ボードゲームやろうな」

 

 手を振りながら図書館に向かうレオンの背中を見送って、俺は西棟にある会議室に向かう。


 この会議は学校の生徒会とそれぞれの学年の主席が参加するもので、月に一回行われる。

 正直言って内容はない。ただ面倒くさくて憂鬱なだけだ。

 しかし、さすがにさぼるわけにはいかない。なるべく早く終わることを願いつつ、俺は会議室に続く階段を登っていった。

 

 会議は時間通り始まったが、やはり退屈だ。

 学校での授業や行事についての報告。

 よくもまあ、毎月毎月これだけの量の報告ができるものだと、 資料を読みながら学校行事についての

説明を行う生徒会長を見ながら思う。


 彼女の名前はサージュ・ベリリオンと言う。

 貴族、ベリリオン家の長女だそうだ。

 長い髪を頭の後ろで一つに結び、制服を完璧に着こなしているその姿は、いかにも生徒会長と言った風貌だ。

 

 彼女の『固有魔法』を俺は知らない。恐らく戦闘向きではないのだろう。

 彼女は力ではなく、知恵でこの学校の生徒たちの信頼を集め、生徒会長になったのだ。

 その見た目の通り、彼女は自分にも他人にも厳しく、俺も彼女に一定の信頼を置いている。

 

 貴族と言っても、全員が今日の昼ご飯に絡んできたような馬鹿ではない。

 俺の友達のレオンやアリナだって実は貴族出身だ。

 

 割合が低いだけで、まともな人間だっているのだ。

 

 生徒会長の話を聞き流しながら、俺は議室を見渡す。

 

 五年生の主席は今日は欠席だそうだ。


 その隣の席に座る一学年上の四年生の主席は全く隠そうともせず、大あくびをしている。

 

 四年生の主席の名前はユノ・エーデルワイス。

 『植物を操る魔法』を使う魔法師だ。

 去年のトーナメントのエキシビションマッチで俺は彼女に手も足も出ずにやられてしまった。

 

 しかし、髪の毛をいじりながら資料に落書きをし始めた彼女は、人学年上だということを知らなければ、十歳くらいに見えてしまう。

 人は見かけによらないものだな。


 落書きをしている先輩を盗み見するのも忍びなく、俺はユノ先輩とは反対の隣に座る一学年下の首席に目を向ける。


 俺の隣の席には、銀色の美しい髪の毛を耳にかけながら、真剣な顔で資料を見ている後輩が座っている。

 

 アン・フロス・アウレリア。

 アウレリア王国の第二皇女にして、将来魔法師を目指す生徒がほとんどのこの学校で「最強」と呼ばれる『重力を操作する魔法』を操る者だ。


 会うのはこの前の新学期での式典以来二回目だが、やはり他人とは違う何かを持っているというオーラを感じる。


 ちらり、と彼女の赤い瞳が動き、こちらを睨んでくる。

 どうやら盗み見ていたことがばれたらしい。

 俺は何事もなかったかのように資料に目を落とした。

 

 「それでは、最後に何かありましたら報告をお願いします」

 

 あれから三十分ほど経って、会議の終わりがようやく見えた。

 これで誰からも報告がなければ終わりだ。今までの会議でこのタイミングで報告があったことはない、俺は寮に戻る支度を始めていた。

 

 「少し、よろしいでしょうか?」


 俺が席を立とうとしたとき、隣からそんな声が聞こえる。

 俺の隣で、最強と名高い後輩が手を挙げていたのだ。

 

 せっかく帰れると思ったのに余計なことをして、と思ったが仕方がないので俺はもう一度席に座りなおす。

 

 「アン第二皇女様。一体なんでしょうか?」

 「生徒会長。学校ではあなたのほうが先輩です。どうか私の事はアンとお呼びください」

 「分かりました。ではアン様、用件は何でしょうか」

 

 呼び捨てで良いと言ったのに、生徒会長に様をつけられて呼ばれたことが不満だったのか、第二皇女様は少し拗ねたようなな表情をするが、直ぐに表情を引き締めて立ち上がる。

 

 「はい。私は、この学校に存在する、貴族出身の生徒と平民出身の生徒どの間の不和を問題視しています。この学期が始まってからまだ一か月もたっていないのにも関わらず、その不和が原因で発生したと思われる騒動が三件報告されています」

 

 確かに貴族と平民の間での不和はこの学校に存在している。今日の昼休みに俺が巻き込まれたトラブルもその一つだろう。

 

 しかし、言い方が気に食わない。


 貴族と平民の間の不和と言うが、実際には貴族連中が平民出身の生徒を一方的にいじめているだけだ。

 こいつの言い方は、俺には平民側にも非があると言っているように聞こえた。

 

 「現在、隣国のアルゲント王国との緊張が高まっています。私は、アルゲント王国との戦争状態に入る前に、この不和を解消し、アウレリア王国が一丸となることが重要であると考えます」

 

 気に食わない。何もかもが気に食わない。

 

 そもそも戦争は国、つまり国王が起こしたものだ。

 いつもは俺たち平民を虐げておいて、貴族と共に豪華絢爛な生活をしながら、勝手に戦争を起こし、そしていざ戦争となったら平民へ一致団結を呼びかけるのか。


 しかも、結局前線に出て兵器として消費されるのは平民出身の魔法師ばかりで、貴族の連中は安全な後方でお茶を飲んでいるだけだ。

 それは、犠牲となった魔法師の出身を見れば明らかだった。

 

「お前ら王族が勝手に起こした戦争だろ」

 

 俺は思わずそう呟いてしまった。

 会議室にいる生徒の目線が俺に注がれる。


 やってしまった。さすがに第二皇女に喧嘩を売るのはまずい。

 

 とりあえず謝ろう。そう思って、頭を下げる。


 「申し訳ありません。無礼な発言をお許しください」

 「いえ、私も平民の皆様の気持ちを考えずに発言してしまいました。こちらこそ申し訳ありません」


 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。

 俺の不満を見抜き、その上で無礼を働いた平民の俺を許し、謝罪までしてくれる。

 この皇女様のその姿勢は、俺の想像していた王族の姿とはかけ離れたものだった。

 

 俺は、この後輩への認識を少し改める。


 「失礼しました、話を続けます。私は、この問題の原因が、受ける罰の重さの違いにあると考えています。平民出身の生徒が問題を起こせば当然罰せられます。しかし、貴族出身の生徒が問題を起こしても、教師は貴族の制裁を恐れて罰を軽くしてしまう」

「確かに、そのような面はあるでしょう」


 第二皇女の話に、生徒会長も賛同する。


 「それで、アン様。あなたはその問題にどう対処するつもりなのですか?」


 生徒会長が自分の椅子から立ち上がりながら皇女様にそう尋ねる。


 「はい、生徒会長。私を風紀委員に推薦していただきたいのです。風紀委員はこの学校で唯一、生徒が生徒を裁くことのできる組織です。私はこの学校のどの生徒よりも高い地位を持ちます。そのため、公正な罰を下すことができます」


 彼女の言っていることは正しい。しかし、一つ大きな問題がある。


 「では、あなたがその高い地位を悪用し、不当な罰を生徒に与えた場合。いったい誰があなたを裁くのですか?」


 生徒会長が第二皇女に近づきながらそう尋ねる。


 そう、もし彼女が風紀委員になり、生徒を不正に裁き始めた場合、だれもそれを止めることができなくなる可能性があるのだ。


 「もちろん、私は生徒会長を始め、あなた達先輩に裁かれます。もし私が不正を行った場合、見逃してくださる先輩たちでは無いでしょうから」

 

 第二皇女はそう言って、ルビーのような美しい瞳を俺の方に向けてくる。

 その目は一点の曇りもない、まっすぐなものだった。

 

 「分かりました。その件はここでは判断しかねるため、いったん持ち帰りとさせていただきます」

 「よろしくお願いします」

 

 第二皇女はきれいなお辞儀を一つして、席に着く。


 「他に、何かある人はいますか?」


 生徒会長は自分の席に戻りながら会議のメンバーにそう尋ねる。もう誰も手を挙げないようだ。

 

 「では、解散とします」


 生徒会長の言葉を聞くと同時に俺は会議室から飛び出した。

 

 長かった会議がようやく終わった。疲れたが、これでやっとレオンとボードゲームができる。

 

 しかし、あの第二皇女。どうせ他の貴族どもと変わらないと思っていたが、どうやらそうではないのかもしれない。

 

 俺はそう考えながら、寮への近道である続く細い裏路地を歩いていた。

 

 しばらく歩いて異変に気付く。

 足元を歩くネズミからわずかだが魔力を感じる。恐らく使い魔だ。

 

 誰かに後をつけられている。

 

 心当たりはある。恐らく今日の昼に絡んできた貴族の奴らだろう。

 

 俺が立ち止まると、前の方から人影が近づいてきた。


 面倒なことになった。

 俺はため息をついて、杖を取り出した。


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