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自分なりの戦い方

 午前中の授業がようやく終わり、昼休みの時間になった。

 

「いやー 三年生になっても授業は相変わらず退屈だなー」


 隣で伸びをしながらそんなことを言うレオンと共に、俺は学校の売店に向かっている。

 この学校の売店のサンドイッチは絶品なのだ。


 「レオンー グラムー 待ってよー」

 「よぉ、アリナ」

 

 名前を呼ばれて、レオンに続いて振り返ると、一人のキラキラした女子が長い髪をたなびかせながら走ってくる。

 彼女の名前はアリナ・ローズ。同級生だ。


 「二人とも久しぶりだね! あれ? グラム、手をケガしてるじゃん」

 「ああ、これはさっきちょっと…」

 

 アリナは俺の手を取って自分の胸に引き寄せてくる。

 悪い子ではないのだが、距離が近いので若干苦手だったりする。


 「ちょっと待ってて。はい、これで治った? ていうか、レオンもケガしてるじゃん!」

 

 アリナは俺の手をパッと放し、レオンに飛びつく。

 そして、杖を俺が先ほどの授業でペンを突き立てたせいでできた傷に当てる。

 すると、たちまち傷が消えていった。


 アリナの固有魔法は『傷を癒す魔法』

  

 この学校でも数人しかいない、希少な『固有魔法』の使い手だ。


 「全く。二人して同じケガして、いったい何してたのさ」

 「ちょっと、男の勝負をしてたんだよな。グラム」

 「まあ、そんなとこかな」


 さすがに十六歳にもなってペンで突き合いをしていたとは言えず、二人してごまかすことにした。


 「ふーん。まあいいや、二人ともご飯買いに行くんでしょ? 私も付いてくね!」

 

 付いて来られることは決まっていたらしい。

 まあ、俺もレオンも特に断る理由はないので三人で売店に向かうことにする。

 

 「それでさ、レオンが木から落っこちて大泣きしてさ」

 「アリナ。お前なんで俺の五歳のときの恥ずかしいエピソードをグラムの前で話すんだよ」


 二人の会話を聞きながら、俺は静かにため息をつく。

 こいつらはいわゆる幼馴染。しかも飛び切り仲の良い幼馴染だ。

 

 はたから見るとカップルに見えるこの二人と一緒に歩くのはいたたまれない。

 俺はこっそり二人と距離を取って歩くことにした。


 「久しぶりに野菜のサンドイッチにしたけどおいしいね」

 

 俺の隣に座ったアリナがサンドイッチを頬張りながらニコニコ笑顔でそう言う。

 

 「魚サンドも負けてないぞ」


 アリナとは反対側の隣に座ったレオンもおいしそうにサンドイッチを食べている。

 俺たちは中庭のベンチに一列で座ってお昼ご飯を食べている。

 二人でイチャイチャされるくらいなら、その二人に挟まれてしまおうと考えた結果、この並び順になったのだ。

 俺は腐っても三年生の主席。我ながら天才的な考えだと思った。


 しかし、あまり効果がないようにも思える。

 

 まあ、なんだかんだ言ってこいつらと一緒に居るのは俺も楽しい。

 この国を変えたいという目標のためには努力は惜しまないが、せっかくの学生生活も楽しみたいと思う俺は、強欲なのだろう。


 二人の内容の無い話を聞きながら俺もサンドイッチをかじる。

 平和なランチタイムだ。

 

「これはこれは、『最弱』と名高い三年生の首席様じゃないですか」


 平和なランチタイムは数分で終わりを告げた。

 俺は心の中で舌打ちをする。


 ゆっくりと顔を上げると一学年上の先輩が二人、気色の悪い笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。

 名前は知らないが、制服の胸には金色の紋章がついている。ボンボン貴族の一族であることはすぐわかった。

 

 「貴族様ともあろう方が、いったい俺に何の用です?」


  俺は相手とは目を合わせずに用件を聞くが、どうせろくでもない要件であることは想像に難くない。


 「おいおい、つれねえな。もうすぐ始まるトーナメントでお前が無様な姿をさらさなくていいように、俺たちが遊んでやろうと思ったのに」

 

 トーナメントとは、生徒同士が模擬魔法戦を行い、だれが一番強いかを決める大会だ。

 年に二回、学期の末に行われるのだが、まだまだ先の事だ。

 

 恐らく、トーナメントなどただの口実に過ぎない。こいつらはただ俺が気に食わないから絡んできたのだろう。


 「ちょっと、あなたたち。礼儀がなってないんじゃ――」


 俺はアリナの言葉を手で遮った。気持ちはありがたいが、こんなことに友人を巻き込みたくはない。

 

 「心遣い感謝します。ですが、丁重にお断りします」


  俺はそれだけ言ってサンドイッチを口に運ぶ。

 

 「貴様、馬鹿にするのもたいがいにしろよ…!」


 清々しいほどの逆切れだ。どうやら争いは避けられなさそうだ。


 二人は杖を出してこちらに向けてくる。

 この学校は授業と緊急時以外は魔法が使えないが、貴族の事だ。

 どうせ、権力で「緊急事態だった」ことにするのだろう。


 先ほどまで中庭にいた人たちは危険を感じたのかほとんど逃げてしまった。

 しかし、俺の隣に座るレオンとアリナだけは逃げるどころか、すました顔でサンドイッチを食べ続けている。

 この二人に信頼されていると思うと、少しうれしかった。

 

 「おい! 今泣いて謝ったら許してやらないこともないぞ! これは最終通告だ!」


 そんな俺たちの態度が気に食わなかったのか、相手の一人が顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。


 「なぜ俺がお前らに許しを請わなきゃいけないんだ」


 俺はサンドイッチを持っていない手をポケットに突っ込みながら相手を挑発する。

 

 「ふ、ふざけるな!」

 

 相手は怒鳴り声を上げると同時に杖に魔力を込めた。


 しかし、それよりも前に俺は『土の元素魔法』で相手の足元の土をこちらに引き寄せる。

 ちょうどテーブルクロス引きの要領だ。

 

 たったそれだけの魔法で二人の先輩は情けなく尻もちをついた。

 

 実は、俺はさっきポケットに手を入れるふりをして、杖を触り、魔力を込めておいたのだ。

 確かに真っ向勝負では『元素魔法』は『固有魔法』に勝てないが、それなら相手より早く発動すればいいだけの事だ。

 

 「お前! もう許さないからな!」


 公衆の面前で尻もちをつかされてよほど恥ずかしかったのだろう。

 二人は尻もちをついたまま、我を忘れて杖に魔力を込め始めるが、冷静さを欠いた状態では魔法は上手く使えない。


 魔法を発動することは、物語の書かれた本の内容を、インクとペンを使って書き換えることに似ている。

 この世界の法則を、自分の魔力と杖を使って書き換えるのだ。

 

 当然、集中力がいる作業であり、怒りで我を忘れている状態ではまともに魔法は使えないだろう。

 こういう煽ればすぐに逆上してくれるタイプの魔法師は扱いやすくて助かる。

 

 俺は、今度も相手より早く魔法を発動する。

 使用した魔法は『水の元素魔法』

 相手の足元の土に水分を含ませ、泥まみれにする。

 

 これで相手のプライドはズタズタだろう。

 少し離れて見物していた生徒たちの中にも、この二人の情けなさを見てクスクスと笑い出すものが出てきた。

 

 「お前! お、覚えてろよ!」

 

 負け犬貴族の二人はそんな遠吠えをしてから、泥まみれでどこかに消えていた。

 

 「さすが我らが首席様だな」


  サンドイッチを食べ終わったレオンがウインクしてくる。


 「何言ってんだ。あの程度の攻撃レオン相手じゃ何の役にも立たないだろうに。相手が弱かっただけだよ」

「いやー でも、すっきりしたね!」


 同じくサンドイッチを食べ終わったアリナもウインクしてくる。

 この二人、本当に息がぴったりだな。

 

 「ちょっとあなたたち、何の騒ぎなの?」


 中庭での騒ぎを聞きつけて、先生がやってきてしまった。

 

 「何もないですよ。先輩が二人、そこのぬかるみで足を滑らしてしまい、その恥ずかしさに耐えられずどこかに行ってしまっただけです」


 レオンがしれっとそう言う。

 『元素魔法』は自然現象のようなものなので魔法を使用した証拠も残りにくい。

 要はバレなきゃいいのだ。


 何かブツブツ言いながら去っていく先生の背中を見送りながら、俺はレオンとグータッチを交わした。


 「全く。あんな人たちが将来この国を担うなんて、不安でしかないよね」

 

 アリナの意見に俺も賛成だ。


 やはりこの国を変えるにはああいう奴らが人の上に立っていてはいけない。

 俺は決意を新たにして、残りのサンドイッチを胃に押し込んだ。


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