トーナメント
「諸君たちは、前期で優秀な成績を収めた。今期の主席を目指し、全力を出して戦ってほしい」
俺たちは学校にある中央闘技場に並べられ、校長の退屈な話を聞かされている。
トーナメント。
一学年、十六名の成績優秀者がトーナメント形式で戦い、その優勝者が主席に選ばれるというイベントだ。
ただ、成績優秀者と言ってもトーナメントに出場しない生徒もいる。
例えば、この学校の生徒会長は成績優秀者だが、彼女の『固有魔法』は戦闘向きではないためトーナメントには出場しない。
そのような生徒を除いた上位十六名がトーナメントに出場するのだ。
三年生の一位はレオン、二位はプレウラで、三位はタナトスという生徒だ。
ちなみに俺は三年生の中で十六人中十五位の成績だ。
座学と『元素魔法』の方はそこそこ成績優秀なのだが、『固有魔法』が足を引っ張っている。
『固有魔法』の強さは威力、射程、範囲、応用力の高さで決まる。
俺の『固有魔法』は、威力はともかく、それ以外の三要素が壊滅的に欠けている。
だから俺は「最弱」と呼ばれるわけだ。
ただ、最近はよく皇女様と一緒に居るせいか、表立って「最弱の主席」といわれることが少なくなった気がする。
これが皇女様パワーか。
そんなどうでもいいことを考えていると、続けてトーナメントのルール説明が行われる。
要約すると、俺たちは闘技場内に書かれた半径二十メートルの円の中で一対一を行う。
杖以外の武器の使用は禁止、ただし、拳などを使って相手を直接攻撃することは禁止されていない。
頭部と胴体に対しての致命的な攻撃は禁止。
逆に言えば、手足に対してなら多少は過剰な攻撃を行っても良いという事だ。
手足の怪我程度なら、基本的には治癒魔法で治すことができるからだ。
それと、魔法の出力が上がり、危険なため、自分の『固有魔法』を説明して、言霊の力を借りることも禁止だ。
勝利条件は、
相手を場外に出す。
相手を降伏させる。
相手を戦闘不能にする。
の三つだ。
正直俺はこのトーナメントのルールは合理的でないと思っている。
戦場では一対一での戦いなどほとんど起こらない。
戦場は基本的に集団対集団の戦いであり、一対一の強さなど戦場では全く役に立たないだろう。
それでもこの学校でこんなイベントが行われているのは、恐らく王族や貴族たちが一対一の華々しい戦いを好むからだろう。
要は、見世物だ。実際王族や貴族もトーナメントを観戦しに来るので、パトロンの意向を汲んでいるのだろう。
こういうところでもこの国が腐っていることがよく分かる。
まあ、一対一の魔法戦というルール自体は俺には好都合だ。
トーナメントは闘技場内に書かれた半径二十メートルの円の中で一対一を行う。
舞台が狭く、よーいドンで戦いが始まるため、俺の『固有魔法』の魔法の射程の短さや範囲の狭さをある程度カバーしながら戦える。
腐った王族や貴族が作ったルールを最大限活用し、今回も「最弱の主席」を目指して頑張ろうと思う。
「やっと終わったー 校長話長いよねー」
「アリナ、お前この後すぐ試合だろ?」
レオンの言葉を聞いて「やば! そうだった!」
と控室に向かうアリナ。
俺とレオンはアリナの試合を見るために観覧席に向かう。
「あいつやっぱり今回も出るのか......」
「もう俺はあいつの出場を止めることを諦めたよ」
アリナの『固有魔法』は『傷を癒す魔法』だ。
はっきり言って戦闘能力はゼロ。俺以上に先頭に向かないはずなのだ。
しかし、彼女は二年生の前期と後期。そして今回、計三回のトーナメントに出場している。
「俺、あいつの戦い方苦手なんだよね。なんと言うか見てられない」
「アリナ、グラムが見てなかったって知ったら拗ねるからちゃんと見てやれ。ほら、始まるぞ」
場内の歓声に包まれながら、選手が入場してくる。
片方はもちろんアリナだ。
もう片方は確か、ラピスとか言う貴族出身の同級生だ。腐った貴族の匂いがするので、こいつはあまり好きではない。
「それでは、両者構えて!」
審判の合図で、アリナは自分の杖を彼女の胸の間に挟んだ。
どよめく場内の男達。
目をそらす俺とレオン。
しかし、これは彼女の立派な作戦だ。
ルール上、手足を攻撃することは許されているため、手を攻撃して相手に杖を落とさせて降伏させるというのが、勝つための常套手段だ。
しかし、胸に杖を入れておけば、相手に攻撃されて落とすことはない。
本来魔法は、魔法をかけたい対象に杖を向けて魔力を込めることで発動する。
杖を向けなくても発動はできるが、精度が落ちてしまう。特に『固有魔法』はその傾向が強い。
ただ、彼女の『固有魔法』は治癒なので、相手に向けて『固有魔法』をかける必要がない。
杖を手で持っていなくても『元素魔法』はある程度使用できるし、杖に触れているため、自分に対してだけなら『固有魔法』も発動できる。
杖を胸にしまうという彼女のトンデモ行動は、実はかなり合理的な作戦なのだ。
「試合、開始!」
ラピスは自分の周りに四つの石の弾を作り出し、アリナに向かって発射する。
アリナは構わずラピスに突進する。
ラピスの石の弾丸がアリナの左足を貫き、右手を吹き飛ばす。
かなりショッキングな目の前の出来事に、俺は思わずもう一度目をそらしかける。
しかし、アリナは止まらない。
『傷を癒す魔法』で左足に空いた穴を塞ぎ、飛ばされた右手の血を止めながら、石の弾を打ち尽くしたラピスに接近する。
ラピスはいったん距離を取ろうと後ろに飛びつつ、もう一度石の弾を作ろうとする。
ただ、少し遅い。
ラピスの目の前には『風の元素魔法』で加速したアリナが迫っている。
アリナは勢いそのままに、右足でラピスが杖を握っている右手を蹴り上げた。
杖を落とすラピス。
アリナは胸から杖を取り出し、右手を抑えてうずくまるラピスの頭に杖の先を押し付ける。
「ま、参った......」
ラピスの言葉で、勝負が終わる。
「そこまで、勝者、アリナ・ローズ!」
審判が高らかに試合結果を発表すると、会場は歓声に包まれる。
俺とレオンも拍手をしていると、両手を振って歓声に応えていたアリナが俺たちを見つけ、親指を立ててにっこりと笑った。
親指を立てて、それに応えるレオンに合わせて、俺も親指を立てておく。
これでアリナは一勝、このまま勝ち進むとレオンと当たることになる。
「さて、この後グラムの試合までずいぶん暇だな」
「レオンは余裕があっていいな。俺は一回戦目からできれば戦いたくない相手と戦わなくちゃならないのに」
俺とレオンはそんなことをしゃべりながらアリナを迎えに行くために観覧席を立ち、控室に向かっていた。
その時、前から一人の地味な女子が歩いてくる。噂をすればだ。
「グ、グラム。きょ、今日は負けないからな」
もう何度聞いたか分からない宣戦布告をしてくるのは、プレウラだ。
普段は人の目を見て話さないくせに、今日は俺の目をしっかり見てくる。
彼女の順位は二位、そして俺は十五位。そう、俺の初戦の相手はこいつなのだ。
「悪いが今回は割と本気で主席を狙っているから、俺も負けるわけにはいかない」
俺もプレウラにそう言い返す。
できれば戦いたくはないが、どうせ戦うなら早いほうが良い。
俺はそう気持ちを切り替え、プレウラとの試合に備えることにした。