七話「指輪の帰還」~妻のお腹の子供の父親が夫の自分ではなく友達のモスとの子だと言われる~
「……」
「……」
「……」
ルイの家に家出した妻デッドとルイの親友モスが来た。
ルイが二人に紅茶を出して五分。
気まずさのあまり、二人のティーカップは空になる。
「あの……」
デッドが切り出した。
ルイは「うん?」とデッドの目を見る。
「わたし、赤ちゃんいる」
デッドは震える手を机の下に隠す。
「知ってる」
ルイは足を組み直す。
「モスとの赤ちゃんなの」
デッドは潤う目を下に向けて静かに言った。モスは彼女の背中をさする。
「そう。……で?」
ルイは机の下でモスの足に当たる感覚がした。すぐに足を引っ込めたが、モスにキックを喰らった。
彼を睨むがモスは変わらずデッドを撫でている。
「わたし……あなたと別れたい」
デッドはルイの目を見た。
結婚当初から変わらない茶色い瞳がもう自分の物じゃない事に少し、悲しく思う。
「わかった。離婚するよ」
ルイは薬指から指輪を外して机に置く。
デッドも同様に指輪を机に置く。
「離婚届は後日でいいかな?」
ルイはモスに視線を向ける。
「ええ、そうしましょう」
デッドはモスと席を立つ。
「モスの家に泊まるのかい?」
「関係ないでしょ?」
デッドは冷たく言って玄関に向かう。モスも急いでデッドの後を追う。
ルイは鍵を閉めるべく玄関に行く。
「じゃあ、さようなら」
「うん」
デッドは扉を開けてモスを先に外に出す。
ルイは眉を顰める。
「荷物ならモスの家に配達するよ。まだなにか……」
デッドはルイに顔を近づける。
ルイは扉を開けてデッドに口付けをする。
「はいばい」
モスの驚いた顔が見える。
デッドは目を見開き、ルイを軽く叩いてすぐさま出て行った。
あー離婚したよ。
シックは七話の台本を床に置き、自動販売機に向かう。
「あ、シックさんー」
そこには七話には登場しないルイの会社の副社長で浮気相手のティン役、ガールがいた。
「少し、相談いいですか?」
ガールは出てきたばかりのぶどうジュースを取りながら上目遣いでシックに近づく。
「いいよ」
惚れやすいシックが断れるわけもなく。
「わたし、この前言いましたよね。妊娠したって」
「うん、聞いたよ」
シックは床に座るガールに並ぶ。
「その、彼氏と別れちゃって」
シックは固まる。
大好きなガールちゃんが妊娠していただけでも衝撃ニュースなのに。彼氏と二人で子供を育てるならまだしも、シングルマザーに?
「あ、急にごめんなさい。こんな話、嫌ですよね」
「そ、そんな事ないよ! すごく、勇気があると思う」
シックは取り繕って彼女を褒める。
「……やっぱ、いいです。相談」
「え、え、ごめん、そんなつもり……」
ガールはぶどうジュースを忘れてシックから去って行く。
クッソオオオオォォ!
ちゃんとフォローしとけば子供のお父さんにもガールの恋人にもなれたのにぃぃ!
「あー、やらかした」
次回「八話」