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六話「すべて美しいネタ」~友達のモスに妻を取られたルイは家から出なくなる~

 親友のモスにルイは二度も恋人を取られた。


 一度目は妻に隠れて付き合っていたシャイを仮眠室で。

 二度目は妊娠して家から飛び出した妻をモスの家で。


 一度目の時にモスとは縁を切ったが、人は傷心になると元親友の元に行くもので。

 合鍵で家に入ったとき。モス宅リビングから妻の声が聞こえた。


 今までどうにも思っていなかった妻が他の男に取られた。

 自分でも信じられないほど、悲しんでいる。

 自分の所有物が親友に取られたから悲しいのか。単に妻が自分から離れたのが悲しいのか。


 ルイはあれから一度も家を出ていない。

 副社長のティンに会社を休んで頭を冷やせと言われた。


 ルイの家には冷凍食品やカップ麺が余るほどあるので食事に困ることはない。

 しかしストレスか悲しみか。ルイの体重はどんどん落ちていく。


 妻はまだ帰ってこず、ときどきティンが仕事のことで報告をしてくる。

 C.E.Oがいなくとも回る会社だと分かった。

 きっと副社長が優秀だからだろう。


 ティンとは妻に隠れて付き合っていたが、別れを切り出され、それ以降、仕事だけのビジネスパートナーだ。


 一週間が経ったころ。

 家のチャイムが鳴った。


 モスだった。インターホン前でよそよそしく立っていた。

 隣には妻が。


 ルイは迷わず扉を開けた。


「ルイ、ごめんなさい」


 扉を開けるなり、妻デッドはルイを抱きしめる。

 彼女は急に家を出て行ってごめん、なのだろう。ルイからしたら鼻で笑いたくなる。


「おかえりデッド。モスは何の用で?」


 ルイは何も知らない夫だ。モスはそう思っている。


「あー、それがさ。デッドのお腹の子供、俺との子供なんだよね」


 場が凍る。


 ルイはデッドを抱きしめ返したがその手を離す。

 デッドは気まずそうにルイから離れる。


 モスは勝ち誇った顔をルイに向ける。


「それは……本当?」


 ルイは弱弱しく涙目になりながらデッドに尋ねる。


「うん」


 デッドは軽くうなずいた。



 六話の内容はこんなものか。

 ルイ役シックは屋上にて台本を地面に置く。


「あれ、もう読み終わった感じ?」


 モス役ネック(既婚者子持ち)がルイの隣に来て台本を最初から読み始める。


「うん。読み終わったよ」


 シックはネックから一歩離れる。


「あ、ネック! シックも!」


 デッド役リリー(二回り年上のおっさんと結婚した既婚者)がネックと同じ方向から来てネックとシックの間に座り、台本を読む。


 ……気まずい。


 シックは五話の台本読みの最中、ネックとリリーが下を絡ませたことを知っている。

 二人は既婚者で、それも芸能人だ。

 前のシックならすくに写真を取って週刊誌に売るところだったが、写真を取っただけで済ませた。


 このまま撮影を続けていたらそれ以上のスクープが取れるかもしれない。


「ねね、ネック。ペン持ってない?」

「持ってるよ、はいどーぞ」


 デッドとネックの会話を聞くたび、二人の舌を思い出す。


「あ! みなさん、おそろいで!」


 ネックやリリーとは別方向からティン役ガールちゃんが来た。


「お隣失礼します」


 そう言ってシックの隣に座るガール。

 なんてかわいいんだ。

 顔に見とれてシックの服の裾を踏んでいることに気付かない。いや、気づいたがそれすらも忘れさせてくれる顔の良さ。


「リリーさん、この後予定あります? わたしラーメン食べに行くんですけど」

「んー、ネックと顔ものいく予定だったけど……みんなで食べに行く?」

「いいですね、それ」


 シックとしてはガールと二人で話がしたかった。

 ガールは純粋な女の子に見えるが、妊娠している。


 そのことについて話したい。でも機会がなく、話せていない。


「シックさん、行きます? 次郎系ラーメン」

「あー、うん。行くよ。だれかサングラス持ってないか? 家に忘れちゃって」

「あ、俺持ってるけど」


 ネックはシックにシャツに掛けてあったサングラスを渡す。


「ありがとう、今日紫外線強くない?」

「えー、目、繊細ですね。わたしあんまり感じません」


 シックは目が良くないのだ。

 もう一つの理由としてはサングラスをシャツに掛けるやつを絶滅させたい、ネックとか。


 その後、四人でラーメンを食べに行った。

 週刊誌に売れる話は特になく、世間話が続いた。


 リリーの夫の愚痴や、ガールの体系維持や、ネックの担当の美容師に耳を切られそうになった話。

 シックは自分から話はない。絶対週刊誌に売られる。


「あ、そういえばこの前シックさん駅前に居ました?」

「……なんで?」

「あ、いや。チラシ配ってるはずのキャンギャルに絡まれてるイケメンの髪が金だったんで」

「俺だね」

「へー、次から外出するときはブーツでも履いたらどうですか? あのキャンギャルのほうが背、高かったです」


 ガールはハイヒールの足を組んでシックを一瞥する。


「あ、そう。でも俺175はあるよ?」

「えー、わたし、身長185ないとむり」


 シックの弁明をガールは鼻で笑う。


「わたしも! やっぱ180は欲しいよねー」


 リリーまでもが賛成する。


「180って……ネックは170無いよ?」


 シックは笑う。


「あれ? わたしたち、付き合ってるって、言ったっけ?」

次回 七話「指輪の帰還」

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