五話「肯定の輝き」〜家出した妻の妊娠が分かり、妻の実家に赴くルイ。しかし妻は実家にはおらず……〜
まさか、デッドが妊娠していたなんて。
ルイはデッドが出て行ったすぐ後、夫婦の寝室の棚の中からメモ帳を取り出し、ポケットに入れる。
メモには妻デッドの実家の住所が書かれてあった。
「お邪魔します、ルイです」
車で三時間半。
高速を乗り継いで妻の実家まで来た。
「あら? ルイくん。どうしたの? デッドは一緒?」
「え?」
が、妻は実家にはいなかった。
ルイが家に帰る頃には朝日が見えた。
……妻はどこにいるのだろう。
玄関を開けると後ろから声がした。
「よっ」
ルイの浮気相手の一人、副社長のティンがいた。
「はあ? デッドが妊娠? それも逃げた?」
「そうなんだよ。実家にもいなくて。もう……どうしようか」
ティンは温かいお茶をルイに渡す。ルイはお礼を言ってティンの頬に口付けをする。
「やめて、あなたも父親になるんでしょう? 関係は終わりよ。これまで通り、ただの仕事仲間」
ルイはカップを落とす。
「え、え? どどど、どういうことだ? た、ただの仕事仲間?」
ティンは答えず微笑む。
「妻が妊娠してるのよ? 浮気なんてしてる場合? ばっかじゃないの?」ティンは続ける。「妊娠中は不安定なのよ? あんたが支えなくてどうするのよ!」
そんな。ルイは絶望する。
「ぼくはきみがいないとダメなんだ、お願いだ、また……」
「もうおしまい! 終わったの。わたしたちは。分かって」
ティンは出ていく。
ルイは一人、元親友の家を訪ねることにした。
「モス、この前はごめん。鍵、開けてくれないか?」
ルイの彼女を寝取った元親友、モスの家。
「え? ルイ? あー、ちょっと今は……」
インターホンが切れた。
しかしルイは動じない。
合鍵を持っていたのだ。
「お邪魔しまーす、モスー?」
玄関からリビングに行くと甘い声が聞こえた。
モスと聞き覚えのある……妻の声だった。
「ちょっと、モス、やめてよぉ~」
「いいだろ、夫はしてくれないんだし」
うそだろ、妻は妊娠してモスの家に行っていて、
それも二人は関係がある。
ルイは静かにモスの家を出た。
どうでもよかった妻を奪われるのは、こんなにも悲しいなんて。
いや、私も同じことをしていたじゃないか。
不倫して、何股も。
妻も同じことをしてるだけだ。
でも……。
こんなに悲しいなんて。
親友にまたも寝取られた怒りよりも悲しみの方が来る。
「デッド……愛してる」
ルイの言葉はデッドには届かない。
今彼女はモスと一緒にいる。
「あの、雨、降ってますよ」
見知らぬ女に傘をさしてもらった。
「大丈夫です」
いつものルイなら傷心をしまい、家に連れ込んで女とおっぱじめるところだったが、今日は違った。
まっすぐ家に帰り、夫婦の寝室で一人、眠りについた。
「うわー、またモスに寝取られエンドだよ」
「文句あるなら脚本に言えよ。俺も妻子持ちでこの役気まずいわ。変わるか?」
「いまから変われるか!」
モス役ネック(既婚者)と五話の内容を読んでいたら私、シック役ルイが可哀そうだという話になる。
「でも不倫はダメだからな。ルイはダメな奴だ」
「モスもな」
「あれ? ここで読んでるの? あっちにガールいるけど」
デッド役リリー(既婚者)が来た。
「え? まじで? あっちにガールいるの!?」
シックは興奮しながらその場を離れた。
ガールはティン役でシックの想い人だ。
「うわ、ガールも気の毒だな。シックはほんとに若い女好きだよな」
「ね」
リリーはネックの隣に座る。
「本の内容……みた?」
リリーは気まずそうに話しかける。
「今読んだよ」
ネックは周りに人がいるか確認する。
誰もいない。
リリーとネックは少しずつ顔を近づけ、キスをした。
「嘘つかないでよー! 今日ガールいないじゃん!」
シックが帰ってきた。
二人が濃厚なキスをしているところに。
おいおいうそだろ。
シックはただでさえガールが妊娠しているということを知ってしまっていたのだ。
これ以上秘密を抱えるのはごめんだ。
シックは静かに二人のキスを写真に撮る。
既婚者俳優二人のキス写真。
なにかあったらすぐに売ろう。
シックは心にそっと秘密をしまった。
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