四話「或る夜のイット・ボーイ」〜浮気相手に別れを告げたルイはバーに来ていた。そのバーでルイは酔ってしまい、目が覚めると知らない家に……〜
ルイは自分からシャイに別れを告げたものの、傷心の表情を取り繕うことができないまま家に帰る。
「あなた、夜ご飯は……やだ、どうしたの? 顔色が悪いわよ」
妻のデッドはルイの顔を見るや否や顔を顰める。
「会社で何かあったの?」
デッドはルイのジャケットを脱がせながら聞く。
「いや。何もなかったよ。心配しなくていい」
「……そう」
ルイはデッドとの夕食を終え、自室で作業していた。
しかしどうも集中できず、机の引き出しを開ける。
そこには会員制バーから定期的に届く手紙があった。
朝。
ルイは見覚えのないベッドの上にいた。
昨日はどうしていたか。
バーに入り、何人もの女が下着姿で踊るのをお酒を飲みながら眺める。
そしてその一人がルイに近づき、ルイもそれに応えようと彼女をお酒を頼む。
そこからはなんとなく想像がつく。
そしてここはどこか。
「あら? やだぁ、起きてたのぉ?」
バスローブ姿の女が入って来る。
どうやらドアの一つはバスルームに繋がっているようだ。
「あぁ。さっき起きたんだ。ここはどこなんだい?」
ルイはベッドから起きて床に散らばった服を取る。
「何も覚えてないの? 私の名前も?」
女はルイの手から服を落とす。
「まあ。今から思い出させてくれるか?」
ルイは女のバスローブを脱がせた。
ルイが社長室に入ると中には副社長のティンがいた。
「今まで何してたのよ、ルイ! 午前の商談はあなたがいなくて散々だったわ!」
ティンはルイに書類を投げつける。
「ごめんごめん。でもこっちにも散々なことがあったんだ」
ルイは書類を拾いながらティンにこれまでの事を話す。
「その謎の女のせいで遅刻したわけ? 家には帰ったの?」
「いや、遅刻したら君が怒るだろ」
「もう手遅れだけどね」
ルイはティンの機嫌を直そうとキスをする。
「わたし、前のインタビューの記事確認して来る。……まだ怒ってるから」
そう言うティンの顔には不満はなかった。
「おかえりなさい、あなた。遅かったわね」
仕事が終わり家に帰ると不機嫌そうな顔のデッドが雑誌を読みながらソファで待っていた。夕食が机の上に置いてある。
「昨日の夜中からいなかったわよね? 連絡くらいくれても良かったじゃない」
ルイは自分でジャケットをハンガーに掛ける。
「ごめんね、仕事が忙しくて」
ルイはハグをしようとデッドの背中に手を回す。
しかしデッドはルイを拒絶してリビングに走る。リビングから戻ってきたデッドの手にはトランクがあった。
「待ってくれ、デッド! どこへ行くんだ!」
ルイは玄関に向かうデッドを追いかける。
「あなたはいっつも嘘ばっかり! 隠れてコソコソしてるの、わたし知ってるわ!」
デッドはルイに物を投げ、靴を乱暴に履く。
ルイは呆然とする。浮気から足を洗った良き夫を演じてきたのに……。浮気が気づかれていたなんて。
「そんなあなたも、子供ができたら変わると思ってた。……けど違うのね」
デッドは出て行ってしまった。
子供ができたら変わる? まるで子供がいるかのように。
ルイがリビングに行こうとした時、デッドに投げられた物に目が留まる。
床に投げられたのは妊娠検査薬だった。
四話の内容はこんなものか。
私、シックが演じるルイの浮気。
リリーが演じるデッドの妊娠。
ど深夜ドラマ並みに重いがあくまで十時からのドラマだ。
この前撮った三話を撮った後からティン役ガールの様子がおかしい。何度も何かあったのか聞こうと試みたが、デッド役リリーに邪魔をされて聞けなかった。
ガールが楽屋から出てきたところを狙ったが、リリーが一緒に出てきて聞けなかった。
ガールの撮影が終わった瞬間に話しかけに行ったが、用件を言う前にリリーが邪魔をして聞けなかった。
しかし神は私の味方をした。
今日は撮影に私とガールしかいない。
「やあ。ガール。元気がないね、私でよければ話聞こうか?」
「あ、シックさん。いえ、なんともありませんから」
ガールは私を通り過ぎて水を取る。
「そう……いつでも話聞くから」
私は彼女の横に座り水を飲む。ガールはあっさり食い下がる私に目を見開き、口を開いた。
「では、聞いてもらえます?」
「もちろん」
釣れた。
「えーっと、わたし……あ、やっぱり……いや……」
私は黙ってガールの言葉を待つ。
ガールはしぶしぶ話した。
「わたし、妊娠してるんです」
次回 五話「肯定の輝き」