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花を散らす

 湯気を切り裂く音に遅れて、噛み殺しそびれた悲鳴が落ちていく。まるで湯船を満たす湯の表面に波紋を描くようにほとり、またほとりーーーと戸切れがちに落ちていく。


 「当然よな」と、湯殿に引きずり込まれていかほどが過ぎたか。


 血の高ぶりも冷めやらぬ体ていで紅潮した上半身を惜しげもなく外気に晒し、男は手にした乗馬鞭を振りかぶる。


 肌に弾けるたびに噛み殺し、またそびれるを繰り返すのは少年とも青年とも言い切れぬ頃合いの若者である。


 幾度となく、痛みに朦朧と意識を失ないそうになっては立ち戻らされる。


 まるで猫が獲物をなぶるように悪辣な遊戯にようようのこと気が済んだというのか。


 動きを止めた男が湯殿の梁から垂らされた燕脂色の組紐がからめられた少年を熱のこもった金色の目で舐めるように見やった。


 うなだれ浅い息を忙しなげに繰り返す、荒事とは無縁の細い四肢には数多の暴虐の痕が生々しく刻まれている。幾条もの新たな傷痕の隙に古くなろうとする様々な段階の痕が痛々しさを強調していた。それは、少年と青年とのあわいに位置する彼のやさしそうな顔立ちとはあまりにも対極にあるようにうかがえるものである。


 少年の頬に散った血を鞭を投げ捨てた手が無造作に拭った。


 薄く開いた焦げ茶色の瞳が苦痛に乾いた眼差しを返し、力なく閉じる。


 汗と湿気に色を濃くした紐をほどきくずおれてしまう寸前で抱き止めそのまま慣れた動作で湯船へと移動した。


 湯の染みる苦痛に小さくうめいた少年に満足げに目を細め、男は舌舐めずりをした。


 それは、また別の苦痛が彼をさいなむ前触れであったが、目を閉じた彼がそれを予測することはなかった。

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