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あなたは人間よ、だって言葉が喋れるじゃない

読んでくださるとありがたいです。

雨が降っていた。

何でもないような戦闘だった。いつも通りだった。

雨が降っていた。

びしゃびしゃと。

だから、最初は何が起きているのかわからなかった。

雨が降っていた。

珍しく晴天だったのに。

理解できなかった。

雨が降っていた。

その雨でぬれてしまって。

理解したくなかった。

雨が降っていた。

頬を伝う感触が気持ち悪かった。

今まで必死に目をそらしていたのに。

雨が降っていた。

鉄さびの匂いをまき散らして。

何がきっかけになったのかはわからない。

雨が降っていた。

その雨は局地的だった。

ただ、その日、その時。

雨が降っていた。

降ってくる雨は赤色だった。


 勇者はモンスターになった。


雨が降っていた。

血の雨が降っていた。

雨のように血が降った。


「あ〝あ〝あ〝ああああああああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァあああァああああああああああああアアァぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」


目の前でモンスターに変身されて、そのモンスターに、今にも殺されそうなのが二人。

絶叫したのは誰だろう。何人かの叫び声が重なったかのようにも思えたし、全員呆然と佇んでいて誰も叫んでいないような気もするし、ただのモンスターの鳴き声かもしれなかった。

そんなことはどうでもよかった。

そんなものは些事だった。

目の前に突き付けられた事実の前には。



 え、俺らモンスターになるの?



薄々気づいてはいた。だって、明らかに喋るモンスターが幾体かいたから。

薄々気づいてはいた。だって、モンスターは時折人間の道具を身につけていたから。


 そして目の前にいるモンスターは、いや、まだモンスターにはなりきっていないのか中途半端な人間の姿をしている。みしみしぎちぎちと音を立てながらちょっとずつ身体が浸食されていっている。この世の醜悪を煮詰めたようなコールタールのような、細菌のように何かが集まって形作っているようにも見えて、血とそれらをこぼしていた。

醜いと感じるものが、人間から生えているわけで、疎ましさがあった。それだけで無条件に気持ち悪かった。

 元々戦っていたモンスターは倒し切れていない。特別に順調ということはなかったが、特に危ないところもなかったし、苦戦してもいなかった。だから何がきっかけでモンスターに変化していっているのかがわからなかったが、それは置いておいて、とにかくモンスターはまだいた。

 だからモンスターが二体いて、モンスターになりかけのほうが人間二人を虫の息にしていて。切り裂かれて大量出血をしている二人を見て、冗談でも生きているなんて言えなかった。


 息を荒げながら、モンスターがねえ、とこちらに呼びかけてきた。


「ねえ。死にたくないの。死にたくはないの。どうして私が死ななくちゃいけないの。モンスターと戦うことを強要されて、ああなんて私ってかわいそう。視界に入るのも生理的嫌悪を覚える物体を見続けないといけないなんて、ああなんて私って健気なんだろう。しにたくない。お菓子が欲しい。おやつが欲しい甘いものが食べたい太りたくはないかわいいって言われたい。しにたくない。運動したくない。つらいのは嫌だ苦しいのは嫌だ痛いのはいやだつかれるのは嫌だつまらないのは嫌だあせをかくのは嫌だしにたくないおけしょうが崩れるのはいやだ。おしゃれしたいわたしはかわいいきれいなの。かわいいものにしにたくないかこまれていたいかわいいものになりたいかわいいってしにたくないいわれたいわたしはかわいいのかわいいってほめられたいみとめてもらいたいわたしをみてほしいもういちどかわいいっていってほしいかわいかったらわたしをしにたくないみてくれるかなわたしをみてほしいわたしでありたいわたしはかわいいしにたくないかわいいってしにたくないいってくれたみてくれたみとめてくれたしにたくないかわいいわたしはかわいいわたしはかわいいっていわれたいわたしはかわいいのにかわいいっていわれたいのにしにたくないかわいいっていわれたしにたくないのにかわいいものにかこまれたらしにたくないわたしはかわいいからかわいいものにかこまれてわたしはかわいいしかわいいからかわいくてかわいいものがほしくてしにたくないみてほしくてみとめてほしくてかわいいってかわいいからわたしがわたしはかわいいわたしはしにたくないかわいいわたしをしにたくないしにたくないみてくれるかなかわいいしにたくないしにたくないわたしはかわいいものがほしいかわいいわたしはかわいいものにしにたくないしにたくないかこまれてかわいいわたしはかわいいものになりたいわたしはしにたくないしにたくないかわいいしにたくないしにたくないわたしはかわいいしにたくないしにたくないかわいいしにたくないしにたくないわたしはかわいいかわいいわたしはしにたくないしにたくないかわいい。」


 こちらに向かって動いてきて、身動きをするたび、血だかコールタールだかモンスターの体液だか皮膚だかがぼたぼたと落ちていく。そのたびに、不定形の生き物が生まれてきた。


 モンスターに変わる前は、この人は武器も家具や服も生み出せる能力を持っていて、女の子同士でかわいいだとか言ってはしゃいでいたなあ、と現実逃避気味に思い出す。


 いっぱいいっぱいで、最近は結界の近くにまでモンスターの生息域が広がってきていて。そんな中でモンスターとモンスターに今まさに成り代わっている人とその人に殺された人と。


 俺とキュウとで、これら全てに対処しなければならなくなった。


 キュウにいったんモンスターを任せて、かわいいということとしにたくないということををしきりにわめく人間かモンスターか判別が困る生き物を結界の方に誘導する。話では結界はモンスターをはじくということだ。人間の部分は通るから、結界を通らせればモンスターに変化するのを途中で止められはしないかと考えたのだ。


 攻撃をそらして、時に誘導して。普通に戦うよりも神経を使ったが、何とか結界が見えてきた。


最後までお読みいただきありがとうございます。次の話も読んでくださるとありがたいです。

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