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命に貴賤はないのです

読んでくださるとありがたいです。

 始めの攻撃は、殺された女と親しかった、同年代の男性による攻撃だった。

 隣にいた友人が次の瞬間に死んでいて、その血を頭からひっかぶっているという、何の覚悟もしていない状態からこの悲惨ともいえる状況に放り込まれた割には、呆ける時間がほとんどなかった、躊躇のない一撃だった。ただ殺されたという事実だけを認識して、悲しいとか喪失感に浸るだとかそんな感情を抜きにして、むかついたから殴りたいという衝動を優先したように見えた。その一撃で呆然としていた他の班員も攻撃を仕掛け始めた。ここでもやはり戦略だとか駆け引きだとかをせずに、したいことをする欲求に従って、てんでばらばらに攻撃を仕掛けていく。

 最初に人が死んだこと以外は全くもっていつも通りだった。”いつも“の焼き増しだった。このままただ殴っていって、ダメージを与え続けて倒す。これまで通りで倒すことができる相手ならば、これまで通り死人が出ることもなかっただろうと半ば八つ当たり的に考えてしまう。自分だって、何の対抗策もないくせに。いや、俺も殺す、ではなく倒すという認識をしていた時点で、覚悟が足りなかったのだろうか。それとも、殺し合いをしているのだという自覚が足りなかったのだろうか。

 俺は本当に大したことはできないから、ちまちまと身体から切り離したエネルギーを、接触した瞬間に爆発するようにしてぶつけることしかできない。他の人も同じようなものだ。攻撃を当てては相手の攻撃を避け、また攻撃を当てていく。それの繰り返しだ。命がかかっていないのであったら、作業をおこなっている、とでも称したくなるほどに単調なものであった。それはもちろん攻撃するこちらにだけいえることではなく、相手方であるモンスターにも言えることであった。


 さて、それでは現実逃避をやめにしよう。


 そのモンスターは、女の死体をいじっていた。糸のようなものを体中から伸ばしていて、それで死体を宙吊りの形で固定していた。切断面がある首が下になるようにつるしており、それが動物であったのならば血抜きでもしているのかと問いかけていたことであろう。しかしあいにくながらつるされているのは人間で、仲間で、つるしているのはモンスターだ。まさか食べないよな?と、胸に一抹の不安がよぎる。が、それは後に全くの杞憂であったことがわかるのだが。いや、杞憂でなかったほうが良かったのかもしれない。理性もなく生き物の本能と欲求に従ってむさぼってくれでもしたら良かったのだ。そしたら俺らは、とある疑惑とそれに付随する恐怖には苛まれることはきっとなかったであろう。


 理性も何もなく、真性獣のようであればよかった。


 そうすれば。

 そうすれば、俺達はそのモンスターが発している音を、言葉だと認識することなく殺すことができたはずなのである。

 いや、わかってはいる。おそらく俺達はモンスターが理性を持っていない姿でも声を発していたらこれを言葉であると理解できてしまったに違いない。


「娘を直したいんです。」


 口であるのか穴であるのか判断がつきずらかった空洞を大きく動かして、そいつはそう言っていた。


 そう言いながら、死体の皮を丁寧にはいでいった。


 ぐちゅぐちゅと音を立てて、それはもう丁寧に。皮が少しずつ。でも素早く。果物のように。元々皮がむけるものであるように。


「娘をなおしたいんです。」


 皮がはがされたら次は筋肉のようで。細かい筋を一つ一つ。確かめるようにはがしていく。見ているこちら側がじれったくなるような程丁寧に。


「むすめをなおしたいんです。」


 最後の骨と臓物を。ばらばらにしないようにこぼれ落とさないように。丁寧に。ただひたすらに丁寧に。構造を確かめように丁寧に。医者の腑分けであるのかのように丁寧に。大事なものであるかのように丁寧に。


 不思議とそれが真実であるかのように、態度は真摯で。


 でも。


 それじゃあ。


「じゃあ、その治したい娘はどこにいるんですか。」


「あ。ああ。あああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝ァぁあああああああああああああああああああああああアァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」


 俺の零れ落ちた疑問の声を拾って、モンスターはただひたすらにうめいた。


「ひはっ。」


 しゃっくりのような、笑い声のようなものをこぼして、またうなり始めた。


「おれの。おれのおれのおれのおれのおでのおれのお〝れのおれのおれ〝のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。」


最後までお読みいただきありがとうございます。次の話も読んでくださるとありがたいです。

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