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平和ボケができることは幸せですね

読んでくださるとありがたいです。

半ば誘拐ではなかろうか、という徴兵から四か月が経った。結界に程近い建物で暮らすことにもいい加減に慣れた。肝心のモンスターとの戦いは、というと二か月の訓練をこなした後に二週間に一回のペースで結界の外に出ておこなっている。四回の出撃を経て、ようやくそれが当たり前のこととして享受できるようになった。そうなってくると後は学校に通っている時と大差はなかった。

それよりも驚いたのは、勇者に選ばれた人々の態度の悪さだ。これは初日から薄々わかっていたことではあるし、期待も特にはしていなかったが、それにしても酷かったのだ。学校に通っていた一般生徒の方がまだ人間として理性的であったと確信できる。蔑むつもりもないし、自分に大して自尊心もないのだが、俺はこいつらと一緒のくくりに入るのか、と考えると何とも言えない気持ちになってしまう。それほどまでに彼らの態度はひどいのだ。人間である、という思考力と我慢強さ、忍耐力などが根こそぎない。獣のほうがまだ話が通じるだろう。自分に生まれた欲求に素直すぎるのだ。耳をすませば武勇伝として、勇者に選ばれたとして政府の役人が迎えに来たとき、能力を使ってどれだけ痛めつけたかを意気揚々として語っている始末でこんな次第ではどちらがモンスターかわかりはしない。そんな経験をしたのであれば、そりゃあ銃を構えることが条件反射になっても仕方がないと思ってしまった。強力な能力を持つ代わりに人間性を代償にでもしているのだろうかとも考えてしまった。

もちろん、そんな腐った性根を補って余りあるほどに能力が強いのだが。そうでなければ徴兵されはしないだろう。兵器に人間性なんてどうでもいいだろうといわんばかりの彼らが使う超常とも、奇跡とも言えそうな力を見るたびに、俺の能力は正直言ってかなりしょぼいのだなと、もちろんおごっていたつもりなどはありはしないが、テンションが下がった。それと同時に、これだけの差があるのであれば、なぜ俺は勇者として選ばれたのだろうと疑問が湧き上がってくる。なんせ、自分よりも能力が攻撃に繋がっていないのではという、いわゆるしょぼい能力を持っているのはキュウだけなのだ。その事実に気づいた時、俺は351号室は落ちこぼれ組を集めた部屋なのかな、と思わず考えてしまった。すぐに、いや、キュウに失礼だったかとその考えを打ち消したが。

ちなみにキュウとは、そこそこの関係を築けている。要因としては何故かキュウが俺に対して好感度の上限を振り切れているということがその一つだ。ここまでくると自分は幼少期にキュウにあっていてそのことを忘れているのではないかとすら思えてくる。他にはキュウ以外の人物が仲良くしようという気持ちが完全に失せるほどにひどい性格をしているということがある。ダメ押しだったのが、キュウが執拗にいじめられている現場をバッチリ見てしまったことだ。無条件に慕われるのは理由がわからなくて少し怖いが、ほだされてきてはいたのだ。そこにとどめと言わんばかりに、守らねばという使命感が芽生えてしまって、今ではキュウがよっぽど変な言動をしなければ、友達といっても相違ないくらいには親密な関係になっている。

キュウが持つ能力は浄化の炎、だそうで他の人が持っている燃やす能力よりも明らかに火力が足りないのだそうだ。今のところ五人班でモンスターと戦っているが他の三人と比べてもやはり俺たちの能力は弱い気がしていた。勇者に選ばれた人々はまともに訓練しておらず、能力だよりにモンスターと戦っていた。それでも勝ってしまっていた。他の班がなくなったり、三人組になっていたりしているのはわかっていたが、やはりどうにも他人事だった。どこか真剣みが足りなかった。今まで大丈夫だったから、今度も大丈夫だろうという、まるで根拠のない自信だけがあって、そんな無意識的なおごりを訂正されないままに生き延び続けて、戦いから何も学ばずに、何も成長せずにここまで来てしまっていた。つまりは何も覚悟をしていなかったのだ。何もわかっちゃいなかったのだ。


命を狩るという行為を。


始まりの合図は特になかったと思う。特別なことなんかなかった。変わったことなんかなかった。いつも通りだった。少なくともそう感じていた。いつもというほどに回数は重ねていないが、それでも慣れてしまうほどには繰り返していた。ありていに言えば、油断していた。隙だらけだった。もっとも、隙だのなんだの言われたって、意識してそれを消せるほど俺らは戦いどころかまともに人間同士の殴り合いさえしてこなかったわけではあるが。まあ、自業自得とも言える。

だから、瞬きの間にいなくなった人が、その立場が自分であってもおかしくはなかった。運が良かっただけだった。反対側に並んでいたら死んでいたのは俺だった。

瞬きをしたら反対側にいた人が消えていて、反射的に探す。その、どこに行ったのだろうと探す手間をなくしてくれるかのように、その答えが降って来た。


文字通りに、血の雨が降った。


びしゃびしゃ、だか、びちゃびちゃと音を立てて流れていくその雨は、降る時間としては随分と短かった。にわか雨とも比べ物にもならないくらいには短かった。だが、その時間は盛大にまかれた血液が、致死量を越えて滴るほどの血液などもう体内には残っていないくらいになるには十分すぎたのであった。彼女であった骸からは締め切っていなかった水道の蛇口から水滴が滴っていくように、ポツリポツリと、時折思い出したかのようにして血を流していた。彼女が生きていないのだと確信を得るには十分すぎるほどの光景であった。

途轍もなくショッキングな光景ではあるが、意外と冷静さは失わなかった。あるいは、この一瞬で心だとか感性だとかを感じ取る部分が壊れてしまったのだろうか。何故か懐かしいとすら感じてしまって、自分のことが心配になった。そのくらいには冷静だった。

だからだろうか。それからのことを、俺は鮮明に覚えていた。

そして、キュウがかなり強いということも、わかってしまったのである。


最後までお読みいただきありがとうございます。次の話も読んでくださるとありがたいです。

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