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こんにちは、初めまして、久しぶり、ただあなただけを愛しています。

読んでくださるとありがたいです。

「こんにちは。」


 開いたドアの間から、朗らかに挨拶をされた。いったい何が可笑しいのか、そいつはニコニコと笑み崩れていて、楽しいですと体をすべて使って全力で表していた。服装は黒地に赤いラインが入ったジャージで、運動をして汗をかいたのか白いタオルを首元に巻いている。黒い髪に白い肌、赤い目と、学校にいたら確実に騒がれるであろう整った容姿は笑み崩れていても顔が無様に崩れることはなく、美形なのだなという感想を抱いた。

「僕が同じ部屋で過ごします。よろしくお願いしますね。」

「ああ。よろしくお願いします。」

 律儀にあいさつをされるので返すが、こいつ・・・。一向に視線が外れない。そんなにじろじろ見なくてもいいだろうに。初めて人間を見た、となってもこうはなるまいというような、熱い視線をもらっている。なんか、観察をしようっていうよりも、好きなものの細部を見逃してたまるか、というような目つきに見えるが。

いや、さすがにそれはないだろう、と内心で首をかしげた。会ってまだ三秒くらいだぞ?好きだとかそういう判断をする以前の話だ。まだ第一印象ですら定まっていないこの瞬間で、いったいこいつは俺に何を見出したというのか。

 多分、俺とは無関係のところで機嫌が良かったのだろう。そして俺のことをその機嫌を引きずったままに観察をしているのだろう。あまりに熱心に観察していて、かつ機嫌がいいものだから俺自身を好きで見ていると錯覚してしまっただけで。俺はこいつを知らないし、会った瞬間に盛大に好かれるなんていうのは、ちょっとどころでなく気持ち悪いから。こんな、同じような年ごろのやつでも結界の外でモンスターと戦っているわけだから、戦闘員としての人を観察する癖があって、それを発揮しているのにすぎないのだろう、きっと。

自意識過剰である、と自分の心をなだめながら、何か用か?と聞く。

「いえ。そういうわけではないのですが。気に障ってしまいましたか?」

 しゅんとして、と表現してもいいほどに俺の一言で、しかも否定の言葉でも何でもないただ要件を聞くだけのことで、目に見えて落ち込んでしまい、うろたえる。自分の言葉で一喜一憂されるという体験はしてこなかったために、対処法を知らないのだ。

「え、いや、別に、気に障ってはいないけど。なんか、ずっと見てきているから。」

 何か話したいことでもあるのかなと思って、と付け足す。

「要件としては次の訓練が全員参加のものなので一緒に行きましょう、ということとそれにはまだ時間がありますのでそれまで、良ければ僕と一緒に話でもしませんか?というものす。」

 ニコニコと笑み崩れて、そいつはそう提案をした。


**********


 何が楽しいのか、ニコニコと笑み崩れて会話をする。あんまりにも楽しそうに質問をするものだから、毎回返事をするほかなかった。


「どこの学校に通っていましたか」

「中央都市管理東方の第三学区校」

「学校は楽しかったですか」

「別に。」

「趣味は何ですか」

「読書?」

「甘いものは好きですか」

「嫌いじゃない」

「これ食べます?」

「いい。」

「いりませんか?」

「じゃあ食べる。」

「おいしいですか」

「まずくない」

「好きな時代ってありますか」

「結界以前」

「好きな植物は何ですか」

「タンポポ」

「好きな時間帯はいつですか」

「夜明け」

「好きな季節は何ですか」

「夏」

「好きな色は何ですか」

「ピンクと赤色は嫌い。」

「好きな食べ物は何ですか。」

「しいて言うのなら牛乳」

「好きな人はいますか」

「いない」

「好きなタイプはどんな人ですか」

「面倒くさくない人」

「今なんて思っていますか」

「こんな会話してお前楽しいの?って疑問に思ってる。」

「ではこれで質問を最後にしますね。僕のことを、覚えていますか。」

「俺はお前と会ったことはないと思うが。」

 雲行きが怪しくなってきた問答を否定で終わらせても、そいつはニコニコと笑み崩れていた。俺と一緒にいることが嬉しくてたまらないとでもいうように。やっぱり、こいつちょっとおかしいか気持ち悪いやつかもしれない。今からでも部屋替えの希望を出すべきだろうか、と引き気味に考えているとねえ、と話しかけられる。

 まだ何か話すことがあるのかよ、とうんざりしながらもこういうタイプは無視するとさらに面倒くさくなるだろうと予想がつく。故に、何、と返事をした。ついでにそっちを見やると変わらずにニコニコと笑み崩れながら言いはなった。

「僕は全く気にしていませんが、あなたが少しでも気にしているというのであれば、一つだけ、お願いがあります。」

 何を言われているのかわからなかった。

 見事なまでに変わらない笑顔を見ながら、いったいぜんたい何を言っているんだこいつは、と考える。数泊置いてこいつのことを覚えていないことに関してか、とあたりをつける。いや、俺はお前と会ったことはないと思うんだが。俺の当惑をよそにそいつは話を進める。


 僕はあなたに名前を付けて呼びたいのです、と。


 はあ?という間抜けな声が自分のものだと一瞬理解できなかった。

「名前なんて一昔前の、それこそ結界ができる前の文化だろ?なんでつけるんだ。無くても支障はないんだからなくていいだろ。それに名前を付けることは推奨しないって、政府が発表しているじゃないか。」

「禁止はしていないので大丈夫です。僕は、これからあなたのことをアイラと呼びます。」


 女性名だろ、それ。


 喧嘩でも売っているのだろうか、こいつは。そう考えたら、どこかの線がプチっと切れた音がした。ありていに言えばむかついた。

「じゃあ、お前はキュウな。」

「え?」

 その勢いのままに、対して考えもせずに口を開く。

「伝承の吸血鬼みたいな姿をしているから、吸血鬼のキュウだ。お前の名前なんて、そんなものでいいだろ。」

 鼻で笑うように言い捨てて、どんな反応をするのかな、と見ていると、みるみるうちに目が大きくなっていく。瞳孔さえ心なしか開いてきているように思えて、そんなに怒るのか、さすがに名前を適当につけすぎただろうか、と慌てる。今でこそ名前なんて文化は存在しないものの、結界以前の文明では誕生して一番最初に送られるもので、その人の本質、誠の名というのは魂さえ縛ってしまう強力な祝福にも呪いにもなると言われているものだという。

 さすがに適当すぎただろうか。好感度が何故か高いから多少雑に扱っても問題はないと思っていたが見誤っただろうか。そんな俺の不安をよそに、んふふ、という声が聞えた。

「そうですよね。」

 何を言っているのかと、そらしてしまっていた目線を戻すと、そいつはうっとりと、それはもうよだれをたらさんばかりに恍惚とした表情をしていた。


「アハッ」


普通に怖い。誰か助けてくれないだろうか。


最後までお読みいただきありがとうございます。次の話も読んでくださるとありがたいです。

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