運命は扉を三回叩く
遅れました。読んでくださるとありがたいです。
どんどんどんどん、という何かがぶつかっている音で目が覚めた。
もう一度どんどん、と繰り返されて、そこでようやくドアをたたかれているのだと気が付いた。開けなさい、とドア越しに訴える声はどこか緊張感すら感じられるもので、このまま降伏宣言を、銃を片手にした凶悪犯罪者にでもするのだろうかとどこかおかしく感じられた。そのくらいに余裕のない声だった。ただの学生に大人が何をしているのだろうと思ったが衝動に任せてこのまま返事をせずに笑うと本当に突入されかねないので、仕方なく笑わないように頬の内側を嚙みながらドアを開ける。
「手紙の表示を。」
一瞬何を言われたのかわからなかったが、青紙のことか、と思い当って部屋に引き返す。青紙は、大昔に人類同士で戦争をする時に徴兵を知らせるときに使われたという赤紙から取った別称だ。正式にはただの手紙と呼ばれているのだなと男が発言したことからわかり、そのことは初めて知った、政府も赤紙を意識しているようなのに、と考えながら青紙を探し当てた。ちなみに青紙はテーブルの下に落ちていた。ありました、と声を上げながらはいつくばっていた姿勢から玄関の方を見やる。すると男はなんと土足で部屋に入って来ており、思っていたよりも近くにいたことに驚き、思わず目を瞬かせた。
一定の距離を保ちつつ油断なく俺をじっと見つめ、胸元に手を当てている様子から、本当にこいつはいったい何におびえているのだと疑問に思う。俺が化け物にでも見えているのだろうか。
いやに警戒されつつも手紙を相手に見せると、外に出ろ、と命令された。この時点で俺は気分を害した。訳が分からないままおびえられてそのくせ命令されて、しかもこの行為はさえぎってはいけなくて。
「はあ?」
そんなに大きな声ではなかったと思う。それでもその声はしっかりと男の耳にも届いていたようで、それがなぜ分かったかというのはひとえに男の行動からの推測である。
銃をかまえる、という。
おいおいおい、冗談じゃないぞと冷や汗をかいた。とっさに両手を顔の横に手のひらを見せながら上げる。分かりやすい降伏宣言。胸元に手をあてていた時点で薄々そうなのではないかと感じていたものの、いざ目の前に突き付けられるとやっぱり違った。相手の行動一つで、いや、指を曲げるだけで俺をどうにもできるという緊張感。それと同時に、違和感が俺を襲う。何故こんなにも警戒されるのか、というその一点が気になる。俺はただの学生でしかないのに、政府の役人である、俺よりもガタイのいい大人が不満の声をあげられただけで銃を即座に構えるということの異常性。俺は犯罪者でないぞ、と思いながら男の目を見つめる。
そこには紛れもない、純粋な恐怖だけがあった。
ここまでおびえられるとなるとやはり異常だ。相手のほうが優位な立場にいるというのに。まあ、それをひっくり返すこともできるにはできるのだが、やりたくはない。もちろん、このまま無抵抗に打たれるのは納得がいかないが、政府の役人に逆らったとなると結界を維持している政府にももれなくはむかってしまうことになるのでやりたくはないが。政府に逆らったら生きていけないのだ。そんな愚行は犯したくない。そんなことをつらつらと考えながら目を合わせていると、深くため息をはかれた。その吐息が震えていたように感じるのは己の精神安定のために無視することにした。
「外に出て、黒いジープに乗ってくれ。身一つで来てもらう。家の物は持ち出せない。」
おびえている割に、言っている命令は随分強気なんだよな、こいつ。
家のものを持ち出せないのは不満ではあるが半ば分かっていたことではあるし、無抵抗で促されるまま移動した。
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補導されていない荒れた土地を移動しているからか、時折跳ねる車体に、それに振り回される挙動を見張られる監視体制はストレスが貯まる。
車には俺に銃を構えた役人と、同じ格好をした役人、その二人に向き合うように俺が座っていて、運転している人を含めて合計四人でジープに乗っていた。結界の中心に向かう道とは反対方向、つまり結界の外へと車は進んでいき、とうとう旧市街地を越えて荒野である立入禁止区域を走っていた。その中で、憂鬱な気持ちを抱えながらも車は進んでいった。
俺に銃を構えなかった方の役人が録音機であろう機械を取出し、スイッチを押した。
「人民No.は?」
何を聞かれるのかと、面倒くさいことでなければいいが、という思いは叶ったのか、酷く初歩的なことを聞かれた。
「2864-1283、Aの11。」
「能力は?」
「エネルギーの生成、またそれを操作すること。」
「年齢は?」
「17」
「これから人類を救うことになるわけだが、それについてはどう思っている。」
お前らが資料漁った方が早いんじゃないのかというような無駄で考えない問答はここで変化した。どう思っているのか、だって?お行儀よく光栄に思っていますとでもいえばいいのか?どうなんだ、という促しとつきましたよー、という運転席からの声で、しかたなく本音を言った。
義務だからやりますけど、無駄だと思うしどうでもいいです、と。
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ジープから降りると結界が壁のように見えて、本当に結界の外に出て戦うのだなといまいち実感がわいていなかったことがダイレクトに突き刺さってくる。
降りたところの目の前には横長の大きな建物が広がっており、騒々しいとまではいかなくともかなりの物音が響いてきた。怒号、悲鳴、爆笑、爆発音、衝撃音。学校の何倍もうるさい。というか建物の外からこれだけ聞こえているというのは、どれだけ騒いでいるのだろうと、先ほどとは違った意味で不安になってくる。役人を見ても全く動じておらず、これが通常なのだという嫌な保証を得ることができた。
お前の部屋は351号室で、部屋は二人部屋でどこも同じなのだという雑な説明と鍵、この建物の地図だけを渡されて役人はまた車に乗り込んでどこかへ去っていった。
結界の境界線が入っている、建物の大半が訓練室なのだとわかる地図を片手に自分の用意された部屋に入った。
ため息をつきながら自分のではないもう一つのベッドを横目に寝転んで、同居人は面倒くさくない人がいいなと思いをはせているとこんこんこん、とドアがノックされた。今考えていた同じ部屋を使う同居人であろう。起き上がってどうぞ、というと丁寧に扉が開かれていった。
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