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優しいあなたが好きです

読んでくださるとありがたいです。

「愛しています。」


どうしようもないほどに、あなたを愛しているのですと囁かれて、アイラ様は泣き始めた。それほどまでに嫌だっただろうか、と覚悟はしていたが密かに落ち込んでいると、嗚咽交じりに違う、違うの、という。


「うれしいの。どうしようもなく、嬉しくてたまらないの。愛してるだなんて、初めて言われたから。」


その言葉に、虚を突かれる。

「いま、なんて?」


「愛してるって、言われたことはないよ。

愛されている自信はあった。愛しているという確信もあった。

でも、何も言ってはくれなかった。愛を囁かれることはなかった。私は向けられている愛に、確信を持つことはできなかった。オズヴァルトは私と一緒で大きく感情が動くことがないけれど、愛してくれていると、愛されていると、そう思っていた。私よりも頭の良いオズヴァルトが言葉にして告げることがないのだから、それは伝える必要がなかったか、そんなものは存在しないかだ。伝える必要がないというのも、それがあることが必然だからか、言わなくても確信を抱いているからか、それとも言わなくていいと判断したのは私に愛を確信させないためで、その理由としてはその愛が不確かなものであるか、不都合なものであるか、だ。私は二分の一よりも低い確率に賭ける勇気は持たなかった。私が愛されたいないのだという確証を得てしまうのが怖かった。笑ってよ。私は何事にも無関心で、でもだから愛されることなんかないってわかっているのにいざ愛されていないってはっきりするときっとどうでもいいなんて言ってられないから予防線を張って防いで。必死になって傷つかないようにしていた。怖いんだよ。怖かったんだよ。」


何かの間違いじゃないか、と言いたくなった。だって。


僕は、寝ているアイラ様に対してオズヴァルトが愛をささやいている場面を確かに見たのだ。


「オズヴァルトと一緒にいる時は緩やかに感情が動くのだけれど、こんなにも激しく感情が揺れたのは初めてだ。」


でも、涙交じりにそう言うアイラ様に、それを告げる気にはならなかった。


「ねえ、もしも次に会ったら。愛するということが分かっていなかったら。ののしってよ。詰ってよ。人一人にこれだけ慕われておいて、愛されることがわからないだなんて噓だ。」


うるんだ眼をしながら笑っているアイラ様に僕も笑い返して、短剣を振り上げた。


「おやすみなさい、アイラ様。次に目が覚めるときは、もう少し生きやすくなっていることを願います。」


こうして、僕らは死んだ。


++++++++++++++++


ぱちくり、と目を瞬かせる。僕の能力を使って僕とアイラ様を転生させたから、アイラ様も失敗していなければ転生しているはずだが。何分初めて意識して能力を使い、他人にも使うという初めて尽くしなのだ。不安にもなるというものだ。


結果から言うと、アイラ様は転生していなかった。


アイラ様の死体が、モンスターと呼ぶ異形から人類を守る結界の核にされているからだ。


輪廻転生させたはずだが、死体を使っていたので輪廻の輪にのせきれずにいるらしい。

最悪の場合には人類を守っている結界を壊すことを覚悟しなければならない。


オズヴァルトは何をしている、というと特には何もしていなかった。ただ、アイラ様の死体をいじって結界を張っただけ。


いっそのこと結界を壊したかったがどんな理由であれアイラ様が守りたかった人類を滅ぼしたくはない。人類はどうでもよかったがそれによってアイラ様が悲しい顔をするということが耐え切れなかった。


オズヴァルトに向ける怒りと共に、結界を壊さずに転生ができるようにと能力を何とかコントロールしようと特訓する日々を送った。


ずるずる、と時間が過ぎていく。

恐らく自分が記憶を完全に持ったまま転生できるようになった。

ずるずる、と時間が過ぎていく。

恐らく自分以外の人間も完全に記憶を持ったまま転生できるようになった。

ずるずる、と時間が過ぎていく。

恐らく記憶を持たないままの転生をできるようになった。

ずるずる、と時間が過ぎていく。

恐らく他人に記憶を持たせないまま転生できるようになった。

ずるずる、と時間が過ぎていく。

人間の業を浄化する炎を出せるようになった。

ずるずる、と時間が過ぎていく。


もう、できることはなかった。


というか記憶をなくして他人を転生できるようになった時点でアイラ様の所へ行っても良かった。記憶を持たせたまま結果維持して転生させることは無理だが記憶をアイラ様の死体に定着させたまま結果の維持をさせて、記憶のない状態で転生をさせることができる。その後で転生した体に記憶を入れて結界を張り直してもらえばいい。

記憶を死体から取り出して定着させるには、動揺させた後に死の直前を連想させるような出来事を起こして死体を浄化の炎で燃やせばいいはずだ。死体を燃やすのは別に浄化の炎でなくとも良いからもっと早くに行けた。行くことができた。それをできなかったのは、しなかったのは、ただ単純に、怖かったからだ。


アイラ様を殺したという罪を直視するのが。

アイラ様の死体は、僕はアイラ様を殺した直後に死んだからじっくりと見ていない。だから、死体を見て改めて僕が殺したのだという罪を突き付けられるのが恐ろしいのだ。


自分の罪が形になってしまっているのを直視するのが怖かった。

認めたくなかった。わかりたくなかった。アイラ様の犠牲を。自分が殺してまで解放しようとしたのに。

死んでからも人類のためなんかに利用されて。これじゃあ何のために殺したのだかわからなくなってしまう。僕が犯した罪の意義がなくなってしまう。オズヴァルトはアイラ様をかわいそうだとは思わないのだろうか。解放してあげたいとは思わないのだろうか。

彼女を犠牲にしてまで生きる価値が、はたして人類にあると、本気で思ってるのだろうか。

一人が支えて生きている、そんなもろい世界なら、別に滅んでもいいだろう。

それともアイラ様は、必要な犠牲だったとでも言うつもりなのだろうか。そうではないのだろう。オズヴァルトだってそうわかっているから結界の核でありながらも見えないところにアイラ様をしまっているのだ。

いっそ、壊れてしまえとは思わないのだろうか。それともアイラ様のことを言い訳にするのだろうか。まあ、オズヴァルトはそれができないからアイラ様の死体を利用してでも人類を守るために結界を張ったのに人類救済には動かない、だなんて中途半端なことになるのだろうけど。

この世界が憎いとは思わないのだろうか。アイラ様を犠牲にして成り立っている、この世界が。

アイラ様がずっと犠牲になり続けるだなんておかしいとは思わないのだろうか。もしも思うよ、何て言ったらお前が犠牲にしたんだからお前が言うなよって、お前にいう資格はないって殴りつけたくなるから肯定はしないでほしいが。


ああ、僕は結局のところアイラ様に思われているあなたが憎いのだ。


それでもやっぱりアイラ様のことを愛しているから何も出来はしないのだが。


この身に抱いているのは、はたして愛と言える感情なのだろうか。それは愛というには利己的で恋というには穏やかで好意というには狂気的だ。きっとこれが、どうしようもないほどに好きである、ということなのだろう。


アイラ様に免じて害は与えないが、精いっぱいの嫌がらせを決めようと、棺桶に入ったアイラ様の死体を見て思った。


++++++++++++++++


結界をまばゆいばかりの光とともに再構築をして、アイラ様がしゃべる。


「キュウに質問に、私は、いや、俺は答えよう。世界は滅びるべきではない、とね。」


やたらと啞然とした顔で、おそらく何が起こっているのかわかっていないながらも、世界は、というか人類は滅びるぞ、と言ってくるオズヴァルトを無視して、キュウ、とアイラ様に呼びかけられた。


「どうせ、キュウは何か思いついてるんでしょ。じゃなきゃこんな質問はしない。」


無意識で寄せられている絶大な信頼に、自然と笑顔になってしまう。


「僕の能力で、膨大なエネルギーが必要になりますが人の業を浄化出来ます。人類を半分犠牲にすれば世界は回りますよ?人類の半分の魂を使ってもう半分の業を浄化出来ます。」

「意地悪言わないの。」

そう言って呆れた表情を作った後に、すぐにはっとした表情へと切り替わった。

「私がエネルギーを生み出すんじゃダメなの?」

「全くもって足りないのでその発想はひっこめてください。」

間髪入れずに否定した。なんですぐそんな風に考えるのかな。アイラ様が犠牲になるのが嫌なのに。

「じゃあ、妥協案として私がエネルギーを操作して、業を浄化するエネルギーを業からとるようにするよ。」

「そんなこと可能なのか。」

「うん、できるよ。ただし、これは先延ばしにするだけで根本的には何も解決していない。僕の能力も浄化されてなくなるから世界の危機を覚えておく必要があるんだよ。それと一斉にやらなくちゃ意味がないから一時的に全人類が滅びるけど。」

その提案に、やっと事態を飲み込んだのかオズヴァルトが発言する。

「じゃあ。俺が転生しないで。根本的解決策が生まれるまで。待ってるよ。不老だから。最適だろ。一斉に死ぬ手段も。生物に有害な爆弾がある。一応解毒剤も持ってる。」

「何でオズはそんなの持ってるの。」

「・・・趣味だ。」

いや、だって死にたかったからとか考えたのだろう。そう顔に書いてあった。それを口に出したら何が何でも殴っていたがそんな気遣いのできない人間ではなかったようで安心した。自分でも下手なごまかしであるとわかっているのか、ごまかすためにじゃあやるぞ。と言ってくる。本当にボタンを持っていて、片手には錠剤があって。今にも押される、という時にアイラ様がオズヴァルトに聞いた。


「ねえ、退屈はしなかった?」


「ああ、しなかったよ。」


次の瞬間、爆風が体を襲った。



エピローグ


外では眩しいと感じる陽光がステンドグラスに通ってきれいな色をしている。目を細めながら眺めていると声が聞えた。

司祭様、と呼びかけられたので振り返ると最近ここに引っ越してきた若い女の人がいた。どうされましたか、と聞くと、子供を紹介しに来ました、というがその肝心の子供が見当たらない。すみません、人見知りで、と自分の足元に呼び掛けているからスカートの中に隠れてしまったのだろう。母親がもう一回呼び掛けて子供が出てきて、こちらを見る。


その子供は若葉色の瞳を瞬かせて言った。


「アイラって言います。四歳です。」




蛇足


「妹に触るな!」

思わず吸い込まれるようにして伸ばした手は、協会に駆け込んできた小さな子供がはじいた。

すみません、と謝る母親に、気にしていませんよ、と告げる。その上でこの子は?と聞くとアイラの兄です。名前、自分で言えるよね、と母親が促す。その言葉に説得されて、不満そうにこちらをにらみ上げて言い放った。


「キュウ!五歳!」


最後までお読みいただきありがとうございます。これでこの話は完結しました。

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