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あなたの笑顔をもう一度

読んでくださるとありがたいです。


 アイラの転生した姿である青年がこちらを見て、目を瞬かせた。大方、状況が理解できていないのだろう。


「タイミングをずらしてここに来いって言うから来たんだけど、これ、どういう状況?」


 まだアイラの棺桶の横に立っている奴隷はそこから動かずに、にこにこと笑み崩れた。


「ああ、アイラ様!今日はね、君に判断を任せたくて!


 世界を滅ぼすか否か、のね。」


「そんなことを言われても。」


 困ったように若干眉根を寄せて首を振っている。そうだよな、そんなことを突然言われたら困るよな。


「どっちだっていいんでしょう?」


 アイラの転生した姿である青年が、何かを言おうと口を開く。それをふさぐように、また何かを語りだした。


「いいえ、まだ何も言わないでください。ちょっと僕の話を聞いてください。その後で、是非とも言葉を聞かせてください。ねえ、アイラ様。みんなが気持ち悪いよ。全員で狂ってるんだよ。自分の欲望に。消せ切れない罪に。浄化できない業に。」


 なんで様づけで呼ぶんだ?そう呟いて首を少し傾げたが、まあいいや。とアイラの転生した姿である青年は、話の内容には突っ込まずに傾聴するつもりであるようだ。そうなると俺には手を出すことはできなくて、必然的に俺も話を聞くこととなった。


「ありえないですよ、アイラ様。ねえ。2人殺した人を、ノータイムで救う方法を考え出したでしょう。どうやったら目の前で人を殺した異形の存在を助けようなんて思考になるんですか。そんなんだから、あなたは。」


 そこまで言っていったん言葉を切り、ふーっと細く息を吐いて緩く首を振る。いいえ、これは関係ありませんでした。今言ったことは忘れてください。そう断って、また語りだした。


「僕、明らかにおかしかったでしょう?何で聞いてくれないんですか、怪しんでくれないんですか。僕のことなんかどうでも良かったんですか?明らかに昔にあったことがあるか、前世で関係者で、僕はそれを覚えているって、少なくとも僕がそう思って行動しているってわかるでしょう。あれだけ分かりやすくヒントをちりばめたんだからわからないはずがないですよね。それなのにそのことについて全く言及がなかったのは、僕自身にあなたがわざわざ質問するほどの価値を見出さなかったから。」


 それは違う、とまで口まで出したところで、しーっと指を立てて静かに、と合図を出していた。それはどこまでも優しさがあふれる丁寧な動きであったが、同時にどこまでも冷たい拒絶が含まれていた。今は返事は求めていないと、しゃべるなと目が語っていた。


「そうではないと、あくまでも主張するつもりですか。そう言うのならば、じゃあ教えてください。今まで一緒に戦ってきていた人たちは、どんな人たちでしたか。」


 はくり、と静かに息を吞む音が部屋に響いた。


「答えられないでしょう。わからないでしょう。知らないでしょう。どんな顔をしていましたか。どんな性格をしていましたか。身長は。体格は。食べ物の好き嫌いは。趣味は。能力は。髪色は。目の色は。ねえ、答えられないんでしょう。分からないでしょう。知らないでしょう。知ろうともしなかったんでしょう。興味ないから。知ってましたか?名前を付けるのは、魂に形を与える行為だから、業がつきやすくなってしまうから、政府が取り締まったけれど。仲良くなると、みんなあだ名をつけあって 呼んだりはしていたんですよ。目の前で思いっきり呼びあっていましたよ。識別番号は、呼び合うには不向きなんですよ。仲良くなりたいと思ったら、愛称をつけていましたよ。あなたは他人に無関心だから気づいてもいなかったでしょう。」


 まるで歌うように軽やかに断言した。


「あなたは他人に興味がないんです。あなたは人のことなんかどうだっていいんです。とある人が言っていました。愛の反対は無関心で、聖人と呼ばれる人は頭が狂ったお人よしか他人に興味がない人間だ、と。それは僕も真理だと思っています。全てがどうでもいいから、どこまでも優しくなることができるんです。例えば怪我を他人が原因でしても痛みなんかどうでもいいからその他人が許せる。例えばお腹が減っても食事がどうでもよくて興味なんかないから食欲もわかないから、満足にご飯を食べることができないときに食べ物を分け与えることができる。例えばいたずらでものを壊されてもその物に興味が持てないから許すことができる。例えば殺されたとしても、全てがどうでもよくて興味なんか湧かなくて生きる理由がないから許すことができる。できてしまうのでしょう。

 あの優しさは噓だったんですか。僕にあなたが与えられた愛情は全てが錯覚ですか。あなたは僕に対してなんとも思ってなかったんですか。僕が目の前で死んでも気にしませんでしたか。たとえそうだとしても。僕があなたにとってどうでもいい存在なのだとしても。

 それでも僕は、他でもないあなたに救われました。あなたが。あなたに。あなたは。僕は。あなたを愛しています。」


 今まで浮かべていたにこにこと笑み崩れていた笑顔とは程遠い、少し引きつった笑いだったがその笑顔が、今まで見せてきた中で一番きれいな表情だと感じた。


「僕はただ、もう一度君が笑っている顔を見たかっただけなんです。欲を言えば僕があなたを笑わせている顔を見たかったんです。愛しています。ただあなたを愛しています。あなただけを愛しています。他の人なんてどうでもよかった。あなたが気にかけているから。愛しているから。だから。それだけです。それだけなんです。僕はあなた以外誰も愛していません。あなたが世界を救うというから、僕はそれに付き合っているだけです。世界なんてどうだっていいんです。ただ、世界を救わないとあなたが笑ってくれないから。だから救う、ただそれだけなんです。あなたは、黙って僕に愛されてください。あなたが愛してくれたのです。あなたが始めたのです。僕はただあなたにもらった愛を返すだけです。」


「愛しています。」


 そう言ったら、アイラが収まった棺桶ごと燃やした。一瞬で黒く炭化したそれに手を伸ばすとぼろぼろと崩れ始めた。何をしている、と怒鳴ろうとすると斜め後ろから眩しい光が差した。


「お疲れ様、ありがとうね、キュウ。」

そう笑ってアイラの転生した姿である青年は、いや、アイラは、結界を張った。



最後までお読みいただきありがとうございます。次の話も読んでくださるとありがたいです。

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