あなたを愛していると、信じさせてください
読んでくださるとありがたいです。
青年をアイラだとは思えなかった。
目が覚めたら一回会っただけの研究員に抱えられている、というわりにはリアクションも驚きもなかったし、そこは面白いとは感じたが。
何も感じなかった。
驚いてしまうほどに。
俺がショックを受けなかったということに、ショックを受けた。あれだけ恐れていたことはいったい何だったのかと。アイラのことでショックを受けないほど、俺の中ではどうでもよくなってしまうほどの存在だったのかな、と。そして、そんな、どうでもよくなってしまうくらいの奴との約束を守ってずっと死ねなかったのかと。そんな軽い存在が俺をずっと苦しめていたのかと。
普通に死にたくなった。今すぐにでも死にたかった。
俺のやってきたことは何だったのかと、今まで生きてきたのは何だったのかと。今まで何のために生きていたのだと。生きる理由全てとまでは言わないが、美しい思い出は美しくそのままであってほしかった。結局のところ虚像が一番なのだとわかってしまった。夢は現実に降りてこないから美しいのだと、そう諦めた。そもそもアイラとの思い出が虚像になってしまっている時点で、アイラが俺の中で少なからず美化されてしまったのだろう。だから夢になってしまっている過去を現実に引っ張りこんでも、こんなものかと拍子抜けしてしまうのだろう。そういうことだ。別に何もおかしくなんかない。当たり前のことだ。何百年も前のことを、過去に、思い出にすることは当たり前のことだ。むしろそれができないやつは絶対におかしい。
頭では理解できる。理屈ではわかる。でも、心が知りたくなかったと嘆いて魂が悲しいとわめくのだ。
静かに絶望をしているさなかで、奴隷がいっそ冷たいと感じる呆れ顔をしているのが視界に入った。
これからどうしよう。これからのことをどうしよう。
生きる理由がない。が、死ぬ理由もない。
アイラが記憶の中のアイラでなくなってしまったことを理由にするには、時間がたちすぎていた。燃えるような激情は、俺にはもう残っていない。死にたい死にたい死ねないと、問答を繰り返してすり減らされた魂には、擦り切れた心には、目前に迫ったゴールを前にしてもう一度他のゴールを作る事から始める気力は、もう残っていない。時間が傷を癒してしまっていた。
今まで頑張って死ななかった事の、支えに裏切られた気分になったからと言って世界を積極的に滅ぼすには、それがお門違いだとわかってしまう理性が残ってしまっていたし、世界の滅亡が目前に迫ってしまっていた。もう何もしなくても、何ならここで今自分が死んでもすぐに終わるとわかっている世界をわざわざ力業で滅ぼそうとすることに、いったい何の意味があるのだろう。わざわざここで死んでもすぐに世界ごと滅びるのだし、しいて今死ぬメリットはない。
生きる理由ではなくなってしまったがかと言って死ぬ理由もなかった。
そうして、俺はまたずるずると生きてしまうのだ。
何かと理由をつけて、生きてしまう自分が面倒くさくて嫌いだ。本当に、死ぬ理由もないのだけど。今まで死にたかったのは終わりが欲しかったからで、それが明確に目視できる今、わざわざ死ぬことを少し前倒しにしても意味はないとわかってしまっているわけで。
酷く、吐き気がした。
結局、俺が愛していたのは俺の中のアイラなのか。
今すぐにでも死んでしまいたいのに、死ぬ理由は特になかった。
今すぐにでも滅びねえかな、世界。計画がめちゃくちゃになってもいいから。何もかもがぶっ壊れてもいいから。半ば自棄になっていた。全てがどうでもよく感じた。
何もすることがないから、アイラを観察することにした。
何でそんなに思考がねじれたのか自分でもよくわからなかったが、別にやることもないので暇つぶしにでも、と毎日毎日飽きもせず、仏頂面を眺めてみた。
空き時間には読書をしていた。やたらと小難しい哲学書や心理学の本を読んでいると思ったら次の日にはコメディー漫画を読んでいた。ちなみに、どちらも寸分たがわぬ真顔で。食事の量は少し少なめだったがおやつは多めに食べていた。青色が好きなのか、運動するときに着ているのは青色のジャージがほとんどだった。朝には一杯牛乳を飲んで、それからサラダを食べ始めていた。アイラを殺した奴隷以外とは親しくないようで、誰も近寄っていく人はいない。アイラを殺した奴隷以外と話しているところを見たことがない。この状況ではそれも仕方がないのかもしれないが、アイラはむしろこのような状況下の時こそ頼りにされて人に囲まれていたのだが。そういうところは似ていないのだなと、そういうところこそがアイラの特徴なのに、と語り掛けたい気持ちになってしまう。普段の仕草だとか趣味嗜好だとかは似通っているが、こいつに優しさなんてありゃしないじゃないかとふてくされたくなってしまう。アイラのかわいい笑顔が見たい。こんな仏頂面の野郎の面を眺めても楽しくない。それでもすることがないから見続けていた。
そうやって観察をして、時間が経った。
特に前触れはなかったが、暴動が起こった。逆に今までよく持ちこたえていたなとは思うけど。
感情がパンクする。不満が噴出する。緊張が破裂した。限界が来たのだ。
命がけで強制して戦わされて、しかも条件はわからないが自分は倒しているモンスターに変化するらしい。しかもつけられている首輪は爆発する。ただでさえ感情的になりやすいのにここまでストレスを与えられたらたまったものではない。
そうして、建物は混乱に包まれた。
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