あなたを愛しているのです、信じてください
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目の前で、アイラを殺したことを笑って肯定するこいつが憎かった。どうして生きているんだとか、なんで関係のないやつをかばったんだとか、なんでお前が死んだ後のことも知っているんだとか、聞きたいことは湯水のように湧き出てくるがそんなことはどうでもよかった。それほどまでに、ただ憎かった。許せなかった。出来れば俺の手で、ほかでもない俺自身の手で殺してやりたかった。
なんでアイラを殺しておいてへらへらと笑っているんだ。そんなことができるんだ。アイラの唯一の奴隷と名乗った男は、あの時代に確かにいた。俺も覚えている。だからこそなお解せない。本当にどうしてアイラを殺したのだ、と。
あいつは心からアイラのことを慕っていたはずだ。あの時代に生きていた他の連中がいたとしても同じはずだ。全員アイラに救われた。あいつの笑顔が好きだった。あいつの誠実さにほだされていた。アイラを殺すだなんてそんなこと、気がくるっても考えようがないのである。それなのにあいつはやった。やりやがった。連絡が取れなくて不信感を覚えて屋敷についたら、生きている人間はそこには既にいなかった。気が付いた時にはもう手遅れで、俺に残されたのは冷たくなった骸と、万が一に備えて残していた遺書だけだった。アイラの横で幸せそうに血を吐いて死んでる男を苛立ちまぎれに蹴り上げた。こいつがアイラを殺して、その後追いをしたのだ。状況的にそのことは明らかである。夫婦でもないくせに心中だと?憎くて憎くてたまらなかった。今すぐにでも自殺したかったが遺書に書かれている内容がそれを許してはくれない。
単純に、彼女が殺されて憎いというよりも、彼女が奪われて憎いのだという嫉妬心を心のそこに押しとどめて。そうして生きてきた。彼女の指示に従うことだけが救いだった。彼女の指示を全うして、そうして彼女に胸を張って死にたかった。時折腐敗しないように加工をされた遺体に縋りついた。だましだましで何とか生きてきた。
そうやって頑張って何年も何年も生きて、ようやく違和感に気がつく。自分のことに無頓着すぎて気が付けなかった。自分のことなんかどうでもよすぎて気にしていなかった。でも、さすがにこれはおかしいとわかってしまう。
今、俺は何歳だ。
俺は、アイラと出会う二週間前からしか、記憶がない。そのときすでに十代後半の見た目をしていた。見た目はそれからほとんど変っていない。だからこそ気づきにくかったともいえるが。アイラが子供から大人になって。聖女様と呼ばれて。人類救済を目指して。計画自体は成功して。アイラが殺されて。アイラの指示に従って。何十年が経った?
俺がアイラに会った歳を十歳としても、もう百年になってしまうぞ。ちなみにこの時、平均寿命は六十歳だった。俺の見た目は二十代にしか見えない。
疑似的な不老だ。
これが俺の能力か。怪我はできるし、そしてそれは人並みの回復力なので不死ではないことが唯一の救いであろうか。死ぬことはできる。できるが、しかし。
遺書には自分から怪我や自殺はしないことを約束してくれと書いてあった。生前、アイラには俺の約束で縛り続けていたので、忘れていたかもしれないが俺との約束を守り続けてくれていたので。だから約束は、守られなければならない。
だから、死ぬわけにはいかない。
早く死にたかった。彼女との約束は守るが、だからこそ早く死ねばいいと思っていた。死ぬわけにはいかないと強く誓うたびに、同時に相反して早く人類が滅びてしまえばいいのにと考えた。
楽になりたかった。
いい加減に、疲れていた。
死にたい死にたい死ねないと、ずるずると生きてうん百年。
俺の願いもようやくかなってくれそうで、そろそろ人類が滅びるな、と生きていた今日この頃。結界を汚されてしまって、思わず怒って出てきてしまった。でも、衝動的に出てきたことは、結果としては悪くなかった。アイラが死んだ原因を殺すことができるのだから。
絶対にかなわないと考えていた願望がかなって、浮かれてしまう。ああ、今日はいい日だ。人類が滅亡する目途が経っただけでなく、長年にわたって貯まりに溜まったフラストレーションをぶつけることができる相手が見つかるなんて。
「感謝申し上げるよ。生きていてくれて。おかげで。お前を殺すことができる。」
そう言ってスイッチを押そうとする。いたぶってやりたいところではあるがそんな技量は俺にはないし、何よりも、直接戦ったら俺が負けることは確実だ。むしろ秒殺でやられてしまうだろう。だからこそ、昔の奴隷の首輪をいじって爆弾をつけてある機械に頼る。これで苦しませることはできないが確実に殺すことはできる。
さあこれで死ね、とスイッチを押そうとするとぼそぼそと何かを言っていた。何を言っているのかが聞こえない。出している声が小さいこともあるが、周りがうるさくて聞こえないのだ。そこでようやく、周りがどんな状況化を見た。人がモンスターになっている光景を見たのだ、ただでさえ興奮しやすい人々は軽く発狂して手に負えなかった。いつかは、というか近いうちにこうなるであろうことは予想できていたので、騒ぎを収めるために首輪に仕込んでおいた電気ショックを浴びせる。目の前の男以外が全員倒れて、静かになる。さて、こいつは何を言っているのかと、耳を傾けてもう一度言ってみろと促した。
「僕を殺す、ですって?」
くつくつ、くつくつ。
笑っていた。
「僕こそ、お前を殺したくてたまらないですよ。」
くつくつ、くつくつ。
嗤っていた。
「アイラ様を追い詰めるだけ追い詰めたのは、いったいぜんたい、どこの誰だったでしょうかね。」
くつくつ、くつくつ。
嘲笑していた。
「愛している、だなんて。どの口がほざいているんでしょう。」
くつくつ、くつくつ。
冷笑していた。
「だってお前、アイラ様が転生したのがその人だって、気がつかなかったじゃないか。」
指を指した方向に転がっているのは、結界を汚したと言っていた青年で。俺が感情のままに、ぶとうとした青年で。
地面に転がる力ない姿が何故か、彼女と被った。
俺はまた、間違えたのか。
「あ〝あ〝あ〝ああああああああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァあああァああああああああああああアアァぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
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