ジンルイキューサイに向けて
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アイラ様は、人を救っていた。
来る日も来る日も。人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って。そうやって過ごしていた。
そうしてある日、僕は何故アイラ様が人を救っているのか、その理由を知らないということに気が付いた。早速とばかりに聞いてみると、何故か苦笑される。その質問をした僕か、そんなことを聞かれる状況にか、それともアイラ様自身に対してか、笑ったままに口を開く。
「人類救済のためだよ。」
そう答えにならない答えを眉を下げて笑って言っていた。
人を救っていることに理由はないと言いたいのかな、と考えた。そう考えるのが今まで僕が見てきたアイラ様の動機として相応しいものだから。だから、その答えを深く考えることはしてこなかった。それが言葉通りの事実なのだと知るときには、何もかもが遅かった。
人を救う代わり映えのない日常のさなかで時折やって来るオズヴァルトとやらはアイラ様が幼馴染と紹介するだけあって、なかなかどうして距離が近かった。大抵は二人きりで何やら話しているが、いったい何をしているのか、大して探ったことはなかった。いつもいつも、人を救うために尽力する姿を見てきたからか、それとも言っている内容が、明らかに人助けをするためにはどうすればいいのかと言った趣旨であったからか。また人を救うために何かしているのだろうと、勝手に決めつけていた。ここで詳しく聞いていたら、何か違っただろうか。
人を救っていた。人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って人を救って。そうやって時が過ぎていった。代り映えのない日々だった。変化のない日々だった。変わらずにこのままあるのだと無条件に信じてしまうくらいに優しい日々だった。変わらないでくれと願うくらいに幸せな日々だった。
そんな日々を変えるのは、やはり人間の醜さなのであった。
世界全体で、大規模な戦争が繰り広げられていた。もちろん見過ごすことはできずになるべく救おうと手を伸ばしたが、命は指の隙間からこぼれ落ちるばかりで、そんな日々を過ごすアイラ様はみるみるうちにやつれていった。ただでさえアイラ様はやせ気味だというのにさらにやせ細り、目の下に隈ができ、頬がこけていく。アイラ様は祈って人々の傷を癒し植物を成長させ結界をはり水を浄化させ、と忙しくしていた。見るからに負担が大きいのが原因であるがアイラ様の能力でしかできないことが多く、やめさせることはできないから、もどかしく思う。見ているこちらがつらくなるような日々のさなかで、オズヴァルトが、神を殺そう、と言い出した。気でも狂ったのか、こいつ。
そう思って視線を向けても、オズヴァルトはこちらを見ることはなかった。世界規模の戦争が始まってやることがたくさんあり、アイラ様が雇った元奴隷達は世界中に散らばっていった。だから僕は今や唯一のアイラ様の奴隷なのである。奴隷と自分で称するとアイラ様が悲しむからアイラ様には言わないが僕としては誇りに思っているので、オズヴァルトにはアイラ様の唯一の奴隷と自称している。そうやってアイラ様の周りに僕しかいなくなってオズヴァルトは僕のことを視界に入れてくれたと思っていた。屋敷にたくさんの人が住んでいた時、オズヴァルトはアイラ様以外の人物を一切見分けていなかった。それが屋敷に僕とアイラ様だけになってそのようなことがなくなったと思っていたから、これだけ顔を突き合わせているから覚えたのだろうと考えたのだ。それが、今、違うとわかった。こいつは僕自身のことなんか見ちゃいなかった。例えばここで僕が似た背格好の人物と入れ替わっても気が付かないだろうと確信してしまうほど、その眼には何も映っちゃいなかった。アイラ様以外は、こいつは本当にどうでもいいのだろう。
もうすっかり耳に慣れてしまったオズヴァルトのとぎれとぎれの声がアイラ様と話しているのが聞こえる。
「今の世界が。混乱状態にあることは。わかっているな。今までやってきた行動は。無駄とまでは言わないが。焼け石に水だ。人間は。争う。でも。余裕があれば。争うまでに。猶予ができる。寿命がなくなれば余裕ができる。余裕ができたら争いごとはぐっと減る。その猶予をひねりだすために。寿命をなくすために。今ある輪廻転生というシステムを壊す。
神を殺す。
そうすれば、人は救われる。」
僕は盲目的に従っていた。思考停止していた。アイラ様がすることなのだから、これはきっと正しいことなのだろうと。
そして二人は、なまじっか力があるだけあってやり遂げてしまったのだ。
神殺しを。
神様は人間が介入することができないから神様なのだと、言えばよかった。
オズヴァルトは聞きもしなかっただろう。しかしアイラ様は耳に入れてくれたはずだ。きっと行動は変わらなかったけど、心の持ちようは変わったはずだ。
そうしたら、あんなことは、起きなかったのではないかと、今でも考えてしまう。
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