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前奏である小規模な絶望

読んでくださるとありがたいです。


僕は奴隷だった。


そう言うと同情をされるかもしれないが、あの時代ではそう珍しいことではなかった。食い扶持を減らすため、またはたくさんいる子供の口減らしのため、お金がないため、強者におもねるため。そんな様々な、だけど根本としては変わらない理由から、奴隷という存在は尽きることがなかった。都会で主に買われていって、奴隷の調達として田舎の人を買っていくのだが、儲かるのか奴隷専属の商人である奴隷商人はそこそこの人数いた。

僕の場合は、親に売られた。一人っ子の長男だったから、生まれたときは大事にされていた。望まれて生まれたし、愛されていたと思う。ただ、僕が成長していくにつれてダメになった。僕のことを見てくれなくなった。向けられる笑顔がぎこちなくなった。存在を無視されるようになった。あの子のことがわからないの、と母親に泣かれた。我が子ながら気味が悪いと、父親に殴られた。明らかに僕は、家族の異物になった。生まれてきた時に愛されたのは本当で、確かに愛した記憶のある子供を殺すことは気が引けたのか、ある日町に来た奴隷商人に売られた。久方ぶりにまともに見た母親の腹はポッコリと不自然に盛り上がっていて、少しやつれたように思う父親が、ありがとうございます、と頭を下げてお金の入った袋を受け取っていた。

殺されないだけましと思うべきなのだろうか。それとも、泣きわめいて恨むべきなのだろうか。結局のところ何も言うことはできず、泣くこともできず、声を親にかけられることもなく連れていかれた。六歳の子供が売られた反応ではないからか、奴隷商人は少し困ったように眉をひそめていた。ああ、ここでも気味悪がられるのか。泣きわめきたい気持ちと、そんなことはできないという怒りにも似た感情がせめぎあって、何もできない。年相応に泣きわめきたい気持ちと、その気持ちに敏感に反応する体を、理性と記憶が引き留める。そう、記憶。


僕には前世の記憶があった。


だから子供らしい振る舞いができなかった。今生の母親と父親を、本当の意味でそうであると認識できなかった。どうしても、前の両親がちらつくのだ。親もそれを敏感に感じ取ったのだろう、距離を置くようになった。せめて迷惑をかけないように、と行儀よくするたびに距離が開いていった。

どうすればよかったのだろう。前世の記憶があるのだと打ち明ければ何か違っていただろうか。丁寧にするあまり他人行儀になって、家族の距離感を図りかねていたから、いっその事ぞんざいに扱えば良かったのではないか。でも、もう言葉が話せるようになるころには既に、少し見えない壁ができていて、そこから前世の記憶があるのだと主張しても事態は改善せず、逆にもっと距離ができていたかもしれないと、臆病な心を慰めた。

ぐるぐると抱え込んだ思いを消化できないまま、夜になった。奴隷商人達はこの町で奴隷という商品を集めることができてうれしいのか、奴隷として売られた人達は隅に固まらせて、自分たちは宴会を開いていた。どんちゃん騒ぎで酒を飲んで、商人達が赤ら顔になるころには、精神的に疲れたのか奴隷になった人達は僕以外は全員寝ていた。僕も確かに疲れ切っているが、どうしても考えてしまって、目をつぶっても寝れる気がしなかった。寝ることを諦めて酔っ払いを眺めていると、ニマニマと笑っていた一人と目が合った。

「あー、そういえば、お前。気味が悪いって言って両親に売られたやつだろ。」

何でこいつにそんなことを言わなければならないんだと不愉快になるが、立場が上の人に、事実上文字通り僕の命を握っているやつを不愉快にするわけにはいかない。

「そうです。」

なるべく不機嫌さが声に出ないように気をつけて話す。酔っぱらっているこいつに声のトーンの区別がつくかは別問題として。


そこから先のことは、正直言って、よく覚えていない。自分がその時に、それを聞いて何を思って何をどう言ったのかも知らない。


ただ、何を言われたかは、覚えている。ずっと。


「お前の親、あいつらひでえよなあ、お前、長男なのによ、腹の中の子に俺たちの最初の子供だからどう、とか語り掛けてたんだぜ。お前よっぽど嫌われてんだな。存在ごとなかったことにされるなんて、お前が売られたのって、お前を手をかけて自分達の手が汚れることが嫌だったからじゃねえの。自分の手を汚す判断を、産んだ責任をとれねえ、取りたくねえくらいに嫌いだったんだろ。ああ、存在消してるからそんなん当たり前か。そこまで実の親に嫌われるってふつうねえよ。ある意味才能だよ、才能。良かったなお前、才能あるってよ。まあそんな才能いらねーし使えねーんだけどよ。これが能力ならまだ使いようがあるんだけどよ。いや、これ能力か?しょぼいな。あん?能力っていうのはな、不思議な力だよ。ここら二百年ほど前から時折不思議な力がある人間が出てきているんだ。本当に数がすくねーから都会にいるんだけどな、こんな田舎なら能力のことを知らなくても無理ないだろ。あ?なに?馬鹿言ってんじゃねえよおめえ、前世なんてよ。自分は特別だとか。あ、いや、能力がありゃあ確かに商品価値はあがるけどよう。うそつきはいけないことなんだぜ。うそを言って自分がすげえってなってもよ、むなしいだろ。安心しろ、お前が能力持ってねえことはわかっているから。そんなうそを言わなくてもよ、ちゃんと雑な扱いはしないからよう。最低限の衣食住はちゃんとあるんだぜ。まあ、買われてからは運とお前の腕の見せ所だけどなあ。ああ、泣くな泣くな。奴隷は沢山いるけどな、すぐに死ぬのは案外少ないんだ。泣かなくても生きていけるぞ。泣くとぶってくる主人、貴族に多いらしいんだけどよう、そんなんじゃあ売れないぞ。でも安心しろ、うそつきは金をくすねるやつも多いから、貴族も能力があるやつを買うことが多いからよ、ちゃんと能力がないお前は貴族じゃない奴に売ってやるからよう。だから泣き止めよ、泣くなよう。」


最後までお読みいただきありがとうございます。次の話も読んでくださるとありがたいです。

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