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あなたを殺すほど愛しています

読んでくださるとありがたいです。

結界が見えて、自覚はしていなかったが気が抜けたのだろう。ようやく周囲の様子が視界に入るようになり、それなりの人数が集まってしまっていることに気がつく。

他の班は今日のノルマを終わらせたのだろう。今回はトラブルで遅くなってこの時間にまでもつれこんだが、確かにいつもならば俺たちの班もとっくに戦い終えている頃合いだ。夕焼けの赤い光が差し込んで、モンスターの表情が逆光で見えない中、結界に入った。建物の玄関近くに図らずも来てしまい、必要以上に注目を集めていることを自覚しながらも、まだ人間の形をしている腕を引っ張って、結界を通らせようとする。

「かわいいわたしはかわいいわたしはかわいいっていわれたいわたしはかわいいのにかわいいっていわれたいのにしにたくないかわいいっていわれたしにたくないのにかわいいものにかこまれたらしにたくないわたしはかわいいからかわいいものにかこまれてわたしはかわいいしかわいいからかわいくてかわいいものがほしくてしにたくないみてほしくてみとめてほしくてかわいいってかわいいからわたしがわたしはかわいいわたしはしにたくないかわいいわたしをしにたくないしにたくないみてくれるかなかわいいしにたくないしにたくないわたしはかわいいものがほしいかわいいわたしはかわいいものにしにたくないしにたくないかこまれてかわいいわたしはかわいいものになりたいわたしはしにたくないしにたくないかわいいしにたくないしにたくないわたしはかわいいしにたくないしにたくないかわいいしにたくないしにたくないわたしはかわいいかわいいわたしはしにたくないしにたくない。」


腕は辛うじて通ったが、肩から先が結界内に入ってこない。辛うじて残っている頬っぺたを結界に押しつけて、首が曲がってはいけない方向に曲がっている気がする。

やはり無理だっただろうか。そう思った瞬間だった。


「しにたくない。」


首であろう場所についていたチョーカーが爆発した。

逆光で顔が見えなかったから、どんな表情をしているのかわからなかった。

花火のように飛び散っていく血しぶきと肉片は、しかしそのほとんどが結界に阻まれてこちらにくることはなかった。

ほんの少しの血しぶきが額にあたって、両手で握っていた、肩口でちぎれた右腕を抱えることしかできなかった。


+++++++++++++++++++++++++++++++


今回のターゲットを殺して、駆け付けた先で待っていたのは地獄だった。いや、別に地獄だと本気で思っているわけではないが、そう表現をするのが正しいと思ってしまうくらいに、混沌としていて、阿鼻叫喚のありさまだった。

「いったいぜんたい、どうしたんですか。」

アイラ様に声を掛けると、少しぼんやりとした様子で、誰かの肩口からちぎれている右腕を持っていた。

「これ、どうしよう。土に埋めればいいのかな。」

少し困ったように言う彼には、後ろに広がっている光景は全く視界に入ってはいないようだ。ギャーギャーと喧しく首輪を外そうとしている騒いでいる集団と、結界の外に広がる残骸を見る限り、とうとう彼がやってしまったらしい。首輪を外すなんて無理に決まっているのに、無駄なことを。

「僕が後でスコップを借りてきますから、一緒に穴を掘りましょう。」

僕も割とどうでもいいので後ろの騒ぎを放っておいて、とりあえず困っているアイラ様を手助けすべく提案をする。

「わかった。ありがとう。」

少し目を細めて言われたお礼に、嬉しくてたまらなくなる。アイラ様の役に立った。アイラ様の視界に入った。アイラ様と会話している。アイラ様が僕を認識してくれている。そのことが、途轍もなく嬉しかった。僕自身のことをどう思っていたとしても、僕はあなたの役に立ちたくて、あなたに頼られることが存在意義であるとさえ考えているのだから。だから今、この状況は幸せだった。だからこそ、許せなかった。この場に響いた無粋な声が。

「ふざけるな。誰だ。結界に。連れてきたのは。」

引きこもっていたはずの彼がこの場に乗り込んできていて、よほど結界が大切だったのだろう、声を張り上げて結界を汚した犯人を探している。あーあ、長いご自慢の白髪も振り乱して、みっともない。

「すみません、俺です。モンスターに変化してきていたので、結界を通り抜けさせればモンスター化を止めることができるのではと考えて実行しました。」

「ふざけるなよ。」

そう言って感情的に手をアイラ様に振り上げるあいつに割り込んだ。

「いや、お前こそふざけるなよ。」

アイラ様は気にしないのだろうけれど、僕が許せなかった。ただでさえ僕はこいつのことが許せないのだ。

「結界になんてもう意味はないだろう。形見のつもりでいつまでもいつまでも、後生大事にガラクタを抱え込むんじゃあない。」

ひょろっちいくせにマウントをとるためにか、胸ぐらをつかんできた。顔の距離が縮まって、子憎たらしい青色の目が見えた。眼球の部分が充血して赤くなっていて、おまけに目の下に隈までできていて、これはかなりのストレスを抱えているとみた。ざまあみろ。

「ガラクタだと⁉取り消せよ。何も知らないくせに。何もできないくせに。何を犠牲にしてこの結界ができているのか。その犠牲がどれ程尊いことか。わからないくせに理解できないくせに。そのくせして。いうに事欠いてガラクタだと?」

精一杯にすごむのに対して、鼻で笑ってやった。

「ああ、言うね。お前こそアイラ様の指示に従わないで、何年間もお人形遊びをして。楽しかったか?」

そこでようやく、こいつは僕のことを見た。

「誰だ。お前。」

怪訝そうに眉をひそめて首をかしげる姿に、少しの愉悦感がある。

「キュウだよ。」

「いや。わからん。」

あっさりとそう言ってのけるこいつに、こういうやつだとわかってはいたが、わかっているはずであったが、やはり殺意が沸き起こった。

「やっぱりお前は僕なんか視界に入っていなかったよねえ。奴隷だよ、アイラ様の唯一の。いたでしょ、ご自慢の記憶力はどうしたの。」

あおりを入れながらそう説明を付け加えると、顔がみるみるうちに歪んでいった。



「お前が。アイラを。殺したやつか。何故。生きている。」


「確かにそうだが、お前がそれを言うなよ。」



最後までお読みいただきありがとうございます。次の話も読んでくださるとありがたいです。

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