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素直になればよかった  作者: 田鶴
本編

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30/55

30.雨降って地固まる

「悠、おはよ!」


「あ……萌……おはよ……」


「どうしたの? なんだか元気ないよ」


 萌と悠は下の名前で呼び合うようになっていたが、ここ数日、悠は心ここにあらずといった感じだ。


 悠は真理の言った『うそ告』が気になってしまっている。真理との長年の付き合いで彼女が何か企んでわざと言ったはずとわかっていても、萌にムーンバックスに呼びされたのは確かに不自然だったからモヤモヤしてしまう。


「ねえ……悠? 何か気になってるなら教えて。お互いに気になることはすぐに聞いて解決するって約束したでしょ?」


「うん……じゃあ、今日、授業終わったら、萌のうちで話そう」


 それから1日中、悠も萌も気もそぞろで授業どころじゃなかった。


 4限後、リコは気を利かせて和人の部屋へ行った。萌と悠は無言で電車に乗って最寄り駅で降りた。駅から萌の部屋までの道のりも無言で居心地が悪い。


 ガチャガチャ――


 萌は鍵を開けて部屋に入った。


「悠、コーヒー飲む?」


「あ、うん……」


「私の部屋で座ってて。すぐに準備する」


 キッチンでコーヒーメーカーとミルクフォーマーの準備をして萌は悠の待つ自室へ入った。


「悠、何悩んでるの?」


「えっと……」


「言いづらくても話して。後に引きずるほうがまずいと思うから」


 それを聞いて悠は大きく息を吸って話し出した。


「うん……『うそ告』って知ってるよね?」


「う、うん……聞いたことは……あるよ」


 悠が萌を見ながら話しているのに、萌は目を逸らした。


「実際にやる人も……いるんだよね?」


「あ゛-、どうかな?」


「萌が俺と初めてまともに話した日……ムーンバックスで友達になってって言ってくれたよね? あれって……本当は真理に対抗して俺にうそ告するためだったって本当?」


 悠は『嘘であってほしい』と必死に願った。


「えっと……と、友達に……なろうってキャンパスで言ったら、新田さんがうるさいでしょ?」


「どうして俺と友達になろうって思ったの?」


「えっと……それは……あっ、コーヒーできてるよ! ちょっと待って!」


 萌が立ち上がろうとすると、悠は萌の腕を掴んで引き留めた。


「萌! コーヒーなんてこの際、どうでもいいよ! ちゃんと話して! じゃないと俺は……萌と一緒に……いられない!」


 悠は普段より一段低い声を絞り出すように最後まで言い切った。


「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい」


 萌はもう泣き出していた。


「萌、謝らなくていいから、本当のことを教えて」


「こんな私、嫌いになるよね。もう()()()と付き合う資格ないよね。別れよう」


「駄目だよ!」


 悠は萌を思いっきり抱きしめ、しゃくりあげる萌の背中を優しくトントンと叩いた。


「初めがうそから始まっていても、俺達はお互い好きだろう? なのにどうして別れる必要があるの?」


「だって……うそ告しようとしてたの、ほんとなの……そんな卑怯な私……私……もう()()()と一緒にいられる資格ないよ……」


「そのうそを正せばいいんだよ」


「うそを正す?」


「うん。過ぎちゃったことは変えられないけど、うそをちゃんと白状して内容を訂正するってこと」


 悠は萌を抱きしめる力をゆるめて彼女の顔をのぞき込んだ。その顔は涙でぐちゃぐちゃに濡れていた。


「うそ告しようとしてたってもう打ち明けてくれただろ。それじゃあ、萌の今の気持ちは?」


「もちろん……()が……好き……」


「俺も萌が好き。なら俺達、両想いだ。これからも一緒にいられるよね?」


「うん……うれしい……」


「俺も……」


 悠は、萌の頬に流れた涙をペロリと舐めた。


「かわいい萌の涙でもやっぱり涙はしょっぱいね」 


「もう! 悠ったら!」


 2人は自然に顔を近づけて唇を重ねた。キスも涙味がした。


「これからも一緒だね」


「うん……あ! コーヒー! 忘れてた! 飲むよね?」


 ムーンバックスで初めて2人で飲んだコーヒーの味も、この日飲んだコーヒーの味も、萌と悠は一生忘れないだろう。

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