終わり
戦争は終わったらしい。俺の首にかけられていた賞金も消えた。
復讐らしい復讐はできただろうか? 何もできなかった気がする・・・。
だが、戦争は終わってしまった。
「あの子よくない?お兄ちゃん」アイツが頭の中でささやく。
戦時中の街中で見かけたのは、有名な同業者。姉妹5人で旅をしていることで有名な冒険者だった。・・・美人揃いでも有名な。
「幼女趣味はない!」頭の中で怒鳴り返す。アイツが指してるのは、最年少の少女。
確かに美少女だが・・・・どこかアイツに面影が似ているが。
「のこぎりしゃぁ~~ん♪」
・・・「魚」は俺の心理を勝手にストレートに表現してくれるらしい。
また、頭痛の種だ・・・。と思っていたら、サクッと刺された。
頭の中でアイツがクスクス笑ってる。
戦争中だから、俺はまだ機体から降りる気はない。まだ一度すらリミッターを外してさえいない。復讐はまだまだこれからなのだから。
だが、「魚」はしつこくアタックを繰り返す。
ああ、そうだよ。俺は別に少女が好みというわけじゃないが、あの子の事が多分好きだよ。・・・でも辞めてくれ・・・毎回刺されて痛いのは俺だ。
「お兄ちゃん、アタックの仕方わるいよぉ」
うるさい。こんな歪んだ直球勝負しかできない魂を機体に残したヤツが悪いんだ。
そんなやりとりをしながら、戦争は終わり、俺が復讐すべき相手も居なくなった。
彼女が振り向く訳はないし、そもそも、まだまだ恋愛なんかわかっていないかもしれない。
それに、俺がこの機体を降りたとして、この機体をどうする?
「ロマンティストの作った機体」か・・・。正しいかもしれないけれど、あまりに悲しく狂った機体。凶悪な戦闘力を抱えた機体。未だに設計者が何を考えて作ったのかわからない危険な機体。
そこまで考えて、次にすることをやっと思いついた。
使っていた通常武器を仲間達に渡し、一人、旅に出た。
海の底で、深い海の底で眠りにつこう。この「身体」と共に。
「だめだよ。生きなきゃ・・・」アイツはそういうけれど。
旅に出てすぐ、同じ街道の先に少女が一人で歩いているのを見つけた。
「のこのこぉおおおお~~~~~!!」
「寄るなでございましゅ!」
サクッとまた刺される。・・・イタイ・・・いい加減に暴走するのは辞めてほしい・・・。
・・・最後だというのに。
彼女は、里帰りの途中ということだった。
苦笑をもらしつつ、自分もそういう事にしておいた。魚が海に帰るのだ。嘘ではないだろう。
たき火を囲み、少しだけ話をする。最後の良い思い出になるだろう。
・・・良い思い出にしたかった。
「ステルバイしゃん・・・」
彼女が言う前に気づいている。レーダーに反応するモンスターの影。
軽く10体以上。残党が集まって巣くっていたのだろう。
非武装でも、大概のモンスターなら10体程度二人でどうにかなるだろう。だが、この反応は・・・。
木々の間から「敵」が姿を現す。予想通りだ。・・・フール、ドラゴンロード、デストロイヤー・・・最悪・・?いや、やつらなら、この機体を再生不能までバラバラにしてくれる。ベストなのか・・・。
軽く機体をホバリングさせたところで、背後の気配に気づいた・・。いや、思い出した。
降霊結儀とかいった名前だったろうか?彼女が戦闘のための準備を始めている。
「のこ・・・」つぶやく。
「大丈夫だから、隠れて」
いつか聞いたのと同じ台詞が口からついてでる。「魚」じゃなく、自分の言葉で。
「・・・大丈夫、のこは・・・」
それ以上の確認はいらない。
>リミッター解除・フィンフル展開
少しこの機体の意味が分かった。
>再生機能MAX
少しアイツの気持ちがわかった。
>装甲強度MAX
少しこいつを作ったヤツの気持ちがわかった。
>全武装ロック解除・展開
復讐のためじゃない。
>フィールドフル展開
思う気持ちを守る力に・・・・
>全制御解除グリーン。殲滅プログラムスタート
「片思いのキャットフィッシュ」・・・最後までお前に機体名やれなかったな。
・・・さぁ・・・・行こう・・・・。
「ステルバイしゃん、ステルバイしゃん・・・」
・・・泣いてるのか?
まだ、少し俺の魂は残っている様だ・・・。
「死んじゃだめでしゅ・・・」
三分の1ほど身体を持って行かれたらしい。生体部分にも大きなダメージを受けている。
それでも、俺の魂を使い、再生しようとする「身体」。
「なぁ・・・のこ」
「なんでしゅか・・?」
視覚センサーが完全にやられている。のこの姿を見ることができない。
「最後に、この機体、バラバラにしてくれよ・・。」
返事がない。
終わりにしなければいけない。この機体は。こんな馬鹿げた道化の機体は。
「のこ、大好きだよ。」
最後の魂で、自分の言葉を告げる。
そう、これで、全て終えられる・・・・・・。