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ある魚の話  作者: tori
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始まり

 俺の仕事は発掘された謎の機械の極秘研究。フェルの郊外に極秘に作られた研究所で謎に包まれたオーバーテクノロジーの解析をしている。

・・・と言えば聞こえも良いが、仕事場は街からかなり離れた一軒家を改装しただけの名前だけの研究所。一応、解析機器程度はそろっているが全て中古の払い下げ。所長は一日中トランプを広げてソリティアをしている無能で、所員は、俺ともう一人。

 つまり、前の職場でちょっと上司を殴っただけで、閑職に飛ばされちまったわけだ。

おまけに、与えられた研究対象の機械は一つだけ。

 いや、こいつが一番の問題か。・・・・与えられたのは2m近くあるでっかい「魚」一匹だけ。

・・・真面目に考えれば考えるほど、頭が痛くなる。

「魚」の全長は約182cm。重量は106kg。

 実のところ、こいつが「何」なのかすらつかめていない。

 表皮は生体に近い様だが、その硬度は金属以上。機械兵の様なハッチも見あたらない。測定してみたところ、脳波の様なものは有るようだが、自立行動を起こす様子も見えない。

 ネジらしきものも見あたらないので分解はできないし、透視系の機器は全く役に立たない。鋸でぶった斬ってやろうとしたら、斬った端から再生しやがる。

 あまりに訳が分からず腹が立ったので、一度庭の池にぶち込んでやった事もあったが、所長に怒鳴られただけだった。

 結局は、「調査しているつもり」になるしかない。そういう仕事だ。


 かわいそうなのが、もう一人の所員。俺は飛ばされた事自体にはそれほど恨みを感じていないし、正直、目の前の「魚」が何なのか、多少やけくそ気味だが興味がある。

 クソガキ・・・俺はそう呼んでいるが、もう一人の所員は10代の新人研究員。噂によると、幼女にしか見えない童顔でチビというだけで、ここに配属されてきたらしい。非道い話だが、俺らの人事っていうのはその程度らしい。

 外見に似合わず、知識は豊富、データ整理などてきぱきとこなし、困った「魚」の解析方法も、次から次へとアイデアを出せる。はっきりと有能と言える研究者。他の研究所に行けば、早々に成果を挙げていたに違いないだろうに、ここではどうしようも無いだろう。・・・本人は気にしていない様だが。

 常に俺のサポートを確実にし、集めた情報は次の日にはまとめられ、欲しいと思ったデータは既に用意されている。気が付けば暖かいコーヒーが机の上にある。腹が減った頃には食事の用意までされている。

「だって、お兄ちゃん、仕事始めると周り見えなくなっちゃうから」

・・・この「お兄ちゃん」というのだけはどうしてもなじめないが。


 まぁ、平和な日々だった。うんともすんとも言わない魚にはまいったが、元々成果を求められている研究じゃなかったから、気楽に二人でゆっくりと様々な手段で実験を繰り返す。

「お兄ちゃん、この子に名前つけないの?」

「自立型だったらどうするんだ。勝手に名前つけたら、動き始めた時に怒り出すぞ」

「あ、そっか・・・」

動き出す日が近いことも知らず、そんな会話をしていた。

 だからいつまでたっても名無しの「魚」


 

ある朝、寝ぼけ眼で所に入ると、玄関に「魚」がいた。

「お兄ちゃん、この子、機械兵だったみたい。中入っちゃった♪」

・・・魚がしゃべってる。・・・クソガキ・・・冗談はやめてくれ・・・・。


 その後、クソガキ?「魚」?に、説明をさせたが、全く要領を得ない。

 どうやって入ったかわからない?機能は説明できない?

「わかった、もういいから、早く出てこい・・・・」

「えっとね・・・多分出れないの」

「は?」

「今は、ね。」

頭痛しかしない・・・・。


 クソガキはそれでも仕事を続けた。魚のひれでどうやっているのか不思議だが、コーヒーだってちゃんと入れてくる。

 とはいえ、本人が機体について何も話さないので、研究自体は進まない。いいから、早く出て来いと、何度言っても、無理としか言わない。

 悪夢としか思えない・・・・。本当の悪夢が来るまでは・・・。


 血塗れの所長が、研究室代わりとなったホールに落ちてくる。

どこかから、きな臭い臭いがする。

銃声?大勢の足音?

・・・理解?・・・無理だ。


「お兄ちゃん、隠れて!」

魚・・・クソガキが叫ぶ。その声で正気に戻った。

ディアス兵・・・。一瞬で状況を把握する。

単純な構図だ。重要な研究を隠すため、どうでもいい研究をリークする。売られたのだ。

俺はここで死に、クソガキは、奴らにさらわれる。

結論まで単純だ。


「大丈夫だから、隠れて・・・」

クソガキが俺にささやく。何か悲しげに。

何が大丈夫なんだ?そう思う前に、「魚」が変形を始めた。

背鰭が一杯に開き、体中の至る所から、銃口の様なモノが現れる。

「・・・大丈夫、お兄ちゃんは・・」

どこか、照れたような、悲しげな声?


光と炎。銃声や剣撃の音。呪文を唱える声。悲鳴。断末魔の声。



気づけば、焔の赤い光に囲まれた中、「魚」と俺だけが息をしている。

「ほら、大丈夫だったでしょ?」

声が弱々しい。

聞きたいこと、言いたいこと。

でも、それより何故か抱きしめなければいけない気がする。

「早くそこから出てこい!!」

声に反応するように、急に目の前にクソガキが現れる。

「あれ?でれちゃった?」

抱きしめる。

「出れたんだ・・・そっか・・・うれしいな・・・」

「お兄ちゃんにだけ、教えてあげる。この子作った人って、きっと、すごくロマンティストだったの」

赤い光に照らされてもなお蒼白な顔。途切れ途切れの声。何故?聞きたいのはそういう事じゃない。

「燃えてるね・・・・このままじゃお兄ちゃん逃げれないね・・・」

そんなことが問題じゃない。

「そっか・・・。じゃぁ、お兄ちゃんも乗れる様になるね。・・・ごめん・・でも、ちゃんと逃げて。」

一番問題なのは、冷たくなってきているお前なんだよ。

「お兄ちゃん、好きだよ」

そして、動かなくなる・・・・。


 炎の中、「魚」に触れる。

 溶けるような、吸い込まれる様な感覚。

 一気に頭に流れ込んでくる、機体の情報。

 有ってはいけないレベルの攻撃力。全てを防ぎえる防御力。無制限に近い自己修復能力。その引き替えは、自分の魂と喰われた魂の暴走。

 身体は分解され、機体の生体部品となる。

 そして、搭乗条件と降りるための条件。

・・・ふざけるな・・・何がロマンティストだ、クソガキ。

クソガキの声が聞こえる「ごめんね。お兄ちゃん。しばらく降りれないね」

悪戯っぽく笑ってやがる。

「ちゃんと生きて、新しい人みつけてね」


そして、流れ込む狂気の魂。壊れる俺の魂。


生きてやるよ。お前がそういうなら。

俺達を売った奴らに復讐を。お前の魂を奪った奴らに復讐を。

生きてやるよ・・・・・。



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