251 異次元の皇帝
【異次元の皇帝】をお送りします。
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真っ逆さまに、ビリーと東堂詩織は、木々の生い茂る中に落ちて行った。お互いに高レベルの対物理攻撃結界を展開している為、落下のダメージは殆ど無い。だが精神的なダメージを東堂詩織は感じていた。
「私が、押されているだと?? あり得ない事だ! 」
落下しながら、腰のホルスターからグロック19を抜き、ビリーに二連射するが、その腕をビリーが掴み上げ、拘束する!
「は、はなせ!! 」
ビリーは詩織を自らに引き寄せて、彼女の頭を庇う様に抱きしめた。
激突の衝撃が広がるが、対物理攻撃結界がある為、さほどのダメージは無い。だがビリーには、詩織の重さがのし掛かった為に右腕を、脱臼した。
「っう……! 怪我は、無いだか?? 」
「貴様?! 馬鹿か?? 」
私を庇って?! 何を考えている??
「女子供は護るってきめてるんだなや〜」
「私は敵だぞ!?? 」
東堂詩織には、理解不能な思考だった。戦場に出れば、そこには味方と敵しか存在しない。ビリーの眉間に銃口を押し付けて凄む詩織を、ビリーの瞳は哀しく見つめ返した。
◆◇◆
土煙を纏い、その超重量の巨体を震わせて、大地に対して自らのバランスを取り直す。引力の方向に対して常に垂直を保つ。そしてハヌマーンのAIは、この地に集結している敵の脅威判定を行っていく。
フェルミナ・マッケローニ----BB+
ミラン・グライアス----BB-
エルトリア・ラ・ボナパルト・タイラント---A-
そして、その男が現れた途端、ハヌマーンの内部でアラートが発生した。
グラウス・ラア・ボナパルト・ゴドラタン----SS -
「?! なんだ?? この威圧感……」
織田上総介信長は、腰を少し浮かしながら、ハヌマーンの前面に出現した新たな存在を感知した。戦場の雰囲気がその存在一つで一気に変化した。
「ハヌマーンが、警告を出しています。奴が出て来たものかと」
「成る程、これがバテレンの世界で猛威を振るった漢の威圧感か! 良いではないか! 」
信長は嬉々として、手にした扇子を打ち鳴らした。
「フェルミナ、すまなかったな」
ハヌマーン三機を睨みつけ、グラウスは身につけたマントを取り外し、剣を左手に、そして右手には、一冊の黒皮の手帖を持つ。
「皆、陛下が出陣された! 後方に下り、援護を行う! 」
フェルミナは、ラウンズに指示を出し、全員を一旦下がらせる。
「成る程、ロードグランデ大迷宮に居た機械兵共に似た物だな。やはり超帝国の遺物を掘り起こしたか……」
グラウスは手帖を開く。すると勝手に手帖のページが捲れて行く。そして止まったページから、青白い波動が放出された。その輝きの中から、何か巨大なモノが実体を表し始める。
「……我が宝物殿の守護者にして、地中海のロードス島に住うと言われる、伝説の巨人を召喚した……やれ! 」
左手の剣をハヌマーンに向けると、それに合わせて巨人がハヌマーンに向かって走り出した! 向かってくる巨人に対して、ハヌマーンの前面装甲が跳ね上がり、剥き出しになったその場所に光が収束してゆく。次の瞬間、そこから凄じい熱線が巨人に向かって放出された!! ロードスの巨人は、左手の大楯で熱線を防ぎ、右手の巨大な槌を、ハヌマーンに振り下ろす!! 衝突した衝撃波が周囲に広がってゆく!! もう一体のハヌマーンが、巨人の背中に飛びつき、その前足の爪を突き入れるが、それを振り解いて、巨人はさらに槌をハヌマーンに打ち込んでゆく! 数十トンの圧力を幾度も繰り出し、ついに一体のハヌマーンの足がへし折れた!!
「なんと?! ただの腕力でハヌマーンの関節を破壊するとは?! 」
スレイン・東堂・マッカートニーは、その状況を見ても冷静だった。この男にとっては、ハヌマーンが破壊される事ですら、データ収集の一つでしかない。
足をへし折られたハヌマーンは、ところ構わず熱線ビームを撒き散らした。
「パンドラ! 」
そうグラウスが呟くと、手帖から今度は、小さな木箱が躍り出る。その木箱の蓋が開くと、その中に熱線ビームが、屈折して吸い込まれて行く。さらに、
「アヌビス! 」
今度はエジプトの神の名を呟くと、エジプトの騎馬戦車の一団が、手帖から飛び出してくる。その一団を率いるのは、身体は人間、頭は犬の半人の冥界の神アヌビスだ。冥界の軍を率いるアヌビスは、ハヌマーンを無視して、その脇を通り過ぎる。
【異次元の皇帝】をお送りしました。
(映画【もう一人いる】を観ながら)




