250 紅血戦線
【紅血戦線】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「馬鹿な?! なんで奴が?! それにあのライフルは?! 」
東堂詩織が身を翻す間も、正確な射撃が襲う。いや正確過ぎる。
「この正確な射撃は、AI連動している? 馬鹿な! 」
それにこの馬鹿げた威力は何だ?? アリストラス世界では現世の銃器の威力は格段に上がる事は理解しているが、それにしてもこの攻撃は戦車砲? いや、艦砲射撃に近い威力がある。辛うじて対物理攻撃結界で防いでいるが、それでも衝撃が来る。
「くそ!! だが射程範囲外からならヤレる! 」
東堂詩織が、スナイパーライフルを再設置し、ビリーに対して絶好の位置取りをする。
「?! 居ないだと?! 」
ビリー隊の銃士がライフルを構える姿を視界に納め、
「俺たちの戦いに入るな!! チィ!! 」
正確にヘッドショットされた銃士が後ろに吹き飛ばされる。それと東堂詩織の頬を弾丸が掠めたのはほぼ同時だった。正確には弾丸が巻き起こす空気圧に掠めただけだが、それでも頬が切れる。避けると同時に弾丸の射線軸にライフル弾を三連射した!
「?! 手応えが無い! 避けやがった! アレをか?! 」
既に東堂詩織もその場を移動している。移動しながら、貫通弾を炸裂弾に換装して、さらに気配の有る方向に連射した。着弾と共に凄じい炸裂が起こり、ビリーの身体が宙を浮いて飛ばされる。
「ガハァ!!! クソ! 爆裂魔法並みだなや〜! 」
そんな悪態をつきながらも、直ぐに次の行動に移っている。ビリーが何も言わなくても隊は、既に移動を開始している。
「日頃の訓練様々だなや〜」
岩山下の密林に飛び込み、ビリーは気配を消しながら疾走した。殆ど周りの木々の枝を揺らさず、踏みしめる足音すらしない。
「無駄だぞ!! 我がイカロスの目を逃れる事など出来ない! そこだ!! 」
東堂詩織が、さらにスナイパーライフルを連射した。
「うぉ〜!! ちぃ! なんで位置が?! こんな視覚を塞がれる密林に潜んでいるのに、何故わかる?? 何故……それは……見えているからか?? 」
そうとしか考えられない。武蔵のオッサンみたいに、遠方の殺気でも反応する変態でない限りは…… ビリーのスコープもターゲットを捉えると、その部分をズームする機能があるが、あくまでもスコープの内側に捉える必要がある。
「スコープで捉えていないのに、位置が見えるだか? 」
考えられるとすれば、ヒロトと同じ様にサテライト・システムを使って衛星軌道上から監視されているかだが……
ビリーは、木の根元の藪の中から、上空に眼を凝らした。何かが光った様に感じる。なんだ?? それに微かに音がする?
「奴め、ブッシュに潜んだな。だが何故だ? サーモグラフにも反応しないだと?! イカロス・ワン、更に高度を上げろ! イカロス・ツーは周囲を警戒! 」
東堂詩織は、最初の場所から視界範囲にある別の岩場に移動して、モニターを凝視していた。スコープすら覗いていない。
沈黙が続く。
太陽の日差しだけが、等しく降り注ぐ。
東堂詩織の頬を一筋の汗が伝う……
汗が手の甲に落ちたその瞬間、遥上空で光が瞬いたと思ったら、すぐに炸裂音が二つ響き渡った!!
「馬鹿な?! イカロス・ワンとツーをほぼ同時に破壊しただと?? 光学迷彩仕様の特殊ドローンだぞ!? 奴もドローンを使用しているのか? 聞いてないぞ!! 」
余りにも焦りを覚えた為に、気配察知が遅れた。
「命取りだなや! 」
いつの間にか、ビリーが十メルデの距離にまで接近していた。視界に収めるのと、飛び退くのは、ほぼ同時だった。
「イカロス・スリー!! 」
そう東堂詩織が叫ぶのと、ほぼ同時に姿を表した三つのローターで浮遊飛行するドローンが、ビリーとの間に割って入った。
「奴を排除しろ!! 」
イカロスから発射された小型ミサイルがビリーに向かって飛ぶ!!
「うぉぉおおお!!!! 」
ビリーは雄叫びを上げながら、反射的に岩山から飛ぶ!
それと同時に凄じい爆風がビリーの身体を薙ぎ払った!
「あグゥあ?!! き、き貴様!! 」
その数コンマ・ゼロ秒の瞬間に、ビリーの左袖口から、続く極細のワイヤーが、東堂詩織のブーツ右足首に巻きつき、ビリーの身体と共に岩山から引きずり下ろす事となった。
【紅血戦線】をお送りしました。
(ドラマ【十角館の殺人】を観ながら)




