249 視線交差
【視線交差】を、お送りします。
宜しくお願い致します。
大洞窟がある巨大な岩場の頂上に、紫水晶を嵌め込んだ杖を握り、眼下を望む男は、歌う様に呪文詠唱を始め、手をハヌマーンに翳す。ハヌマーンを中心に円形の結界が形作くられた。
「……メテオ!!!!! 」
成層圏から十数個の小型隕石がハヌマーンに向かって一気に降り注いだ! 爆風が周囲の木々を薙ぎ倒し、世界の色を塗り替える。だが衝撃波は男が作り出した結界から外には広がらない。更に炸裂は続く。
「エルトリアの隕石攻撃か! だが奴の装甲は無傷か?! 」
アトワイトは、フェルミナの隣に位置取りし、妖弓での攻撃を開始した。
「手数で奴の足を止める!! アトワイト、ヨシア! 奴の関節を集中して狙い撃て!! ソリウリスは、ミランの傀儡人形を援護!! エルトリア!! 」
「わかってる! 冥王達の宴よ!! 暗黒の門を開き、地獄の業火を解き放て………」
エルトリアは目を瞑り、一気にトランス状態まで意識を落とす。
「全員退避!!! 」
そう言うより早く、皆が跳躍魔法を使用した。
「冥王波動爆裂陣!!!!! 」
エルトリアの左腕に黒い神代文字が浮かび上がり、文字が腕の周りを高速回転する。それに伴って莫大な魔力が右手に集約されてゆく。そして掌からそれは撃ち出された!!!
中央のハヌマーンに着弾したそのエネルギーは、閃光が走った次の瞬間、周囲を数千度の熱エネルギーで焼き払った!!
その爆風と熱波は、大洞窟の内部にまで到達した。
「?! 核撃魔法?! エルトリアか? それ程の敵が居るのか?! 」
グラウス皇帝は立ち上がり、自らの愛剣を手に掴んだ。
「陛下?! 」
「クリスが来るまで、待たせる必要がある」
「しかし?! 御身が?! 」
「くどい!! 出陣する! 」
グラウスは金色に輝く髪を撫で付け、マントを翻し、数人の護衛騎士と共に大洞窟の出口へと向かった。
◆◇◆
スコープ越しに織田信長の殺気を感じるビリーは、首筋に流れる冷や汗を拭った。こんな距離からでも奴の存在が圧力を発している。それを感じ取るビリーも普通では無い。
「ゴドラタンと始まったな」
スコープ越しに見える白衣を着た男に、見覚えは無い。
「なんだ?! 」
その白衣の男からも唯ならぬ気配を感じ取り、思わずのけ反った。そして、もう一度スコープに目をやると、その男の視線とビリーの視線が重なった。
「やばい! バレたぞ!! 」
向こうにも、ビリーの存在を感じ取る奴がいた事に愕然とした。
「場所を移動するだよ、攻撃されるぞ!? チィイ!! 」
そう言いながら、微かな殺気を感じ取り、ビリーは体を岩の窪みに伏せた。その次の瞬間、ビリーの隣にいた銃士が、ほぼ同時に三人、狙撃された。全員、眉間を正確に撃ち抜かれている。
「な、なんだと?! 何処から撃ってい?! 」
言い終わる前に、別の銃士の眉間も撃ち抜かれて、後ろに吹き飛ぶ!
「全員、伏せろ! そして近くの岩陰まで、這っていけ! 」
ビリーは殺気の出所を探したが、弾丸を発射する瞬間だけ放出された為に、確定出来ないでいた。弾丸の射出方向から、おおよその場所は特定出来るが、多分もうそこには居ないだろうと思った。
「この命中精度は、オラと同じ様にスコープを使ってるだな〜って事は、ヒロトと同郷の奴か?? 」
こんな時でもビリーの話し方はのんびりして聞こえる。だが言葉とは裏腹に、余裕は感じられない。次の瞬間、ビリーは連続して引き金を引いた! 限りなく摩擦係数がゼロに近い銃身から発射された弾丸が音速を超える!
「フッ……西部開拓時代の化石みたいな奴に、私の【マクミランTMC-50スナイパーライフル】狙撃から逃れられんぞ」
そのライフルから伸びたコードの先に付けられた端末を操作しつつ、スコープを覗き込むと、ビリー・ザ・キッドと視線が合った!?
「ちぃ!! 」
東堂詩織は、強引に身体を捻って、右側に転がった。さっきまで居た場所に着弾する。直ぐに体勢を整えて、岩陰に滑り込んだ。
「何だと?? 発見された? 」
【視線交差】をお送りしました。
(映画【アメリカン・スナイパー】を観ながら)




