246 ターニングポイント
【ターニングポイント】をお送りします。
宜しくお願い致します。
斎藤一がブランデン王国軍の国境砦を陥落させた速報の後に、伝令兵が持ち込んだ情報は、アリストラス軍に動揺をもたらした。沖田総司がビリー・ザ・キッドに撃たれた速報を聞いて、ワイアット・アープは馬足を更に上げて、敵銃撃部隊の追跡に入った。
「ビリー隊長……貴方は……」
メイデルは複雑な気持ちの整理をつける事が出来なかった。それはこの銃撃師団を構成する中心部隊の隊員の気持ちを代弁する。ここにいる者達は、全てビリーの指導を受けて、災厄の渦を乗り越えた者達ばかりだった。
「副長、本当にやるんですか? 」
銃士騎兵達は、みな不安な表情を隠せないでいる。
「我らは、アリストラス皇國より騎士叙勲を受けた恩に報いる必要があり、国民を、守る義務がある」
そう言うメイデルが一番辛い立場だと皆わかっていた。そんなメイデルにワイアットが馬を近づける。
「ビリーの奴は、あんたらに優しかったんだな。あいつは昔から弱い者の立場に立って、色々と肩代わりして来た……」
「ヴァイオレット隊長……ビリー隊長の過去をご存知なんですか? 」
「その名で呼ぶんじゃ〜ないよ。むず痒いだろ?……あいつとは腐れ縁ってやつさ。あいつは一度助けるって決めた相手の為なら、非合法だろうが、なんだってやる奴だった。そうガキの頃からね」
「隊長……」
「あいつは、抗っているのさ」
「何から抗うって言うです? 」
「多分、世の中の矛盾や、怒り、そんな物からさ……純粋なんだよ、あいつは……」
ワイアットは、更に馬足を速めた。
◆◇◆
ゴドラタン帝国との国境付近の村々を黒い影が襲っていた。帝国に情報が伝わる事が無い様に口封じをして回っているのだ。その日の織田上総介信長はすこぶる機嫌が良かった。自分が思い描いた様に状況が進む事を、この上なく好ましく思っている。この感覚は桶狭間以来だと一人悦にいっていた。
「アハローンはついて来れなかったか……」
実際にはどうでも良かった。元々は頭数に入れてなかった事だ。
「ビリー・ザ・キッド……ナターシャをシステムから解放するのが目的かと思ったが、どうやら違う様だな……どう思う? 」
信長が傍の馬上の男に話しかける。
「確かに。ナターシャが目的なら、もっと早く動いていたかと……殿のお命では? 」
話しかけられたスレイン・東堂・マッカートニーは、何やら馬の上で計算式の書かれたメモと格闘していた。
「たわけ! それならもっと早く動いておるわ……まあ、どうでも良いがな……」
この男は自分の生き死ににも関心が薄い。
「ビリー・ザ・キッドは、我が妹が始末をつけるでしょう。我らはアヴァロンを手に入れる事が肝要」
スレインは日本の時代劇映画が好きだった。言い回しまで学んでいる。
「貴様の探究心も満たされると言う事だな。そう言えば、奴らの動きはどうか? 」
奴らとはカズキ達の事だ。
「手に入れた様ですな。エヌマ・エリシュで決戦となるかと」
スレインも妙に嬉しそうだ。
「良いではないか。貴様から猿の顛末や、茶坊主と狸の関ヶ原合戦の事を聞いて、正直儂は嫉妬した。その場に居ない儂を怨んだぞ。だが、この世界で更に大きな戦に行ける。喜ばしい限りじゃ」
スレインは、信長の本質は、戦その物を手段ではなく、目的にしている点だと分析した。正真正銘の戦狂い。だからこそ、自らの研究材料が手に入り安い。そしてその実験も……それに例の壺とやらにも興味がある。
話しの途中で、後方から良く通る声がした。
「兄上!! 奴が来ました」
「そうか。なら後は任せるぞ」
スレインは妹の東堂詩織に踵を返して更に馬足を早めた。
◆◇◆
信長の後方から近づく軍の兵達は、信長が通った後の惨状を見てその凄惨さから涙を流す者もいた。殺されているのは、ゴドラタン帝国兵では無く、ただの村人達だった。
「酷いあり様ですな……村人をここまで辱める必要があるのでしょうか? 信長は鬼畜か??! 」
大隊副官の一人オルドは、積み上がった生首を見て、吐き気を模様した。
「見せしめだなや。アパッチがよくやる手口に似ている。敵に恐怖を植え付ける為にやってるだよ。楽しんでやってる訳じゃない」
そう、全て信長は計算でやってる。あの合理主義者は無駄な事はしない。ビリーはやはり信長は、戦の天才だと、あらためて確信した。
【ターニングポイント】をお送りしました。
(映画【亡国のイージス】を観ながら)




