245 ビリー・ザ・キッド
【ビリー・ザ・キッド】をお送りします。
宜しくお願い致します。
幼い頃から人との違いに戸惑い、苦悩する事もあった。
母から受け継いだ血が色濃く出る様になったのは十歳を過ぎた頃だった。
だが、妹のクリスが生まれ、彼女の背負う【女神】としての運命を考えるると、自分の中の血など、どうと言う事では無いと思う様になった。母方には【女神】の直系の血脈が、そして父方には……
「き、貴様、人間では無いな??! 」
アハローンの知覚探知に映るのは、人では無い存在。いや、人どころか魔獣に近い存在が映る。ジークフリード・ランドルフから発せられる黄金のオーラは、まさしく人ならざる者だった。
グゥグォォォオオオ!!!
魔王アスモデウスが、その身体を更に変形させてゆく。巨大な腕が更に二本生え、さらに多くの触手が身体から伸びてゆく。 その魔王を見てジークフリードは、
「醜いな。所詮は低級悪魔か……」
「ききき貴様!! 俺が召喚した大悪魔を低級だと??! ゆ、許さんぞ! アスモデウスやれ!! 」
怒り狂ったアハローンの叫びと同時に魔王がジークフリードに踊りかかった! ジークフリードの首が飛ばされたと思った瞬間、アハローンは驚愕に眼を見開いた。消えたジークフリードは、魔王の後ろに現れ、白羽を魔王の背中から胸までを貫通させていた。そのジークフリードに魔王の触手が絡みつくが、ジークフリードの黄金のオーラが増幅し、触手ごと炸裂した。
「ば、馬鹿な?! 貴様のそのオーラ?! 見える、見えるぞ!
その身に龍を宿しているな?! 」
「我がランドルフ家は、女であれば【女神】の、男であれば【龍】の血脈に連なる。世が乱れた時、その血脈は開放され転生する」
ジークフリードがアハローンに剣先を向け、その剣に神霊力を込める。
「ま、待て!! お、俺は信長に騙されたんだ! 信長の為に働けば、現世に戻してやると言われて! もう敵対する気は無い! 」
アハローンはジークフリードに跪き懇願した。ジークフリードが剣先を下ろした瞬間、地面から巨大な腕が伸び、ジークフリードの両足を掴んだ。
「貴様などに降るわけないだろう!! この偉大なる魔術師アハローン様が! 魔王二十七柱の一柱、魔王ベリアルだ!! わが最高戦力で殺される事を感謝するがい?!!い? 」
そう言い終える前に、ジークフリードの剣が、魔王ベリアルの両腕を断ち斬っていた。
「貴様の様な下郎は、あの世で悔い改めよ」
ジークフリードの背後から、五匹の龍の首が亜空間から現れる。
「な、なんだそれは?? 」
「この様な悪魔など、我が女神を守護する【五色の神龍バルフレア】の敵では無い」
龍達の県に強力な神霊力が圧縮されてゆく。
「滅せよ!! 」
ジークフリードの一言で、圧縮された五つの神霊力弾が魔王に炸裂し、その存在をアリストラス世界から消滅させたのと、アハローンの首がライラックに落とされたのは、ほぼ同時だった。
◆◇◆
デーモンの軍勢と、ゴドラタン第一軍とが戦端を開いたちょうどその頃、沖田総司の抜刀大隊は、敵銃撃部隊の待ち伏せに合い、多数の死傷者だした。岩陰に抜刀大隊を隠し、そこから膠着が続く。
「……銃撃が散漫になって来た?? 第二中隊は左から回り込め! 奴らの意図を探る! 第一、第三中隊は私と右からだ! 」
総司が抜刀し、大岩を迂回するように右に移動してゆく。
「……相手がビリーさんなら……?! 」
殺気を感じて、体を一回転させ、体勢をとる。頭上からの銃撃を間髪避けて、クナイを敵銃士に投げ、幾人かを始末した。
「遅かったな!! 」
ビリー・ザ・キッドその人が、頭上から総司目掛けて蹴りを放って来た。刀を放り、その蹴りを交差した両腕で塞いだが、凄じい威力が全身に伝わる。
「くぅ?!! なんて威力だ! 」
「銃士のくせにとでも思ったか?! 」
「何故です?! 何故! 」
総司は刀を拾い上げて、青眼に構え、ビリーと対峙した。今度は銃剣をつけた敵兵士が正面から殺到して、抜刀大隊と戦端が開かれた。
「……渡世の仁義ってやつだなや〜。その時の風任せってやつだ」
ビリーは、ホルスターに手を添えて、青く澄み渡った空を眺めた。
【ビリー・ザ・キッド】を、お送りしました。
(映画【ヤングガン】を観ながら)




