243 深き闇の落とし子
【深き闇の落とし子】を、お送りします。
宜しくお願い致します。
日本国 京都某所
帝都東京が、軍事、経済、政治の中心なら、ここ京都は平安の時代より霊的な守護を司る中心だった。京を囲う様に、巨大な五芒星が近畿一円に敷かれている。
安倍晴明の存在は消失したが、その血脈は明治維新後にも残り、その直系たる土御門家にはその陰陽の奥義が連綿と継承され続けていた。その家は今も御所に近い一条戻り橋近くにある。その広大な邸宅を一人の男が訪ねて来た。
「お祖父様……御見えです……」
白い狩衣を、纏った少女が来訪者を告げた。長い渡り廊下を歩むスーツ姿の男は、まだ見えない。どの様にして来訪を知ったのか?
少女が障子を開けると、そこに一人の男性が正座していた。
「良く参られた。5年振りかの〜? 」
黒い狩衣を纏い、正面に座る齢八十を超える男の見た目は、何処から見ても四十代で通る。
「翁殿、お久しぶりです。星祭以来ですね」
星祭とは、十年に一度、国の吉凶を占う行事で、政府中枢の者だけが参加する非公式の会合である。
「軍を司る高柳殿が来られると言う事は、例の? 」
「はい。異世界より来たアレを何とかしなければなりません」
「星祭で凶星と出た日より、其方は準備されていた。運命は人の行いで、ある程度引き寄せる事が出来る」
「翁殿から我が息子の運命が、星の運命に関わるとの言葉を頂いた刻より、準備はしてきたつもりです」
「我が娘、朱雀が彼の地に赴いている今、我ら土御門が出来る事は、たかが知れている。彼の地に転移した我らの太祖。その太祖の【真伝 奇門遁甲】が有れば、凶星を祓えるやも知れぬ。だがそこまで星祭では示され無かった。はたして我が娘が間に合うか? 」
翁が手を叩く。するといつの間にか黒装束の者達が、少女の背後に控えていた。
「朱雀の妹の、麒麟です。この者が高柳殿を御守りいたす。我はこれから陛下に拝謁し、中華帝国の座王の元に向かう許可を得る」
「それでは?! 」
「この星の命が吸われている。あの男とて、動かざるおえないだろう。この世界の魂が吸われていると言う事は、星の霊力が失われて行くと言う事だ。我ら土御門は、高柳殿に従い、その傘下となる」
翁は懐から一枚の呪符を取り出して、畳の上に置いた。
「フルベ、ユラユラト、フルベ……」
古神道の祝詞を呟くと、呪符を中心として、半径50cmほどの薄青い球体の結界が構築された。その中心にあった呪符の形が、少しづつ変形して行く。
「これは?! 」
「あの異空間【卵】の中身じゃよ」
呪符は完全に膝を抱くように丸くなった人形になっていた。
「ヒト?? いや……翼がある……天使? 」
それは旧約聖書に登場する天使の様な姿に見えた。
「?! 手のひらの上に何か?! 」
巨大な手のひらの上に、人影が見える。
「狩衣を着ている……なんだ? 」
それは明らかに人間だった。それも日本人だ。
「……こりぁあ、どうも闇が深そうじゃな……」
翁は、妙な汗をその手で拭った。
◆◇◆
デーモン達の進軍を止めるべく、魔導団による集団集積魔法が発動し、それを合図にゴドラタン帝国第一軍の攻撃が始まった。この数年の軍政改革によって、いままで貴族中心だった騎士団を、広く庶民の中から才能を拾い上げて採用し、才能重視の戦闘部隊に作り替えていた。
「第四大隊から第六大隊までの前衛を入れ替えろ! レッサーデーモン如きに遅れを取るなよ! 」
ライラック・バルバロッサ将軍は、馬上から的確な指示を出す。歩兵中心の前衛部隊だったが、凄まじく実戦慣れした部隊だった。次々とレッサーデーモンを槍で串刺しにしてゆく。
「グレーターデーモンだ! 」
その叫び声の向こう側で、兵士達の守備が崩されてゆく。だが巨大な長剣を、軽々と振り回すデーモンだったが、後方からゴドラタンの魔導団による火炎魔法攻撃と、氷結魔法攻撃の集中砲火によって消滅させる事が出来た。
「?! なんだ?! 」
その消滅させられた筈のグレーターデーモンの魂が、他のレッサーデーモンの魂達を吸収し、高密度のエネルギー体となった。そのエネルギー体が空間に亀裂を産み、その亀裂を押し広げる様にして、腕が這い出て来る!
「ア、ア、魔人将!! 」
【深き闇の落とし子】を、お送りひました。
(映画【スカイライン】わ、観ながら)




