164 召喚者達 弐(改訂-1)
【召喚者達 弐】をお送りします。
宜しくお願いします。
斎藤一は朝から機嫌が悪かった。このナイアス大陸南方では米作が盛んだが、味は日本の米よりもタイ米に近い。普通に炊いてみたがどうしてもパサパサする。朝飯は斎藤にとって重要な一日の要素であるのに、こんなパサパサしたご飯では力が出ない。正直げんなりした。千鶴子などは順応するのが早くて、こんな飯でも文句一つ溢さずに食べる。斎藤も飯ぐらいで愚痴を溢すのは武士として如何なものかとは思うので、我慢はしているが、イライラする。そうして三日目には米を粥にする事を思いつき、やってみたら何とか口に合う様になった。アリストラス皇國の皇都に到着して二日目の朝だ。今日はこの後、今後の事について会合がある。
「……飯ぐらいで、大層だな……」
カズキがボソッと呟いたものだから、さらに斎藤の気にさわった。
「飯ぐらいとは何だ! 日本男児にとって飯こそ大事! 貴様、それでも日本人か! 」
昔みた映画に出てくる軍人みたいなセリフだなと思ったが、相手にしない。
「男がビービー騒ぐな。充分美味いぞ、この飯は」
ワイアットが干した肉を口に放り込みながらそんな事を言う。
「これだから、異人の女は。もう少し言葉に気をつけろ、この味オンチめ」
「んだと!! 」
「二人共朝からやめて下さいよ」
千鶴子はオロオロしながら二人の間に入る。そこへ部屋の外にいる衛兵がドアをノックして入って来た。
「そろそろ、エレクトラ陛下との会合時間です」
「わかった。直ぐ行く」
カズキはさっさと身支度し始めた。仕方がなく皆も続く。会合には騎士団の団長も参加するとの事だった。兎に角情報を集め、纏めなければ事態の全貌が掴めない。正直全てが異常だった。飲み込んだふりをしてるだけだ。まったく納得は出来ていない。
「ヒロトが召喚された時、どうしたのだろう……」
そんな意味のない事を考えてしまう。疲れているのだ。
◆◇◆
エレクトラの執務室には既にエレクトラの他に二名の男が待っていた。歳の頃は五十過ぎで、人の上に立つ人間が持つある種の風格を備えている。入っていた皆をエレクトラが順に紹介していく。
「青龍騎士団団長カルミナだ。そして」
「儂は赤鷹騎士団団長のシリウスと申す」
二人の偉丈夫は皆と握手していく。斎藤などは握手の文化が無い為、思わずオロオロしてしまった。
「すぐに本題に入ろう」
カルミナが促していく。
「今回の召喚を行ったのは、北方にあるグランドロア聖教の紅蓮の巫女による儀式召喚だ。グランドロア聖教とは、創生の女神ケルン様とは違い、太古の魔導科学を信奉する連中で、アリストラス超帝国が崩壊した時に生き残った魔導科学師たちの末裔だ」
「魔導科学? まるでMMOだな……」
カズキはふっと思いだした。ファイヤーグランドラインの魔導科学と同義語か? そう言えばヒロトは確か、魔導科学の三種の神器を持っていたな……
「今では失われた技術体系を今に伝えているとか、いないとか。奴らはアリストラス超帝国の復活を目指して、ある物を探している」
「ある物? 」
「鍵だ。マルドゥクの壺を開ける鍵の様な物だ。壺と言われているが、実際に見た者はいない。壺かも知らないし、筐かもしれない」
「何だそりゃ? 」
「兎に角、その入れ物の中には膨大な神の知識が入っていて、それを解放すれば、アリストラス超帝国の遺産を動かせるとか」
「それと俺たちを呼んだ事となんの関係がある? 」
「このマルドゥクの壺の争奪には、アリストラスにある全ての国が動く。全ての勢力が壺を奪い合い、最後に残った国がその知識を得る。それがマルドゥク争奪戦争と呼ばれる今回の状況だ。今回、儀式召喚を行ったのは紅蓮の巫女だけではない、他の勢力も儀式召喚を執り行った形跡がある。強力な召喚者を軍に引き入れる為だ」
迷惑な話しだ。呼ばれた者の人権もなにも無視している。
「そんな事をして、召喚された者が素直に動くのか? 」
斎藤一は思わず机を叩いてしまった。
「動かん者も出てくるだろうな。だがこの戦いに勝たねば、召喚者も現世には戻れない」
シリウスは斎藤の眼を外さずに話す。
【召喚者達 弐】をお送りしました。
(映画【キングダム】を観ながら)