233 心意気は良し!
【心意気は良し! 】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「……クラビス、奴をどう見る? 」
いつのまにか、神巫であるエメラルダスの側に二人の人影があった。カズキとクラビスだ。
「……強いな、だが魔力は無い。神霊力を上乗せした体術か。おそらくだが太極拳だな」
「太極拳?って、たしか健康体操みたいな? 」
「太極拳は元々は殺人拳だ。元の時代に、道教の道士が編み出した技だと言われている。今では様々な流派に分かれていて、実戦的な陳氏太極拳などもある」
「ふ〜ん。まだなんか隠してるっぽいけど……それにあのレオニダスだっけ? 奴の能力は何だ? 防御に特化してるだけじゃ、無さそうだね」
「貴様らは高みの見物かや? 」
エメラルダスは、予想以上のチンギス・カァンの強さに苛立っている。
「俺たちはそれぞれ各自を尊重してるのさ、助けを求めない限りは手を出さない」
「余裕だのう、そんな事では?! 」
「ほら、見逃すぞ! 」
千場慶次が印を結び、真言を唱えると、空間に二つの穴があき、中から巨大な鎧腕が生えて来た。【魔人の腕】を防御に、自らは刃を鞘に納めて、居合の構えに入る。
「ほう? 貴様、和の国の者か? 儂が金を華北から追い出した頃に、和の国の海賊を見た事があるが、其奴が腰に下げていた太刀と良く似ておる」
チンギス・カァンが初めて構えを取る。左拳を少し前に、右拳は腰の位置にまで引き絞り、肩幅より少し広めに足を置き腰を落とした。
「……組み打ち術か? いや? 」
「儂のは少し中華の技法を取り入れておる。まあ、組み打ちと拳法の混ぜこぜじゃな」
チンギス・カァンは緊張も無く、上手く脱力している。
千場慶次も動きを止め、眼を閉じた。
二人の間で静寂だけが聞こえる。
お互いの呼吸がリズムを刻む。
だがそれは唐突に始まった。
チンギス・カァンが瞬きをした瞬間、千場慶次の姿が消えた。
チンギス・カァンの脇腹を貫通すると思われた白刃が空を切る。
身体を回転させ、逆に千場慶次の脇腹に掌を添えた。ただ手を添えただけだったが、凄じい衝撃が千場の体内に広がり、千場は崩れ落ちた。
「き、貴様……これは【暗勁】か?! 」
ゼロ距離からの打撃を体内に受けた男は、それでも技の正体を正確に把握していた。
「ほう? 流石だな。まあ、たいした事はない。貴様なら直ぐに起きられような。先程の【縮地】も、たいした物だったぞ」
チンギス・カァンは、視線の先にいるカズキとクラビスを凝視する。
「あ〜あ、目が合っちゃったよ。どうする? 」
「俺が行こう」
そう言ってクラビスが立ち上がる。
右手にベレッタM92を持ち、左手に大型のタクティカルナイフを持つ。
「次はお主か。お主の様な肌の男を、昔ペルシャ軍で見た事があるな……ふむ」
チンギス・カァンは顎に手をあてて、思案に耽る。
「俺はモンゴル人と手合わせするのは初めてだ。それにその体術は、中華の技法と貴様らの武術を組み合わせた物だな。非常に興味深い」
クラビスはだらりと腕を下げ、その動きにも無駄が無い。ごく自然体だった。
「……ここは面白い奴がゴロゴロ居るのう〜? 貴様のその足……何年やってる? 」
チンギス・カァンの指摘にクラビスの眉が上がる。
「さあ、何年かな? たしか五つの頃からだ」
「ふぁははははは!!! これはいい。今日は良き日だ! 久しぶりに楽しい日だぞ! 」
「……楽しくなれば良いがな……」
クラビスが構えを取る。銃をホルスターに収めて、素手で向かい合う。次の瞬間、一気にクラビスが距離を詰めた! たったの一歩だが、五メルデの距離をゼロにした! 踏み込んだ右脚が地面を踏み抜き、凄じい衝撃が足から伝わる。突き出した右拳の攻撃。だがそれを、
「?!! グフゥ!? 」
その右拳に合わせるように、チンギス・カァンが繰り出した掌底はその凄じい威力の拳を叩き落とした!
身体の軸がブレたクラビスに対して、チンギス・カァンは右肩から体当たりを喰らわせた!
「良い【震脚】だったのう。だが力の方向を変えさえすれば、何とも無い」
「ば、馬鹿な!!? 俺の【凡拳】を? 」
「ふむ、儂が中華に入った頃には無かった技だの〜地面に踏み込む【震脚】で極端な体重移動をさせて、その力を前に打ち出す技。その一点に年月を費やした心意気は良し! 」
「貴様、初見で【八極拳】を?! 」
全てを一撃で屠る技をかわされた。アンゴラで要人暗殺を生業としていた自分の技が?!
「【八極拳】と言うのか? 儂の頃は技に名前や流派など無かったからのう〜年月が経てば、技も体系化され、様々な流派が生まれるか……成る程、理にかなっておる」
【心意気は良し! 】をお送りしました。
(映画【ゴジラVSコング】を観ながら)




