163 召喚者達 壱 (改訂-1)
【召喚者達 壱】をお送りします。
宜しくお願いします。
どうも憂鬱だ。
他人の恋愛事に関わる事ほどくだらない事はない。勝手にやってくれって感じだ。だが奴一人が闇世界に潜られたら、見つける事は困難だ。だが女連れなら何とかなるか……
ヒロトはカームの街の薄暗い裏通りを歩き、街のゴロツキから聞き出した非合法の酒場に到着した。教えられた合言葉をドアに付けられた小窓から伝えると、ゆっくりと中に招き入れられた。
かなり広いホールに煌びやかな灯りと、甘い香りが漂い、軽快な音楽が鳴り響いている。イブニングドレスに身を包んだ女性達の間をすり抜けて、ヒロトはビリーを探す。
一番奥のソファにカーボーイハットを被った男を見つけた。
「遅かっただなや。もう少し早く来るかと思っただよ〜」
懐かしい変な訛り言葉を聞いて、何処か安心した。
「これでも急いで来たんだがな……領主の娘は? 」
「2階で眠ってる」
「娘を返してアリストラスに戻るぞ」
「まだおらの仕事が終わってないだよ〜」
声は穏やかだが、ビリーの瞳は笑っていない。
「……エレクトラに敵対する連中の仕事なんか捨ててしまえよ」
「そりぁ〜無理だな。ヒロト、お前には感謝してるよ。あの話しがなければ、おらは殺されてたからな。だが受けた仕事は果たすのが、西部のアウトローとしての矜持だからな〜」
左手の人差し指で、カーボーイハットを押し上げ、ヒロトを睨みつける。
「どうしても? 」
「ああ、どうしてもだ。無理にでもって言うなら……」
ビリーの左手がホルスターのスミス&ウエッソンにかかる。
◆◇◆
カイラースの駐屯地に、その知らせが届いたのは発覚から三日後だった。アリストラスの宮廷魔道士の使い魔を繋いで、途中からは一日馬を走らせた。ナイアス大陸西方地域の国境付近に軍の動きがあるとの事、そして紅蓮の巫女が今回の召喚に関与している等々の
情報がゴドラタン帝国よりもたらされた。ゴドラタン帝国とは先の災厄の渦以降、同盟が成立している。アリストラスとしても派兵の準備が必要になる可能性が出て来た。
斎藤一、ワイアット・アープ、御船千鶴子、カズキの召喚者四名も、皇都にエレクトラ共々移動する事となった。移動の道中で、この世界の基本的な情報、アリストラス皇國の事、ゴドラタン帝国との関係、災厄の渦の事などを話し合い、事態の根本的な原因がわからない以上、四人はエレクトラに協力する事となった。
馬車に揺られながら、カズキはヒロトの事を道中考えていた。あれはたしか自分がまだファイヤーグランドラインの攻略組に選抜されたばかりの頃、ヒロトはソロだったが、レイドには必ず攻略組の上層部から声がかかっていた。魔法を独自に開発、組み上げて行くセンス、卓越した剣技、そして何より大規模戦闘を指揮する姿は、美しいとさえ思った。だが三年前に突然ファイヤーグランドラインから姿を消した。それも最強最悪の魔導王との最終決戦前だった事を覚えている。あのレイドは運営側のミスでかなりの被害を出した。
「……ただの憧れだったのかもしれないな……あいつは覚えているのだろうか? 聞きたい事が山ほどある……」
「何か? 」
千鶴子がカズキに聞き返す。
「いや……ただの独り言だ……」
この世界でも【ファイヤーグランドライン】のシステムが使える。これは現世にある量子AIシステム【クリシュナ】と繋がっていると言う事だ。エレクトラの話しでは、【災厄の渦】という呪いとの戦いの中で、ヒロトは【虚なる神】という存在を、あろう事か【ファイヤーグランドライン】に量子相転移させ、封印した。
(そのおかげで、俺たちはこっちに来られたと言う事か……そして斎藤達は、また別の誰かに召喚されたのか……)
「化け物が出るって聞いてビビってんのか? お姉さんが守ってやんぜ! 」
「……俺より弱い奴に守ってもらう趣味はないさ……」
「んだっと〜! どっちが強えか白黒つけようじゃね〜か! 」
ワイアット・アープ。
二十歳の頃には既にガンマンとして有名になり、保安官事務所で助手として働いていた。アリゾナ州に移り住んでからは生活が荒れて賭博場の胴元屋や、売春宿の経営を行った。この頃街で無法を働くギャング達を武装解除させる嘆願があり、アープやドク・ホリデー、モーガン達は歴史に名を残す【OK牧場の決闘】事件を引き起こす。バントライン・スペシャルと呼ばれるコルトSAA45 軍用銃を愛用していた。銃身が16インチある特注品で西部に5挺しか流通していない。西部開拓史で五本の指にはいる早撃ちを誇る。事件の後、正式に連邦保安官(FBI)となる。
【召喚者達 壱】をお送りしました。
(映画 【スクリーム】を観ながら)