229 カルテット
【カルテット】をお送りします。
宜しくお願い致します。
スターズが手にした巨大な杖は、その先端に七色の宝玉が施され様々に変化する魔力を秘めていた。
二人の影が、金色に彩られた朝日に伸びている。
その一方の影、ヒロトの影が消えた。
消えたと思った影は、もう一方の影に対して神速の刃を抜き放っていた。その剣先とスターズの杖から発せられた不可視の障壁とがぶつかり、火花が飛び散る! が。その障壁が砕け散った!
「流石だ! 【災厄の渦】を乗り切ったその力は本物と言う事か……ならこれはどうだ? 」
スターズが杖で地面を二回叩くと、地響きとともに巨大な腕が地面から次々と起き上がり、ヒロトに襲いかかった。
その攻撃を飛ぶ様にかわし、さらにその腕を断ち切ってゆく。
スターズが爆裂魔法でヒロトを威嚇し、空高く飛翔した。腕を水平に払う仕草をすると、ヒロトの身体が横からの衝撃で吹き飛ぶ!
「貴様やクラインだけが無詠唱魔法を扱える訳では無いぞ」
杖を消して、今度は羽ペンを亜空間から取り出す。そのペンで何やら空間に文字を凄じい速さで書き殴ると、次々と火炎球が出現し、ヒロトを追尾攻撃しはじめた!
そもそも魔法とは、膨大な魔導計算を頭の中だけで行うことが困難な為に、詠唱や筆記を行いその手助けを行う、数学で言うところの方程式に近い。だが稀に初めから、見ただけでその答えを導き出せる人間が存在する。それが無詠唱魔法と呼ばれる事象だ。だがスターズのそれは、少し違う。
「私の場合、超帝国の魔導科学の結実だ。ありとあらゆる魔導の原理を解明した超帝国は、その解答を初めから体系化した。故に我が脳内にはすでに解答が存在し、それを選択するだけで魔法を呼び起こせる。貴様ら人間とは根本的に違うのだよ! 」
「さながらゲームでコマンド選択する見たいなものだな」
ヒロトは追尾する火炎球を潰して行きながら、スターズとの間合いを測っていた。そして、地面に着地し、密法でいうところの印を結ぶ。すると世界の色がまた変わり、黒い密閉空間に変化する。床には黒い水が一面に広がっていた。
「なんだ? この心象結界は? この憎悪は?? 」
「ここは冥界の三途の川だ。さあ亡者達が待っているぞ! 」
さらにヒロトが複雑な印を結ぶ。その途端、黒い水の中からスターズを引き摺り込まんとする無数の手が伸びる。
「ぐっがぁ!! なな何だ!! 」
スターズが必死にもがき、火炎球を水の腕達に撃ち込んでゆく。
「無駄だ、既に死んでいる亡者にそんな攻撃は無意味だ」
水から這い出て来た亡者がスターズに纏わりつき、巨大な死者の球が出来上がる。
「ん?! 」
その球の中から、閃光が溢れて炸裂した。オレンジ色の多層構造魔法陣が展開され、亡者達を吹き飛ばし、さらにヒロトの作った心象結界をも突き破った。
「【黄泉比良坂】を破ったのか?! 」
またヒロトはスターズと距離をとる。ここは先ほどの金色に輝く心象結界内だ。
「貴様、どこにそんな力がある?? この私の魔導知識に無い術だと?? どの世界線の魔法、魔術だろうとも全ての源はアリストラス超帝国の魔導技術から派生した残滓にすぎん。貴様らが居た世界線などは、魔法後進世界にあたる。そんな世界から来た貴様の操る魔法が、何故私の知識を超えている?? 」
そもそも自分が作った心象結界内に、更に別の心象結界を作るなど、常識を逸脱している。
「単純に、俺の作った【魔法】のオリジナル性が高いってだけだろ? 」
「オリジナル? 貴様が作った魔法だと言うのか? 馬鹿な、この宇宙に存在する魔法技術の基礎は全てアリストラス超帝国のシステムによって作られた。ただの人間がそのシステムの意思を超える事など出来はしない。六千年前に、超帝国の外宇宙機動艦隊が遭遇した外宇宙生命体【シオン】との戦争でも、魔法技術で我が帝国は奴らを圧倒したのだ。それを人間風情に……」
【カルテット】をお送りしました。
(映画【トゥルーライズ】を観ながら)




