226 二枚目の切り札
【二枚目の切り札】をお送りします。、
宜しくお願い致します。
弟は元気だろうか?
異世界に来てから半年近く経つ。
監獄に居ても、この世界に居ても、状況はそんなに変わらない。
動ける範囲が広いか狭いかの差だけだ。
「あの男……直ぐに状況を飲み込みやがった……千年以上のジェネレーションギャップがあるのに……何者だ? 」
ミカエラ・レッドフィールドはウイスキーによく似た酒をショットグラスに注いで飲み干す。この世界の食べ物は現世のそれと良く似ていた。
「だから孔明ですよ! 孔明! 三国志の! しらないんですか、お嬢! 」
カリムが捲し立てる。いがいと歴史オタクだ。
「知るかよ! 優男が、気に入らないね」
「でででも、お嬢は、あいつの顔をみみみたら、ぽーっとしてただな、うん」
身振りを交えてエルドアはミカエラを茶化しにかかる。目が笑っている。
「やややかましい!! あんな美形、じゃなかった、優男が場違いだと思っただけだ」
凄まじく反応がわかりやすい。
「あれは向こうもまんざらじゃ〜なかったな」
カリムが追い打ちをかける。この辺は阿吽の呼吸だ。
「そそうか? また罪をつくっちまうじゃね〜か。困ったな〜」
物凄く単純である。
事の発端は、行く先々の村や町で、グランドロア聖教連合法國の僧侶騎士団の横暴に対して、自分的には払い除ける程度のつもりで、対処していると、段々事が大きくなり、僧侶騎士団の主力部隊の一つを潰してしまった。さすがに法王たるバイナス・F・グランドロア七世の逆鱗に触れ、討伐隊が向かわされたが、そこを孔明が率いる【紅蓮の巫女】の聖騎士団が介入し、ミカエラ達を庇った為に、更に事が大きくなった。ニッコリ笑った孔明曰く、「法王のやり方が気に入らないから」と言う子供じみた理由だったが、その一言にミカエラは孔明と行動を共にする事にした。正直言って、心を打ち抜かれた気がした。
「ところで、この【紅蓮の軍】は、【黒龍の軍】と戦争中なんだよな? てことは、カズキともやり合ってるのか? 」
ミカエラはさらにウイスキーを注ぐ。
「はい、【黒龍の軍】とは交戦中みたいです。だけど、カズキは黒龍の軍を裏切って離反したとか」
「このタイミングでか? 」
「どうも【黒龍の軍】の織田信長を千場慶次が襲撃したそうです」
カリムもミカエラに付き合ってウイスキーをグラスに注ぐ。
「どうせ、【黒龍の巫女】でも攫う気だったんだろ。奴のやりそうな事だな。で? どうなった? 」
「むむむ無理だったんだな。うん。返り討ちにあって、しししっぽ巻いて逃げたんだな。うん」
「千場慶次がか?? 」
「バベルタワーの主が、織田側についたそうです」
「はぁ! お笑いだな。 バラバラじゃないか。カズキの思惑は崩壊か。で、俺たちの【紅蓮の軍】は勝てそうなのか? 」
やけに嬉しいそうだ。
「孔明が必殺の切り札を用意してるって話しです。だがそれを良く思ってない連中に足を引っ張られている」
「……例の法王か?! なら話しは簡単だな」
「はい。もっとも合理的な帰結です」
「ほほほ法王を排除すればいいんだな。うん」
法王は狼藉を働く僧侶騎士団の親玉だ。ミカエラ達三人からすれば躊躇う理由は無い。
「その切り札ってなんなんだ?? 」
栗の様な甘い木の実を口に放り込み、ウイスキーで流し込む。
「なんでも星の海にまで行ってたって言う、空飛ぶ船だとか」
「空飛ぶ船? 何でもアリかよ。ファンタジーだね〜」
「ファンタジーって言うより、超科学の塊みたいな船みたいですよ」
カリムはその話しを聞いた時に、ドバイの田舎で子供の頃に見た昔の再放送アニメを思い出した。たしか宇宙戦艦○○○とか……
「その船を起動させるアクセスコードは代々【巫女】だけが継承するとか」
「その分、【紅蓮の巫女】の身が危険か……ならそうなる前に」
ニヤリと笑みを浮かべて、ミカエラはウイスキーを飲み干してテーブルに叩きつける。
「そろそろ業務を始めるか」
【二枚目の切り札】をお送りしました。
(映画【笑う伊右衛門】を観ながら)




