218 殺戮の序曲
【殺戮の序曲】をお送りします。
宜しくお願い致します。
【蒼炎の軍】の右翼に動揺が走った。
左翼軍がほぼ壊滅したとの連絡が入ったのだ。それほどの敵大部隊が展開していたとの情報は入っていなかった。
「索敵を怠りおったな。前衛部隊に索敵を密にしろと伝えよ! これより我が軍は陣を移る」
我らが王は動かれない。王はあくまでも護られる存在。王が動くと言う事は、臣下が無能だという事である。
右翼軍は、中央軍よりも更に前進し、いつでも中央軍の盾となれる位置に再布陣した。そして右翼軍、中央軍に続々と左翼からの敗残兵が合流してくる。
「うぬが居て、ここまで見事にやられるとはな……」
アハローンからの最初の言葉は、敗残兵を纏め上げ、撤退の指揮をとったレオニダスに無視された。
「元々、布陣そのものが愚策だ。俺が進言しても将軍は受け入れなかった」
「なぜアレを使わなかった? 」
「アレは万能では無い。敵を返り討ちに出来たかも知れぬが、此方も更に被害が拡大しただろう」
レオニダスは、飲み干した葡萄酒のコップを放り投げた。
「アレは防御であって、防御では無い。攻めでこそ真価を発揮する。おれに中枢防御に当たらせた時点で負けだ」
「そう言うな。将軍の配置を批判するのは、王への批判と取られるぞ。現世と違って人材が不足している。それを補う為の我らだろう? この右翼の布陣も中途半端だ」
アハローンも葡萄酒を飲み干してコップを放り投げた。
「結局最後は、我らでやるしか無いと言う事だな。兵が居ても烏合の衆ではな」
「左翼をやったのは、源九郎判官義経だな? 」
「ああ、見事だった。あれほどの逸材は我がギリシャにもペルシャ帝国にも居なかった。あれはいわゆる鬼子だ。普通では無い」
「スパルタの英雄にそこまで言わせるとは、大した小僧だの」
「だが次は無い。騎馬軍などファランクスの敵では無い」
◆◇◆
朝靄の中、鉄と鉄が擦れる音が響き渡る。
数万の軍勢が行軍する様は壮観だった。だがこの軍の先には更に十五万を超える敵軍勢が布陣していた。
「敵騎馬隊の突撃は、我らの騎馬隊が相殺する。我ら抜刀歩兵大隊は敵主力部隊を叩く! 」
沖田総司率いる抜刀歩兵大隊は、悠然と歩みを進める。この部隊も【災厄の渦】の激戦を乗り越えた部隊だ。だが敵数万の騎馬隊を止められるのか?
「ほ〜う、素晴らしい景色よな?! 見渡す限り敵だらけだの〜」
宮本武蔵は、地平線に見えて来た大軍の横陣を見ても、気負うどころか、嬉々としている。
「全隊、衝撃波に備えよ!! 味方の攻撃で吹き飛ばされるなよ!! 」
総司の言葉で、皆が一斉に地面に伏せる。
天の雲の中心が一瞬光ったかと思われた。その中心から、ゆっくりと雲が周囲に拡散して行く。そしてもう一度今度は眩い光の束が、地上に向かって線を引いた瞬間、地上でその凄じいエネルギーが爆ぜた!!
周囲に衝撃波が広がり、遅れて爆風が乱れ飛ぶ!!
「ぐぅう!!! たた耐えろ!!!!! 」
エネルギー波が直撃した場所に巨大なクレーターが出現していた。衛星軌道上からの攻撃。戦闘衛星アルテミスのレーザー攻撃の爪痕だ。
「な、何だと?! 天空からの攻撃か?! 」
流石のチンギス・カァンも、意表をつかれた。アハローンが施した魔導結界を突き抜けてくるとは……
「陛下! お怪我は?! 」
近衛兵達が、自らの体でチンギス・カァンの壁となり防御する。
「問題ない! すぐに被害を調べろ! 陣形を再構築! 」
右翼を無視して、直接ここを狙って来るとは……それにこの威力は……
「……あのヒロトと言う男の仕業か……やってくれる」
◆◇◆
「敵中央軍に命中! 敵軍勢一万五千がロスト! 」
ヒロトは戦闘指揮を行う幕舎にて、目まぐるしく空間モニターを操作していた。
「黒豹騎士団、赤鷹騎士団は敵騎馬軍の足を止めろ! 青龍騎士団、沖田大隊は、敵正面に総攻撃! パルミナ連合軍第二軍は右側から回り込め! 」
空間モニターには、自軍は青、的軍は赤で表示される。
「各国の魔導団は、広域魔法準備 」
戦闘衛星アルテミスの次弾装填も開始された。乱戦になる前に、削れるだけ削らなければならない。
「広域魔法発動は、俺の詠唱で! 手筈通りに! 」
【殺戮の序曲】をお送りしました。
(映画【13日の金曜日】を観ながら)




