161 新たなる召喚 四 (改訂-1)
【新たなる召喚 四】をお送りします。
宜しくお願いします。
帝国の歴代皇帝を祀る祭壇の間に一人の美しい少女が、祭壇に置かれた水晶球を意識集中しながら覗き込む。水晶球は青白い色から紫に、そして真紅へと色を変化する。祭壇の間の扉が衛兵によって開かれ、マントを纏った美影身が入ってくる。少女もこの男も美しい金髪をしていて、神々しい。
「ナターシャ……どうか?! 」
男は少女の肩にそっと手を載せて、共に水晶球を覗き込む。
「各地に召喚されています」
ナターシャと呼ばれた少女は肩に載せられた男の手の甲に、自分の右手を重ね合わせる。
「ならばやはり紅蓮の巫女か? 」
「おそらく……」
「ヒロトに至急連絡を、そしてエレクトラ陛下にも早馬を送れ! 」
男は扉から外へ出るなり、矢継ぎ早に指示を飛ばす。
(紅蓮の巫女が動き出したと言う事は、奴らもまた動くと言う事だ、何処で見逃したのだ? )
「……不味いな。奴らは鍵を手に入れるつもりだ。ラウンズを呼べ! 」
「は! 右翼をでありますか? 」
皇帝付きの担当武官は急いでグラウス皇帝のあとを追う。
「右翼左翼、表も裏も全て召集しろ! 」
◆◇◆
酒場に煙草の煙が立ち込め、その煙に心なしか殺気がこもる。ビリーの名前が出た途端に険悪さが増した。ホールの壁際に陣取っていた一団が立ち上がってヒロトの方に向かってくる。カウンターの親父は、その名を聞かなかった事にして後ろに下がった。
「おい小僧! キッドの知り合いか?! 」
鎖の束を襷掛けした大男が凄んで来る。別の男二人がヒロトの逃げ道を塞ぐように後へ移動した。ヒロトはカウンターを背にして、大男の眼を真っ直ぐに見据えて
「……ああ、昔からの腐れ縁だ」
「そうかい、そうかい、奴には貸しがあってな貴様を領主に引き渡す」
大男はそう言って、襷掛けした鎖の束を手に取り、鎖の先を振り回しながらヒロトに間合いを詰めてくる。
キュィィィィィンンンンンン!!
鍔鳴りがしたかと思った矢先、大男の鎖の束が真っ二つに断ち切れた!
「なななんだと??! 」
大男が怯んだその瞬間にヒロトは当て身を食らわせて、大男をきげつさせてしまった。残りの二人は呆気に取られ、身動きが出来ない。ヒロトに刃を突きつけられ、冷や汗が止まらないのだ。
「その領主とやらが、ビリーと何か因縁があるのか? 」
更にヒロトの刃が頬に当てられて男達は震えた声で話しだした。
「十日ほど前に、奴がこの街にやって来て、領主の娘を拐かしたんだ、奴には領主から賞金がかかっている」
呆れて物が言えない。ビリーらしいと言えばらしいが……
「拐かしたって、さらったのか? 」
「……いや、お嬢様が奴について行ったんだ……」
◆◇◆
神託の杜からカイラースの街に移った。ここは神託の杜が近いため、皇國の直轄地として僻地であるにもかかわらず栄えている。最近ではゴドラタン帝国やパルミナ連合王国の商人が訪れて、特産品の絹織物の反物を買い付けてゆく。
ふと斎藤一は西洋の街並みとはこの様な物なのだろうと、物思いにふける。昨日は宿屋で気を失う様に眠った。こんなに深く眠ったのは、京の新撰組屯所を旗揚げした頃以来か。他の三人はみなそれぞれ違う場所、違う時代から召喚されたと言う。いまだに信じられないが、実際に目の前にこの様な世界が広がっている事自体が、その証明かもしれないと思い始めている。切り替えが早いのだ。
一向はアリストラスの駐屯地にある控えの間でエレクトラを待っていた。
「……あんた、変わった格好だな。いつの時代から来たんだ? 」
斎藤からカズキに話しかける。この物静かな男からすると、珍しい事だった。それほどカズキの出立ちが異様なのだろう。
「……あんた斎藤一と言ったな……新撰組が存在した時代から大体ニ百五十年後の世界からだ」
こともなげに話すと、皆んな絶句した。
「あんたとワイアットは同世代だろ、そっちの御船は……」
カズキは隣のソファーに座る少女に視線を向ける。
「千鶴子でかまいません」
「なら千鶴子は、少しあんた達より三十年ぐらい後からだな。だから俺とはニ百二十年ぐらいの差か」
「そんな話しを信じろと? 」
「信じる信じないはあんたの勝手だよ。だがそれが事実だ」
ファイヤーグランドラインをプレイする前はよく、異世界転生のゲームもプレイしていたから、すんなりこの異様な自体を飲み込めた。だがバーチャルとリアルの差があるが……俺はこの時の為に準備してきたんだ。
【新たなる召喚 四】をお送りしました。
(映画 たそがれ清兵衛を観ながら)