209 流石は戦国の魔王!
【流石は戦国の魔王! 】をお送りします。
宜しくお願い致します。
白で統一された清潔感のある室内。
豪華であるが必要以上の華美は無く、
その部屋の主人の人柄を表している。
そんな部屋に音楽が響き渡る。
その音色は、聴く者の心をざわつかせるに十分だった。
「なんだ?! この音楽は……モーツァルトだと? 」
千場慶次は、ただの音楽では無いと即座に看破した。そもそもこの世界でモーツァルトなどあり得ない。
『虫の分際で、我が巫女様に手出しするとは、畏れ多い事だ』
音楽と声が直接脳に響いてくる。
「……そうか、貴様が噂に聴く【音楽家】か?! 噂通りヘボい演奏だな。たしかサリエリとか言ったか」
千場慶次は両手を激しく動かして陰陽術の印を結ぶ。その両手の平で四角い枠を作り、その枠を辺りに向けて行く。
「そこだ!! 」
袖口から針を抜き出し、そのまま投擲した。壁に突き刺さった針の根本から血が流れだす。
『な、……なんだと?! 何故?! 』
「俺は、亜空間を自在に操る。貴様の本体が空間と空間の狭間に在る事は直ぐにわかった。後は攻撃するだけだ」
壁際の空間に縦筋が入り、その筋から男が落ちて来た。正に何も無いところから、落ちて来たのだ。胸から針が生えている。
「何故、我が能力が効かぬ?! 」
「簡単だ。脳に直接音で攻撃するなら、その脳を亜空間に隠せばいい。それだけだ。それに本命が到着した様だ」
床に這いつくばる男に、日本刀を抜いてトドメを刺した。
「……雑魚を当てがって済まなかった。日の本の者か? 」
凄まじい圧力が扉を吹き飛ばし、暴風の様な男が入ってくる。
「ああ、だが今は故あってバチカンの【クルセイダー】を拝命している。あんたが織田殿か? 」
「である……ナターシャを渡す訳にはいかぬ。立ち去るがいい」
「そう言われて、はいそうですかって言えないわな」
手にした日本刀を青眼に構えて対峙する。ただし普通の日本刀では無い。日本刀はソリがあるが、この剣は直刀だった。
「そうか……では仕方がないな」
そう言いながら、織田信長も腰の日本刀をゆっくり抜き放つ。その刀身から凄まじい妖気が立ち昇る。
「貴様、その刀……なんだそれは?? 」
いまだかって見た事がないほどの妖気。そんな刀が在るとすれば……
「【妖刀村雨】この世界で我が刀に出会えるとは思わなんだがな……」
「やはりそうか! 素晴らしい! その刀を献上すれば枢機卿もさぞお喜びになられる。ならば本気を出さねばならんな」
おもむろに直刀の鍔を外す。代わりに懐から十字架を模した鍔を直刀に装着した。その瞬間、刀身が銀色に輝き出す。
「……貴様こそ、なんだそれは? 」
信長の興味を引いた様だ。面白い物を見ると笑顔になる。
「かって戦国の終わりに、伊達政宗がヨーロッパに派遣した者たちがいた。その一団の中に一人の刀鍛冶が同行した。その男は、フランスの古い教会で、一振りの槍を見つけたのだ。槍と言っても持ち手の木は腐り落ち、刃の部分だけだったが、その男は持っていた玉鋼と合わせて一本の剣に打ち直した」
千場慶次は刀身を左下に下げて、
「【神刀ロンギヌス】バチカンに伝わる秘宝の一つだ。その妖刀とどちらが上か」
一気に刀身から神気が吹き上がる!!
先に動いた信長の袈裟斬りの一刀を、千場慶次は下から跳ね除け、そのまま斜め上方から信長の首を狙った! だが返す刀で信長もその攻撃を跳ね返す。
「やるな! 流石は戦国の魔王! 剣筋も凄まじいな……だが」
左手で印を作り、素早く何事かを呟く。
すると、左手側の空間から巨大な鎧腕が現れ、信長を追撃する。
「ほう、面白い手品だ……おい! いつまで寝ているつもりだ? 」
『人使いの荒い方だ。演奏を再開致しましょう」
またモーツァルトの曲が流れだす。すると千場慶次が苦しみ出した。
「ば、馬鹿な!! 貴様何故?? 」
【流石は戦国の魔王! 】をお送りしました。
(映画【峠】を観ながら)




