208 蠢く者
【蠢く者】をお送りします。
宜しくお願い致します。
ラムセス二世。
紀元前千三百三年誕生のエジプト新王国第19王朝のファラオ。当時鉄の生産を独占していた技術大国のヒッタイト帝国に外征し、戦いのすえ、世界で最古の平和条約を締結(エジプト・ヒッタイト平和条約)。七人の王妃と、二百人の側室を抱えて、九十歳まで生きたとされる。
諸葛亮、夏侯惇、ラムセス二世は、カズキ達との間合いをはかり、ここは撤退する事に決めた。それは目の前のカズキと言う青年の底が見えなかったからだ。剣士の様でいて、それだけでは無いと言う確信があった。
「【黒龍の軍】の別働隊が迂回して背後に出ようとしています。ここは一旦引いて立て直しますよ」
諸葛亮はビリーの銃撃隊の動きを察知して、速やかに引く事を判断した。
「まて! 貴様の奇門遁甲、あれは神仙術なのか?! ならば、神仙力と呪力を混合した奇門遁甲の事を知らないか?! 」
朱雀は皆を押し除けて諸葛亮に話しかける。
「混合した?……はて?……その様な凄まじい事、考えた事もないですね。普通なら相反する陰と陽の力が反発し、術の発動どころでは無い筈、そんな事は太公望でも無理ですよ。貴方の時代にはそれが普通に有るのですか? 」
諸葛亮は、顎に手を当てて考えてみるが、やはり自分の知識には無い。
「先の【災厄の渦】の時に召喚された、我らが流派の太祖が、編み出した術が【陰陽奇門遁甲】だ」
「もしそんな凄まじい術があるなら、私も見てみたいですね。頭の中には置いておきましょう……それでは、我らはこれにて……」
孔明達は、その言葉と同様に、その存在そのものが陽炎の如く消え失せた。
「……逃したか。奴ら強いな。また遊べる時が楽しみだ」
カズキは何処までも能天気だった。
「ビリー・ザ・キッドの隊が近づいている。そろそろか? 」
クラビスが朱雀に目配せすると、朱雀は腕時計を確認する。
「……あぁ、あと三十分ほどだ」
◆◇◆
ブランデン王国の王宮を摂取して、要塞化した。そんな王宮のほぼ中心部にナターシャの執務室はあった。だがそれは形だけで、殆どの実務は織田信長が執り行っている。軍事、政治、経済、ありとあらゆる考察、判断、決断が凄まじく速い。そのフォローすら出来ないでいる自分が歯痒かった。
「まるで、兄様の様……」
自分が裏切った兄の顔が思い浮かぶ。システムに強制せれていても、兄を裏切る行為は、耐え難い苦痛を伴った。
「お兄様……」
その一言の後に、いきなり怖気が背中に走った。
「ナターシャ様、お迎えに参りました」
黒いレザーコートに身を包んだ男が、いつの間にかナターシャの執務室の壁際に立っていた。全く音がしなかった。扉はナターシャが座る椅子の対面にある。気付かれずに入る事は不可能だった。
「貴様、なに奴だ! ここを【黒龍の巫女】の執務室と知っての狼藉か?!! 」
ナターシャは怒りが恐怖を上回り、立て掛けてあった細身の剣を掴み立ち上がった。
「貴女様を圧政者から解放する為、我が主人より遣わされた者で御座います」
「……あなた、召喚者ですね? でもシステムに縛られていない?? 」
目の前の男は、どう見ても召喚者だ。だが巫女に召喚された者は、自動的にシステムに縛られ、巫女を誘拐など出来ない。
「我らは自らの意思でこの世界に来た。その為、貴方が言うところのシステムという物に左右されない」
「馬鹿な、そんな事……超帝国のシステムは各世界線にまで影響する。そのシステムの影響を回避しているだと? 」
「小難しい事はよくわかりませんが、兎に角、織田信長に渡した【黒龍の軍」の指揮権を我が主人に移譲して頂きましょう。手荒な事は私もしたく有りませんのでね」
腰の日本刀に手をかけるそぶりを見せた瞬間、何処からともなく音楽が聞こえて来た。
【蠢く者】をお送りしました。
(映画【宇宙戦争】を観ながら)




