207 余の側室にならぬか?
【余の側室にならぬか?】をお送りします。
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崩壊した砦が有った場所の空中に二つの輝きが浮かんでいた。その輝く結界の内側に二人の人影が見える。カズキの超重力攻撃にすぐさま物理攻撃遮断の結界を張り、耐え抜いた存在がいたのだ。
「凄まじいですね。さっきのアレは、巨大な神霊力を剣に集める事で発動する宝具の一種ですね。人間にあんな物が扱えるとは……何者です? 」
「召喚者ですね。先生、彼が仕掛ける様です! 」
カズキに向かって地上を一気に走り抜ける者がいる。
カズキに一瞬で肉薄し、その左手に持つ巨大な錫杖を旋回させカズキの後頭部を狙った。
カズキはその攻撃を重力剣で受け流す。一瞬の攻防。
「ほう、余の攻撃を受け流すかよ……だが、これならどうだ?! 」
褐色の肌をした偉丈夫は、錫杖を右手に持ち替えて、神霊力を流し込む。それを見たカズキも同じく神霊力を重力剣に流し込み、二人は睨み合った。その二人の姿が一瞬消えたかと思うと、空中で剣と錫杖がぶつかり合い、そのエネルギーが弾け合う!
その褐色の男が更にカズキに肉薄しようとした瞬間、横合いから、殴りかかって来た存在を男は軽く捻ってかわし、逆にその者の首を絞めあげて拘束した。
「ぐぅぅぐぁ! 」
白虎は締め上げられ、苦悶の表情を浮かべる。
「この世界にも良い女はいる様だな。どうだ? 余の側室にならぬか? 現地妻と言うやつだ」
褐色の男は、白虎の太ももを撫で上げる。
「て、手前ぇぇええ!! 俺に触っていいのはカズキだけだ! 」
抵抗する白虎に気を取られ、男はカズキからの一撃を肩口に喰らって、地面に叩きつけられたが、直ぐに土煙の中で立ち上がり、不適な笑みを浮かべる。
その男の隣に音もなく白髪の男と少年も降り立った。
「貴様、何者だ?! 」
カズキは褐色の男から眼を離さずに、剣先を向ける。
「余に剣先を向けたのは、ヒッタイトの王と貴様ぐらいだ。誇って良いぞ! 幼名をウセルマアトラー・セテプエンラー、世界の中心にて、太陽神ラーに選ばれし我が名はラムセス。ラムセス二世である」
口上を垂れる男の頭上から、コンバットナイフで襲いかかったクラビスの攻撃を紙一重でかわし、蹴りをいれた。
「な、なんだと……ラムセスだと?? 」
クラビスは口から血を流しながらも、即戦闘態勢を取る。完璧に気配を消した攻撃を避けて、反撃して来た。
「偉そうに出て来るな。先生はお前なんかの手を借りなくても大丈夫だ! 」
少年がラムセス二世にくってかかる。
「貴様ら下僕の窮地を救った英雄に対して言う言葉か? 」
「誰が下僕だ誰が!! この僕、夏侯惇の事はよいが、孔明先生の事を……許さないぞ! このエロガキ! 」
「毛も生えて無いガキンチョが、この私に反抗するか?! 」
二人は鼻を突き付けて、ガルルルルっと唸り声を上げながら、向かい合う。
「夏侯惇に……孔明だと?? 貴様の名は、あの孔明か? 」
クラビスは既に態勢を整えている。
「あの孔明とは、どの孔明を指すのかわかりませんが、そもそも、孔明は字です。名は諸葛亮と申します。いごお見知り置きを……」
諸葛亮、字を孔明。
荊州に弟と共に移り住み、若くして俊才としと名をなしていた。がまだ本当の才能は隠したままで、本来の自分の才を扱える人物の到来を待っていた。劉表の元にいた者達の勧めで、流浪の劉備が諸葛亮と会おうとしたが、断られた。三度足を運び、【三顧の礼】をもってこれを迎える。その際に【天下三分の計】をとき、そこから天下への道筋を示す事となる。【赤壁の戦い】は伝説。
後漢末期から三国時代最強の軍師にして、政治家。
夏侯惇、字を元譲。
従兄弟の曹操が董卓と戦う為、挙兵した当時から副将を勤め、共に数多の戦場を駆け抜けた猛将。幼少期より勉学か好きで、真面目に学ぶ事が多かった。自分の師を大事にし、様々な学問の師を持つ。曹操が逝去すると、その子、曹丕が家督を継ぎ、魏国最初の大将軍となるが、曹操の後を追う様に病に倒れ、帰らぬ人となる。
三国時代、十指に入る将軍である。その性格は、清廉で慎ましやか。余財があれば、貧しい者に分け与え、金が足らない時は、官吏から借りて、決して不正な蓄財を行わなかった。埋葬された墓には、一振りの剣しか入っていなかった。
【余の側室にならぬか?】をお送りしました。
(映画【ナイル殺人事件】を観ながら)




