206 グラビティ・デッド・エンド
【グラビティ・デッド・エンド】をお送りします。
宜しくお願い致します。
男は更に団扇を振るう。
右に、左に、
その動きに合わせて泥の兵隊達が徒党を組み、連携しながら次々と襲いかかってくる。一体一体は大した事は無いが、その連携は長い年月をかけて磨き上げた様な鋭さがあった。
「かつて戦国の中華を最初に統一した秦。その皇帝嬴政を黄泉の世界で守る兵士達の魂を、泥に憑依させる神仙術の奥義の一つです」
「先生、私も神仙術を学べますか? 」
惇少年は、男に瞳を輝かせたが、帰ってきた答えは、
「惇、君は現世で偉大な将軍の一人になる。神仙術はまた次の機会にしなさい。それより君は軍略将棋を覚えないといけないよ。まだまだ読みが浅い」
「わかってますよ、ちぇ! もっと派手な、例えばドカンっと爆発するような術の方が興味あるんですけどね」
「向き不向きがあるからね……君は実際、現世に戻って二十年もすれば、中華でも十指に入る剛の者になるのだから」
「それって、オッサンになったらって事ですよね? なんか複雑な気分だな〜……ところで、あいつはどうなるの? 」
「彼は、そうですね……君にとっては頼もしく、私にとっては……そう、恐ろし存在……かな」
男は、そう言いながらも、団扇を振るい、泥の兵隊を操作する。
「恐ろしい? それは……」
「惇、一つ伝えたい事がある。軍隊には二種類ある。わかるかい? 」
「……善と悪ですか? 」
「いや、民衆を押さえつける軍隊と、解放する為の軍隊だ。悲しいが世界の軍隊は、ほとんどが前者だ。民衆を守る筈の存在が実は一番民衆を抑圧する……秦がいい例だ。結局武力で世界を手にしたら、最後は武力で葬られる。いいかい惇、その事を心に刻め。民を守る自分であれ。いいね」
「……はい。肝に銘じます先生」
(そう、君は真っ直ぐでいい。私の様に間違えてはならない)
男は一瞬だが寂しそうな顔した。だが、
「何だ? この力は?? 惇、不味い! 軍を撤退させる! 」
◆◇◆
泥が覆う大地に、馬から降り立ったカズキは、打って変わって不機嫌だった。見た事の無い術だからと言って、やられ過ぎというものだ。
「……朱雀、兵を引かせろ」
「いや、まだだ! 」
「朱雀! お前の式神では、相性が悪い。兵を引かせろ」
カズキはそう言いながら、朱雀の前にでる。身体から凄まじい神霊力が漏れ出している。
背中からゆっくりと剣を抜き、一気に神霊力を流し込む。
「やべえ! た、た待避だ! 巻き込まれるぞ! 」
クラビスはそう言いながら、周りの兵達を連れて後方に下がる。
「カズキがブチ切れてる! 青龍とっとと下がるわよ! 」
白虎と青龍は、一気に後方へ跳躍した。
「俺は間に合わんな」
玄武は、小声で呪文を唱え、瞬時に自らの周囲に防御結界を構築した。
それと同時にカズキは、左足を一気に踏み込み、肩に担いだ広幅の剣を上段から振り斬った!!
ギュィィィィィィィィィィイイイイインンンンン!!!!
金属音の連鎖の様な音が響き渡り、剣先から放たれた紅色の波動が前方にある砦に向かって走る!!
一瞬の静寂の後に、凄まじい爆裂音が起こり、文字どうり砦が吹き飛んだ!! だが、本当の凄まじさは、これからだった。爆裂し吹き飛んだ砦の残骸が、広範囲に吹き飛ぶどころか、空中で動きを停止したのだ! カズキが残骸の中心に向けた剣先を上に向けると、それに合わせて残骸も上へと移動する。
「重力剣、グラビティ・デッド・エンド! 」
カズキが小さく呟くと、その目の前の空中に停止した砦の残骸は、その残骸の中心点に向かって集まり、集束、そして圧縮されて黒い小さな渦となり、小指ほどのサイズの玉になった。砦を構成した質量が、小指ほどのサイズにまで圧縮されたのだ。そして黒い圧縮された玉は、カズキの掌に吸い込まれた。
【グラビティ・デッド・エンド】をお送りしました。
(映画【ゼロ・グラビティ】を観ながら)




