201 眠りの雨 (改訂-1)
【眠りの雨】をお送りします。
宜しくお願い致します。
この時期は雨季の為、時々土砂降りの雨に出会う。
この雨季のおかげで、ナイアス大陸南方域の農作物は、南方域の人口分を賄い、さらに各地域にまで輸出されている。
ヒロトは、自分に用意された幕舎で目が覚めた。天井を眺めていると、涙が溢れて来た。やはり、この戦争はおかしい。お互いに巫女が殺し合うこの戦は、【災厄の渦】と同じ蠱毒の一種だ。毒虫を喰い殺しあわせて、最強の毒虫を作り出す為のシステム。そんな慈悲の無い支配者を作り出してどうするのか?
「目覚めたかい? 」
笑顔のワイアットが視界に入ってくる。
「あぁ……俺はどれくらい? 」
「二日間寝っぱなしさ〜。少しはマシかい? 」
「人殺しに慣れることなんて……」
半身を起こしてみたが、節々が痛い。
「あたいは、子供の頃から野党だの強盗だのの相手をしてるから、慣れちまったけど……旦那はそれでいいさね。それに初体験であの数は中々ね……まあ、一人殺すも、千人殺すも」
その一言で、またヒロトは気分が悪くなった。
「悪い悪い! まぁなんだ、セックスでもするかい? 」
そう言うなり、ワイアットが服を脱ぎ出した。
「な、な、なに言い出すんだ! 」
そんなそぶりをしても、下半身が直ぐに元気になる自分が情け無い……
「あたしゃ、頭が悪いからさ、こんな事しか思い浮かばないんだよ。だけど旦那の事はその……嫌いじゃないよ……ほら」
全ての服を脱ぎ去ったワイアットを見て、ヒロトは美しいと思った。
「あたいの本名はさ、ヴァイオレットって言うだ」
「ワイアットは本名じゃないのか? 」
「あたいが育った何処は、荒くれ者だらけでさ、母さんが男として育ててたんだよ……」
そう言いながら、ヒロトと唇を重ねていった。
「あんた、【災厄の渦】とかって戦いで、いい人に出逢ったんだろ? それでもいいさ、今だけでも……ね。どうだい、あたいの胸、綺麗だろ? 」
ヴァイオレットのそんな言葉を聞きながら、ヒロトからも唇を重ねた。
◆◇◆
翌朝、ライアット公国の国境地帯には、各国から派遣された軍が続々と集結しつつあった。パルミナ連合王国派遣軍は最大戦力の八万を動員し、ゴドラタン帝国も虎の子の第一軍五万を移動して来た。トーウル王国ですら、国内の兵力をかき集め、二万もの兵を派遣してくれたのだ。
「皆、エレクトラ皇女陛下に代わり、感謝いたします。これでアリストラス軍七万を足すと、総勢二十二万の兵力になる。何とか戦として成り立つ数字だ」
アリストラス軍青龍騎士団長カルミナが居並ぶ諸将に頭を下げる。
「礼など必要ない。我らは、我皇帝陛下の意向により動いているに過ぎない」
ゴドラタン帝国第一軍のライラック・バルバロッサ軍団長である。
「帝国の剣と言われるナイト・オブ・ラウンズと、肩を並べる事を誇りに思うぞ」
パルミナ連合王国第一軍のアメン将軍がライラックの背中を叩く。
「で? この軍の神輿はカルミナ殿だが、実際の指揮官は? 」
「私がこの【白銀の軍】総司令を拝命したヒロトです」
ライラックは値踏みする様に眺め、
「貴公が召喚者のヒロト殿、【災厄の渦】の英雄か……」
「そんな大層な者ではありませんが、エレクトラ皇女王陛下より全権を賜っております」
ライラックからの視線を直視する。
「皇女王陛下が任命されたのであれば、何も言う事はない」
ジークから聴いていた印象とは少し違うな……
「挨拶はそれぐらいでよかろう? 勝算はあるのだろうな? 」
アメン将軍が、広域地図を広げたテーブルに視線を投げる。それに合わせてヒロトもテーブルについて、
「現世にて、モンゴル帝国が起こした、ワールシュタットの戦いを修正して戦う。モンゴル帝国は無類の強さを誇り、ポーランド、神聖ローマ帝国、ドイツ騎士団、テンプル騎士団などのヨーロッパ連合軍を撃破した。当時最強の軍と言っても過言ではない。その帝国を築いたのが、俺たちの目の前に迫る、チンギス・カァン皇帝その人だ」
そんなくだりから、ヒロトは話しを始めた。
【眠りの雨】をお送りしました。
(映画【ベティブルー】を観ながら)




