197 激動の始まり
【激動の始まり】をお送りします。
宜しくお願い致します。
【紅蓮の軍】が東方域国境を越えたと、一報が入った。ブランデン連合軍本営から各地の砦に通達が走る。
「敵軍先鋒は、クザン渓谷に軍を進めています。近隣の住民に避難勧告を発令しました」
ビリー・ザ・キッドの副官に就任して、一月がたつが、まだビリーの性格を掴めなかった。
「なんか、嫌な雰囲気だなや〜。首の後がピリピリするだよ〜」
首の後を撫で回して、ビリーはげんなりした。
「お館様から、今回の防衛戦は我ら銃撃部隊である第一軍と、もう一つ第二軍の共同戦線になります。あとからお館様もクザン渓谷に入られる予定です」
「信長が来る??……どう言うつもりだ? 」
「私などに、お館様の深いお考えの真意は測りかねます。ビリー様なら理解出来るのでは? 」
深い考えなんかあるのか? ただの気まぐだろ? ビリーは頭をクシャクシャっと、掻き上げながら、
「第二軍の指揮官は誰だにゃ? 」
「新顔の召喚者です……名は確か……【カズキ】です」
副官は手元の資料をめくり、その変わった名前に辿りついた。
「召喚者? か……」
信長からは、何も聞かされていない。
成る程ね……こう言うパターンもあるだか……全てを信用してはいないと言う事だなや〜
「他には? 」
「このカズキと言う召喚者に連れがいる様で、何人か召喚者が第二軍に配属されています」
「……顔を合わせた事も無い連中と、連携だと?……いや、連携など考えていないだなや〜」
【紅蓮の軍】の召喚者は、希代の軍師との噂が聞こえてくる。そんな奴と戦えるのか?
「ライフルの搬入状況は? 」
「ブランデン工廠からの二回目搬入が、千二百、三回目搬入が、千四百です」
「一回目と合わせて、四千か……何とかなるだなや〜」
こう言う事は、いままでメイデルに任せていれば良かった。つくづく有能な奴だったと思う。無い物ねだりしても、仕方が無いから、クザン渓谷の地図に目を落とした。
◆◇◆
五十万の野営地ともなると、かなり広い場所が必要になる。エルファンの王の幕舎を中心に、円形に広がっている。
本来、砂漠を渡る民達は、昼間日差しを避ける為に、ウールを編み込んだ厚手の布を数枚重ねて日除けにする。ウールは通気性がよく、外気熱を通しにくい。だから日中は休息を取り、夜間に移動する。だがグランパレス外縁部に到達してからは、その必要がない為に、普通に夜間野営する。
「奴らはどうであった? 」
エルファン王であるチンギス・カァンが、白のローブ姿の男に問いかける。
「……あの戦闘力は並ではありませぬな……あのローマ軍精鋭部隊であるエジプト駐留軍よりも上かと……当然、エルファン軍よりも……」
「はっきり物を言う……それ程か? 」
「我が【災い】の化け物共を簡単に退けました。並の練度では無いと推察します。それにあの召喚者共、一騎当千の強者揃い。【災厄の渦】とやらを乗り越えたのは伊達ではありませぬな」
「アハローン、貴様の【災い】を退けるとは、流石は【十剣神】をいく人も抱えるアリストラスと言ったところか。
アハローン。古ユダヤ人。アラブ語でハーローン。
出エジプトでヘブライの民を導いたモーゼの兄にあたる。英語圏ではアロンと言う。
アラブ世界では、神の子モーゼから神託を受け、民と中継ぎをする預言者の一人とされている。神から下された【十の災い】の実行者。弟モーゼと違い、神の奇跡の行使は出来ないが、魔術・妖術に長けていた。シナイ山で、神託を受けるモーゼの帰りを待てずに、悪魔下ろしの儀式を行った為に神罰を受けた。古代オリエント世界の伝説級魔術師である。
「ですが、魔導の類いを行使出来るのは、先日の男のみかと……他にはそれらしい人物の存在はありません」
「ならばやり様があるな。貴様の【災い】と、我が精霊術師達とでな」
チンギス・カァンは、馬の乳で作った酒を一気に煽った。
【激動の始まり】をお送りしました。
(映画【キングダムⅡ】を観ながら)




