195 心の声が漏れ出してるぞ!
【心の声が漏れ出してるぞ! 】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「何だ? 急に空が暗くなった?? 」
さっきまで快晴だった空を総司は凝視した。
既に【白銀の軍】はヴァイアの街を出立し、グランパレス国境に布陣した。
「敵の術の類いか? 武蔵殿! 」
斎藤一が、隣を並走する武蔵に声をかける。その武蔵も空を凝視したまま動かない。
「大気に殺気が混じっている……」
「……嫌な感じです……何者かの強烈な意志を感じます……」
御船千鶴子は、総司の馬に乗り、空を凝視きた。
「ヒロトが帰る前に、この谷に馬防柵を張り巡らすぞ! 塹壕も随時な!! 」
ライラ団長は、全ての兵達に指示を飛ばしてまわる。
「なんだ?? 」
総司が、眼を凝らす。世界が暗闇に包まれてよく見えない。無数の気配を感じる。
「蛙?? いや、蛙人間?! 」
それは人の身体に大きなカエルの頭を乗せた様な姿をしていた。リザードマンのカエル版だ。差し詰めフロッグマンか。各々が三又の槍を持って向かってくる。
「敵襲!! 銃士隊は隊形を調えろ! 敵数、二百……いや、三百! 」
メイデルがワイアット不在につき銃士隊の指揮をとる。敵の数はさほど多くないが、並の兵士の倍近い体躯があり、さらにかなりの敏捷性だ。
「一段目、撃てぃ!! 」
凄まじい轟音が鳴り響き、白煙が立ち込める。だがその中を無数の足音が響いてくる。射撃を物ともせずにフロッグマンは向かって来た。馬防柵に飛び掛かり、乗り越えてくる。
「抜刀隊! 前にでろ! 蛙共を駆逐する! 」
斎藤一の抜刀二番隊が柵を乗り越えたフロッグマンに向かってゆく。赤鷹騎士団から選抜された人員を更に篩いにかけて、選りすぐった者達だ。新撰組と同じ修練について来れる者達である。一気にフロッグマンの勢いを押し返した。三体のフロッグマンが、斎藤の前を塞ごうとするが、斎藤は一呼吸で、三体を切り捨ててゆく。
「我らは後続の敵を殲滅する。抜刀一番隊、続け!! 」
馬防柵の前に沖田総司が出た。抜刀一番隊は【災厄の渦】を乗り切った特別大隊を再編成した部隊だ。戦闘力は九郎が指揮する遊撃師団に匹敵する。
総司が突出して、敵を薙ぎ倒している。だが以前よりも雰囲気は静かになった。静から動への瞬間的な速さが凄じい。
「……あやつ、化けよったな……」
馬防柵の内側で一人佇む宮本武蔵は、総司の戦いぶりを観て、一人笑みを溢す。
そんな武蔵の横を黒豹騎士団の騎馬が駆け抜けて、敵妖魔軍に向かって突入を開始した。
「この出現の仕方は、何らかの術です。我らは、術の発生元、並びに術者を探します! 」
ライラ団長が武蔵の側まで来て、もじもじしている。
「?? どうされた? 」
「あの〜……敵術者を仕留めたら、頭撫で撫でして下さいね」
ライラが人差し指で、武蔵の着物をクネクネしている。それを見た騎士団員達は、みな引いている。
鬼の団長が、しなだれている??
鬼畜の団長が、顔を赤らめている??
修羅の団長が??
鬼の団長がががが????
「てめーら! 心の声が漏れ出してるぞ!! 」
そのライラの一言で、団員達は一斉に駆け出していた。
「仕留めれ無かったら、てめーら、どうなるか分かってるだろーな!!! 全隊出撃!! 」
仕留めれ無かったら、地獄だ!
仕留めれ無かったら、地獄だ!
仕留めれ無かったら、地獄だ!
仕留めれ無かったら、地獄だ!
「やれやれだ……ん?! 」
馬防柵を越えて来た敵妖魔の死体が寄り集まってゆく。それぞれが、巨大な体躯の一部と化して、その化け物はゆっくりと立ち上がった。
「真打登場か?! 少しは楽しめそうだ」
武蔵は大刀をゆっくりと抜いて、その巨体と対峙した。眼を見開いたその巨大な化け物は、凄じい雄叫びを上げて、武蔵に突進してゆく。武蔵は左斜め前方に向かって走りだし、化け物の右手を掻い潜って、右脇腹を横殴りに切り裂いた。そのまま背後にまわり込み、今度は両足の筋を断ち切る。ここまで二秒とかかっていない。膝をついた化け物の左側にまわって、首を跳ね飛ばした。
【心の声が漏れ出してるぞ! 】をお送りしました。
(映画【悪人】を観ながら)