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194 風に舞ってゆく

【風に舞ってゆく】をお送りします。


宜しくお願い致します。

 ヒロトが視線を【蒼炎の軍】から空に移す。


 大気を渡る風が心地良い。


 ヒロトの体内で神霊力が膨らむ。その圧力を肌で感じてワイアットはたじろいだ。右手で空に文字を刻んでゆく。空に書かれた文字が緑色に発光し、それ自体に魔力を内包している。その文字が更に文字を生み出し、空に図形を描き、魔法陣を形成してゆく。


「北方の悪魔王! 南方の悪魔王! 西方の悪魔王! 東方の悪魔王! 四方を支配する王よ! 黄泉の穢れを支配する王よ! 」

 とうとうと、ヒロトが詠唱を始めた。凄じい魔力がその身に圧縮されてゆく。



「アバドンの黒き闇より穢れの軍団を誘え! 我に従え!!!! 暗黒穢餓鬼空間(クロスフォールアウト)!!!! 」

 天空から、【蒼炎の軍】の中心に黒い球が落ちてゆく。その球が地面に落下した瞬間、黒い影となって、周囲に広がってゆく。漆黒の闇を凝縮したような直径百メルデの穴が空いた。次々に兵士や軍馬が落ちてゆく。辛うじて落ちるのを耐えた者たちが、今度は、穴の底から湧き出してきた人の頭を持った蛇の群に襲いかかられ、闇に引き摺り込まれてゆく。



「なんじゃ? こりゃ? 旦那がやってるのか?? 」

 ワイアットは恐ろしい物を見る目でヒロトを凝視する。九郎は何も言わず、エルファンの動きを確認し、



「ヒロトっち! 撤収だ! 敵の精霊術師達が動きだす! 」

 チンギス・カァンが此方を見た。ヒロトと視線が交差し、右手を挙げて兵士達に指示を出し、軍が直ぐに反応する。精霊術師達が、防御結界を張り、見慣れない召喚魔法を行使し始めた。

 だがヒロトの様子が変だった。地面に両手を突いてうずくまったままで、動かない。



「やばい! ずらかるぞ!! 」

 ヒロトを馬に押し戻そうそして、九郎は気がついた。ヒロトの身体が震えている。



(ヒロトっち……人を殺したのは初めてか? )



「敵の騎馬が来る! 旦那! 早く!! 」

 ワイアットが、動かないヒロトの頬を引っ叩いた!

 


「あんたを失う訳には行かないんだよ! 」

 その言葉で、ヒロトも動き出して、騎乗し、直ぐに最大速度で走り出した。ヒロトは戦術モニターを目の前に展開して、敵軍のステータスを表示する。



 五千二百十六ロスト。



 それが自ら発動させた広域展開魔法の結果だった。いままでは、ただの数値だった事が、心に重くのしかかって来た。



「……うっ……っ……」

 ヒロトは馬を走らせながら、吐気を抑え込むために、下唇を噛み切った。朱色の玉が、風に舞ってゆく。




◆◇◆




 漆黒の闇の入り口が塞がってゆく。闇が消えて、そこには巨大なクレーターだけが残された。まだ【蒼炎の軍】は混乱していたが、それも収束に動いている。既に半数は進軍を再開していた。



「あの様な者がおるのか。召喚者だな。アハローンはおるか? 」



「ははぁ、此方に……」

 白い衣を頭から被り、サンダルを履いた男が跪く。



「あれをどう見る? 」



「ケルト、メソポタミア、東方の殷の国などに伝わる妖術、魔術とも違う……未知の魔導かと。あの様な術式は古代エジプトにも、カナンにも無い……」



「預言者の代理人たる貴様でもわからぬか……」



「私は弟とは違い、ただの妖術師でしかありませぬ」

 そう言いつつ、男は口元に笑みを作る。



「貴様達兄弟の事は、我らモンゴルにも伝わっている。我は神など信用せぬがな……」

 そう言い残し、チンギス・カァンは踵を返した。

 アハローンと呼ばれた男は、輿(こし)に乗り込み、その上で胡座をかき、左手に持った杖の先を額にあてて、何やら呪文を唱え始める。その輿を四人の屈強な男達が担ぎ上げる。



「アリストラスに災いあれ……永久に闇に覆われる……」


 

 そうアハローンが呟くと、雲も無い快晴の空が、いきな暗くなって来た。太陽が神隠しに遭った様に。

【風に舞ってゆく】をお送りしました。


(映画【ミザリー】を観ながら)

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