193 四駿四狗
【四駿四狗】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「第一種警戒体制!! 既に何者かが侵入しているぞ! 」
ヨシア・グローリアスは、魔力探知に長けている。幼少の頃から妖弓を極め、この大陸でも五指にはいる実力者だ。敵の魔力を探知し、その魔力を射抜く。
「これは黒革の手帳の能力【セイレーンの霧】か?! 陛下が敵の攻撃を受けている……ならば敵の魔力は? 」
ヨシアは目を瞑り、味方とは違う魔力を脳内に色でイメージする。
「……三つある? ならば」
眼を見開き、ヨシアは弓矢を三連射した!
光の如く、妖弓から発した矢は探知した異質の魔力源に飛ぶ!
「外した?! 二つは幻影か? 」
直ぐ敵が居るであろう場所に向かって走り出した。
アントニオ・サリエリは突然飛来した矢を、不可視の障壁で何とか防いだが、この場所に長く居る事は危険だと判断して直ぐ移動にうつる。その際に新たな幻影を作り出す事は忘れない。
「中々良い部下をお持ちの様だ。流石に接近戦は不得手だからな」
だが今の時点でグラウス皇帝にかけた能力を解除する訳にはいかなかった。解除した途端にやられるのは自分だと理解している。
「まあ、機会はいくらでもある。オペラも開かねばならんしな」
「陛下!! 」
ヨシアは皇帝執務室に入るなり、倒れ込んだグラウスを発見した。
「私は大丈夫だ、奴は? 」
「申し訳ありません。逃しました」
「良い……」
安心したのかグラウスの意識はそこで断ち切れた。
◆◇◆
ヒロト達がパルミナ国境を超えて二日程馬を走らせ、小高い丘を上がった場所から、その行軍を見る事が出来た。馬から降り、丘を腹にして行軍を確認する。かなり大規模な行軍だが、隊列に乱れが無い。またいくつかの軍団に分けている。
「四駿四狗……左翼、中軍、右翼……これは……」
ヒロトは絶句した。実際にこの眼で見る日がこようとは……
「何だ?……千単位で軍を統括しているのか? それが五百ある……それで五十万か……」
九郎は軍の構成の方法は、平泉の騎馬軍団に近いと思った。だが規模が五倍はある。九郎はあの男の軍の全容を初めて見た。聞くのと見るのは大違いだ。
「そんなにヤバいのかい? 」
ヒロトが絶句した気配を感じとりワイアットは身震いした。
「千単位の軍が一つの家族を構成している。村と言い換えてもいい。あれは……」
ヒロトが双眼鏡を使って軍団の中腹より少し前を重点的に確認した。一際目立つ装いの偉丈夫を発見した。中国、金朝の皇帝宣宗が、その男の容姿を表した文献そのままだ。
「あれは、モンゴル帝国初代皇帝チンギス・カァンだ。大英帝国の版図の次に大きな支配地域をユーラシア大陸に確立した男だ」
ヒロトは臓腑が震えるのを感じた。未だかつてこれ程のプレッシャーを受けた事がない。あの天草四郎時貞とは、また別種の物だ。
「魔導団はいるか? 」
すぐに冷静さを、取り戻してヒロトは更に軍団を確認していく。
「エルファンに魔導団は無い。だが更に西にある暗黒大陸から、精霊を使役する精霊術師達が流入している」
九郎はエルファンに潜入していたから、ある程度の内情は理解していた。
「精霊術師? インディオのシャーマンみたいな連中か? 」
ワイアットからいつもの威勢が消えている。
「何でも世界を構成する火、水、風、土、闇、光を司る精霊を使役して戦うそうだ」
そう言いながら九郎は立ち上がる。ヒロトも直ぐに立ち上がり馬へと戻る。
「どうするんだい? 」
ワイアットも慌ててそれに続く。
「もうここに要は無い。奴らはトーウル王国領には入らない。グランパレス沿いに東進して、ヴァイアを直撃するつもりだ。だがその前に、敵戦力を削る! 」
ヒロトは馬を走らせ、東に向かう。相手には見えない位置取りを行い、馬から降りて【蒼炎の軍】の全容を再度確認する。
「正気かい? 削るったって、あれをどうやって?! 」
ワイアットがヒロトに近づこうとするのを、九郎が静止する。
【四駿四狗】をお送りしました。
(映画【敦煌】を観ながら)




