159 新たなる召喚 弐 (改訂-1)
【新たなる召喚 弐】をお送りします。
宜しくお願いします。
物心ついた頃から、不思議な体験を何度も繰り返した。
三つか四つの頃に、面を付けた怖い大人たちに連れられ、儀式の様な事をされた。何故かそんな記憶がある。今思えば、あれは祝詞だったか呪いだったか……何かを閉じ込める様な、そんな気がした。
両親も親戚も、そして友達も離れて行くなか、博士だけが心の拠り所となった。博士から昨日十七歳になった祝いに頂いた匂い袋は、たいそうお気に入りだ。家は江戸時代より続く漢方医の家系で裕福であったが、自分の力のせいで母親とは折り合いが悪く、この様な素敵な物を頂く事はなかった。
「今日は気分がよいから、実験もよい結果がでるかと思います」
フラスコやビーカーが並ぶ実験室の机で白衣を着た男が何やら書き物をしている。ここは東京帝国大学の心理学研究所の一角にある博士の研究室だ。
「君の力は多岐にわたる。透視だけではない、念動も発現している。だがまだ不確実だ。学会に発表するにはもっと詳細な研究が必要だ」
独り言なのか、語りかけなのか、わからないのはいつもの事。少女は博士が入れてくれた紅茶に口をつけた。その瞬間目の前に小さな人影が横切る。
「?! なに? 」
人だ! 羽が生えた小さな人? 西洋の物語に出てくる妖精の様な?? 少女が目を擦り、そして改めて目を開けると、光の奔流に世界が包まれ、自分の、存在が朧げになった。
「せ先生!! 」
光が収まったとおもったら、見慣れない光景が広がっていた。
◆◇◆
「……あ、う……」
「……何だ? ここは? 」
ここは何処だろう?
色とりどりのステンドグラスから差し込む優しい光があたりを映し出す。西洋の聖堂の様だ。視界が回復してきて、頭の靄も晴始める。
「……神隠しか? 新政府軍の術の類いか?? 」
男は腰の刀を真っ先に確認し安堵した。そしてあらためてまわりを見渡す。そこには同じ様に床へ倒れふした者が三人。一人は日の本の婦女子。そしてもう一人は異人のこれも婦女子。そしてもう一人は見慣れない洋装を纏っているが、これも日の本の男だ。
「……ここは?? モーガンは? 」
長いブロンドの髪を後で束ねた女性があたりを見渡す。既に立ち上がっている男と目が合い、腰の拳銃に手をかけた。男もその挙動に対して警戒する。
「……あなた達は? ここは帝国大学では? 」
もう一人の女性は乱れた裾をなおして、あたりを見渡す。ステンドグラスから注がれる光が、まるで弥勒菩薩の後光のように思えた。
「貴様、異人の女! ここは何処だ?! 」
「知る訳ないだろ?! 俺も今まで気を失ってたんだ。どうやらさっきまで居たツーソン駅ではない様だな……ってか、なんで東洋人の言葉がわかるんだ?? 英語ではないのに? 意味がわかる?」
「何を、言っている? 」
だが確かに女の言う通りだ、自分は、英語も、メリケンの言葉もわからない。わからない筈だが意味はわかる……
「貴方、日本人ですね?! お名前は? 」
日の本の女性から尋ねられ、男は警戒しながらも話し始める。
「俺は新撰組副長助勤 斎藤一」
「新撰組?! あの? 」
私は明治二十六年の帝都東京にいた。新撰組が存在したのはそれこそ二十六年前の話し。私などまだ生まれていない。戊辰戦争はとっくに蝦夷の五稜郭が落とされて幕府軍が負けている。それが明治二年の話しだ。そして斎藤一……あの?
「……失礼しました。私は肥後熊本藩出身、御船千鶴子と申します。ただの医学研究生です」
嘘はついていない。ただし廃藩置県で熊本藩は無くなっている。
「おいおい、勝手に話しを進めるなよ! 俺はワイアット・アープ。ガンマンだ! そして連邦保安官でもある」
女は前髪をかき揚げて、床に落ちていたカーボーイハットを被る。そうこうしていると、もう一人の男が音もなく、起き上がっていた。……こいつ! 動いた気配がまったく無かった?! 何者だ?
斉藤は腰の刀の柄に手をかけて身構える。
「……よく寝た……ワイアット・アープって女だったのか? それに御船千鶴子に、斎藤一……なにが起こってるんだか……ハァ〜ア……」
男は皆の事を、知っている様だ。その上で呑気な声を出して、あくびまでしている。
「呑気な男だな? お前、名は? 」
ワイアット・アープは男に尋ねる。
「俺は、カズキ……VRMMOプレイヤーだ」
背中に刀を背負っていて、服装は上から下まで黒尽くめだ。
(ここは中世ヨーロッパの様な場所? それにこいつらはなんだ? 歴史上の人物達だと?? )
「?? なんの事だ? 」
皆、意味がわからない。
そのとき、大きな扉が内側にゆっくり開いて、一人の女性が入ってくる。銀色に輝くドレスに身を包んだ美しい女性だ。
【新たなる召喚 弐】をお送りしました。
ついに新たな召喚者が現れました。
だだ今回は召喚の目的すら不明です。
(映画 Gのレコンギスタを観ながら)