191 エルファンの王 (改訂-1)
【エルファンの王】をお送りします。
宜しくお願い致します。
砂漠の闇の中
踏みしめる音が集まり、そして合唱となって響く。
四方から音がオアシスの小高い丘に向かって集結する。
「東の軍団、揃いました」
東西南北の各軍団長が中央を司るエルファンの王の前に跪く。
「中央軍、並びに全軍揃いました陛下」
隣に傅く副官が偉丈夫に声をかける。
「皆の者! よくぞ集まった。我らが【蒼炎の巫女】に神託が降った。今より全軍をもって、アリストラス皇國を蹂躙する。トーウル王国の戦力は既に【黒龍の軍】によって壊滅状態だ。一気にパルミナ連合王国まで軍を進める。さあ! 仕事の時間だ! 動!! 」
エルファン王の号令で全軍が一斉に動き出した。まるで一匹の巨大な獣の様に。
「……あの素晴らしき日々を思い出す」
虚空に思いを飛ばし、王は涙を堪える。
「王よ、貴方の祖国と我らのエルファンは、そんなに似ているのですか? 」
副官は王が、この様に感傷的になる事を知らなかった。
「似ている。強い漢達も、情の深い女達も、そしてこの空もな……だが、儂のいた現世の軍に比べれば、これは四分の一の兵力だがな……さて行こうか」
そう呟いて笑みを浮かべる男は、自らも馬に跨り、中央軍のさらに中央へと入って行った。
一斉に笛が鳴る。さらにそれを追いかける様に銅鑼が盛大に鳴らされ、巨大な軍が動き出した。
「九郎よ、我を見事止めて見よ! 馬での勝負は余が負けたが、戦では勝たせて貰うぞ! 」
◆◇◆
「エルファンより【蒼炎の軍】が発進しました! 」
陰からの報告が幕舎に飛び込んで来た。その報告を聞いて、直ぐにヒロトは行動に移る。
「グランパレス外周の軍に通達、敵の動きに合わせてゆっくり後退。トーウル王国領内に入った場合は、広域集団魔法で一撃する! トーウル王国からパルミナに至るルートは通らせるな! 」
そう言いながら、ヒロトは幕舎から出る支度を始める。
「何処に行く気だ? 」
ワイアットが、ヒロトに合わせて同じ様に準備しながら聞く。
「エルファンの軍を見に行く」
「だろうと思った。俺も付き合うぜ」
そう言い終わる前に二人は既に幕舎を出て、馬に跨っている。
「敵を見に行くのか? なら俺も」
斎藤もついて行こうとするが、ヒロトが直ぐに遮った。
「まだ馬に慣れていないだろ? この目で確かめてくるだけだ。直ぐに戻る。いつでも軍を動かせる様にしてくれ! おっさんや、総司はもう行動に移っているぞ」
そう言って直ぐに全力疾走に移る。ワイアットもヒロトと並走している。この数年ヒロトの馬術はかなりのレベルに達したが、それに平気でついてくる。
「何を確認しに行くんだ?! 」
ワイアットは面白ろそうに聞く。このヒロトという男の深さを感じれば、感じる程、さらに何かがあるのではと思う。堪らなく興味が湧いてくるのだ。
「エルファンの王……奴の軍の軍列を見たい」
「軍列?? 」
「ああ、軍列にはそれを指揮する者や、国の癖がでる。特徴と言ってもいい。それを見極める。奴が召喚者ならば、その手がかりになる」
「成る程ね。そんなのを見てわかるのかい? やっぱあんたはスペシャルだな」
さらにワイアットが馬足を速める。だがヒロトは微妙な調整をして、殆どワイアットとの距離を保ったまま進んで行く。それを見てワイアットは、やはりこの男は並では無いと舌を巻いた。五歳から馬に乗ってる自分に、これだけ合わせられる男は西部でも数人だろう。そこに偵察に出ていた九郎が合流して来た。
「ジレ! 隊を指揮して、総司と合流しろ。ライラ団長は直ぐに動くぞ! 」
自分一人だけ連隊から離脱してヒロトに合流した。三人がほぼ一糸乱れずに進む。
(……九郎つったか? こいつもヤバいな。平気でついて来やがる。それも余裕でか? あんな鎧を着てるのに、馬足に乱れが無い。まいったな……)
ワイアット・アープは、知らず知らずのうちに笑みを溢していた。自分と同じか、それ以上の世界が見えている者達がいる。そう思っただけで嬉しくなって来たのだ。
【エルファンの王】をお送りしました。
(映画【攻殻機動隊 新劇場版】を観ながら)
「お父様! どうして外出を禁止するの? 」
「そんな格好では駄目だからだ! 」
「私が不良だって言うの?? お父様のわからずや! 」
「いや……その紐パン姿では駄目だと……」
あざーす!




