190 褒めてる場合か?
【褒めてる場合か?】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「方法は三つある。第一に、一番費用がかからないのは暗殺だ。第二にアヴァロンで強襲する。第三に、まともに軍同士でやり合う。暗殺は直ぐにでも向かわせればいい。失敗して元々だ。アヴァロンに関しては占領する為の手間がかかる。連中も馬鹿でなければ警備を強化するだろう。軍でまともに戦をする事は、システムも望む事だ」
信長は再度葡萄酒を盃に注ぎ込む。
「じぁ、戦をまともにやるだか? 」
信長はビリーの盃にもついでやる。
「いや。まだ無理だな。手駒が少ない。少なくとも将と呼べる人材がもう少し必要だ。少々心当たりはあるがな……ならばどうする? どうやって戦をする? 」
信長はビリーとナターシャに問いかける様に話しを促す?
「……他の軍をぶつけて、潰し合わせる? 」
「御名答。ナターシャの方がやはり戦略思考が備わっているな。それに引き換えお主には軍師の才能は無いのう」
信長は揶揄う様にビリーを人差し指でつつく。
「どうせオイラはセンスないですよ。けっ! 」
「まあ、適材適所だな。だから暗殺には奴を行かせる事にした。もう向かってる。奴の能力は暗殺向きだからな」
「奴一人でか? 」
「誰かを連れて行くと巻き込むから嫌だとさ。本人がそう言うなら問題なかろう? 」
奴が死んでも腹は痛まない……と言う事か……
「で? エレクトラを狙うだか? 」
「いや、外堀を埋める」
「そうか……ヒロトがどう対処するか見ものだなや」
ビリーは窓の外に広がる中庭を見つめて溜息をついた。ナターシャの様子を見ながら、システムからの干渉は段々と強まっていると感じる。これを止めるにはやはりシステムその物を破壊する必要があるかも知れない。だがそのシステム自体が【エヌマ・エリシュ】に有る可能性が高いのだ。ビリーは頭をくしゃくしゃっと掻き上げて、柄では無いなと思った。
◆◇◆
アリストラス皇國の皇都ロイド・ヘブンから北に少し行くと、白の湖と呼ばれる場所がある。その湖畔に佇む館の主人は、高い壁を一面、本で埋め尽くされた場所に居た。中央に置かれた机に向かい、一冊の古い書物を眺めている。そこには古代アリストラスにも無かった、いやこの世界に無かった文字が書かれていた。
「凄じい魔力……いや魔力とは違うこれは……呪力か? やはりあの男が持っていた書物だな……この書物自体が神の如き力を内包している……」
かって【災厄の渦】の最終戦において、次元の狭間に消えたある召喚者が持っていた書物だ。
「これだけの力が有れば、これを利用して【メタトロン】を復活させる事が出来るやもしれぬ……艤装は既に八割を越えた。あとは……」
この館の主人であるスターズ・F・ガルアランは、本を捲る事はしない。この本を読み解く事は不可能だろうし、ページを捲るにも選ばれた者で無ければ、どんな影響があるのかも解らない。至る所に何かしらの罠が仕掛けられている。
「……報告か? 」
スターズが小さな声で呟く。するといつの間にか直ぐ右手に男が立っている。
「エルファンが動きました。東西南北の軍を全て動かしています」
闇を凝縮した様な男は、冷や汗をかいていた。スターズが内包する圧力が上がったのだ。
「そうか。意外に早かったな……ヒロト……あの男も既に承知している筈だ。精々頑張って貰わねばな。だが意外なのは北方だ。あの法王が真っ先に動くと思ったが、【紅蓮の軍】を束ねる召喚者は余程有能の様だな。よくあの法王を抑えている」
法王を名乗っているが、我らと同じ神巫だ。自分の方が一角上だと言いたいのだろう。
「システムは使う物だ。崇め奉るなど滑稽だな。私は皇城に出る。先に暗部へ知らせろ」
そう男に伝えて、スターズは席を立った。
◆◇◆
ヴァイアの作戦司令部にその一報が齎されたのは、スターズに情報が入る半日前の事だった。九郎が各地に放った陰からの情報だった。司令部の幕舎に駆け込んで来た伝令は、息も整えずに報告を急いだ。
「エルファン軍が動き出しました。その数およそ五十万! 」
「何だと?! エルファンのほぼ全軍に近いぞ」
騎士団長筆頭のカルミナは怒号を上げた。
「小出しにせず、数に物を言わせるか……よくわかっているな」
ヒロトはテーブルに広げた地図を凝視しながら笑みをこぼした。
「褒めてる場合か?! 五十万だぞ! 五十万! 」
ワイアットが喚き散らす。余りにも途方もない数に動揺しているのだ。
「うるせえ〜な。その全軍とまともにぶつかる訳じゃない」
斎藤一は、ヒロトには見えているであろう状況を、読み取ろうと必死になっていた。
【褒めてる場合か?】をお送りしました。
(映画【呪術廻戦ZERO】を観ながら)




