186 封印された切り札
【封印された切り札】をお送りします。
宜しくお願い致します。
ゴドラタン帝国の騎士団は全て皇帝直属扱いで、一般の兵士は各騎士団の下部組織として運営されていた。この日、各騎士団長と副団長が一堂に集まり、各騎士団より派遣され、国境に配備された一般兵の指揮系統で揉めていた。軍団単位で動かす事を前提とした指揮系統の為、総力戦での纏まりが悪い。
「後方に配置された近衛騎士団の負担が少な過ぎるのではないかね?! 」
「第三軍こそ、国境警備人員がたったの三百とは? どう言う事か?? 」
フェルミナ・マッケローニは歯噛みした。ジークフリードが、騎士団筆頭の近衛騎士団長に就任し、かなり内部のバランスは良くなった。だが未だに古い有力貴族の影響が残り、事あるごとに足を引っ張ってくる。
「我ら第三軍と第四軍は古き【オズ】の血を引く者で構成されている。皇帝陛下に取り入る才能だけの、たかだか二百年ほどの歴史しか持たぬ家の若造など……」
「貴様! ラウンズを愚弄するか?! 」
「滅相もない。我らを指揮出来るのは皇帝陛下だけだと言っているだけだ」
ルワン伯爵は、侮蔑を込めて吐き捨てる。
「それに今回の【マルドゥク争奪戦】……アレを使えば事は済む筈……いや、アレがあれば世界を手にする事も可能。陛下は何を考えておられるのか……」
「貴公、アレは人類には過ぎた物だ。その力を知らぬ貴公が口にするな」
アレとは、【災厄の渦】で切り札として使われた、航空戦闘艦アヴァロンの事だ。余りにも巨大な力だった為、グラウス皇帝はアヴァロンを封印した。確かにアレを使えばこの争奪戦を有利に終息させる事が可能だろう。だがあれは人の手に余る……アリストラス超帝国が星の海を渡る為に建造した巨大なテクノロジー。一歩間違えば、人類が滅ぶ……
「ふん……まあ、いいでしょう。だが第三軍はこれ以上の人員は出せませんな。国境は第一、第二軍で宜しくお願いしますよ。我らは国境と帝都との中間地点にて、防衛拠点を構築いたします」
そう言って、早々にこの場を立ち去った。
「おい、ライラック……なんで何も言わない?! 」
黙って座っていた第一軍を指揮するライラック・バルバロッサは、目の前の地図を凝視しする。
「……あの封印を行ったのは、宮廷魔導士筆頭だったな? 」
「ああ、皇帝陛下の命にて、ナルザラス様が……?! 」
フェルミナも同じ事に気がついた。
「そう、発掘したのもあの男なら、封印したのもあの男だ。そして奴は【黒龍の巫女】の【神巫】だ」
「なら始めから?! いや何処からが計画なのだ? 」
フェルミナは異様に喉が渇いた。
「先日、織田信長に滅ぼされたブランデン王国。その王家に受け継がれた超帝国の血脈は、百五十年前の東方動乱で既に絶えている。アリストラス皇國から血が入ったゴドラタン帝国に、いずれは巫女が現れる事は必然的だった……これを見ろ」
そう言ってライラックが、フェルミナの前に置いた書物は、かなりの年代物だ。
「……アリストラス皇家家系図……」
「その二十四ページ目だ。そこにゴドラタン帝国への輿入れの詳細がある。ゴドラタンからの立会人の名前を見ろ」
「……え?! ナルザラスが、立会人?! じゃあ?? 」
フェルミナは目の前のコップにはいった水を一気に飲み干した。
「そう、そして相手側の立会人は宮廷魔導士のスターズだ。出来過ぎだろ? 全て仕組まれていたと考えるべきだ」
「スターズは【白銀の巫女】の【神巫】よ。そんな事をする意味は何?? 」
「……【マルドゥク争奪戦】まだ俺たちの知らない事が有るようだな……」
◆◇◆
薄暗い闇の中に、松明を掲げ、出来るだけ闇を消す様にしている。侵入者対策にかなりの人員を投入した。元々、航空戦闘艦アヴァロンが発掘された大空洞へと続く大階段には帝都防衛騎士団から人員を投入しているが、それでも不安は募った。相手はゴドラタン帝国建国以来の天才と呼ばれた男だ。鎮まり返った空間に、騎士達の唾を飲み込む音が聞こえる。
そこに上から音が聞こえて来た。交代時間まではまだ早い。
カーン、カーン、カーン、
一定間隔の音。
近づいてくる。
杖をつく音?
「戦闘態勢!! 」
騎士団員が一歳に動き出した。一気に緊張が極限まで高まる。
【封印された切り札】をお送りしました。
(映画【アパッチ砦】を観ながら)




