183 インターバル 参 (改訂-1)
【インターバル 参】をお送りします。
宜しくお願い致します。
男は突然、世界が暗転し、気がついた時にはグランバルド大砂漠のオアシス都市の外れに倒れていた。当時は【蒼炎の巫女】の誕生前で、巫女を迎える部族がグランバルド大砂漠の盟主となる為、部族間の小競り合いが絶え間なく続き、多くの血が流れた。
男は、通りかかった商隊に救われ、その商隊の護衛として雇われた。男は類稀な戦闘センスと、何より皆を惹きつける魅力があった。男が話す言葉は、不思議と皆の心に染み渡る。商隊の隊長が、故郷のエルファンに男を招き、それに応じた男はエルファンを気に入った。男の故郷に似た匂いがあった。さらに西の暗黒大陸から侵略してくる蛮族を幾度も撃退した男は、いつしかエルファンの王となった。
「……九郎が行ったか……まあ、奴ともいずれは決着を付けねばなるまい。それよりも【黒龍の軍】は、東方地域に戻った様だな。予想した通り、トーウル王国の戦力を崩壊させる事が目的だったか……何と言ったかな? 」
「は! 織田上総介信長と」
「確か宋から海を越えた島国だったな……そんな島国にあの様な傑物が生まれたのか……面白い」
「どうなさいますか? 」
「知れた事! 軍を起す。東西南北の将軍に号令をかけよ。中央は余が自ら指揮をとる。【エヌマ・エリシュ】で戴冠式を執り行ってやると、そう巫女に伝えるのだ」
「御心のままに」
「見果てぬ夢の続きを、このナイアス大陸で叶えるとするかの……」
男は遠くを見つめ、そして決意を固めた。
◆◇◆
この時期に珍しく猛吹雪だった。
白髪混じりの男は、大きな机に向かい、ナイアス大陸の地図になにやら、書き込んでいる。時折、窓を雪の粒が叩き、風が鳴る。この世界と、現世の違いを計算に組み込み、思考の誤差を修正してゆく。道半ばでこの世界に飛ばされた時は、絶望感に苛まれた。だが【紅蓮の巫女】が帝位につけば、現世に帰れると知った時、全ての絶望も不安も無くなった。
「先生、今日も動かれないのですか? 」
まだあどけない少年は、どうぞ! とお茶を差し出す。
「物事には天の利という物があります。人の利、地の利、そして天の利が有れば負ける事はありません。私は負ける要素のある戦はしない主義です」
熱いお茶を美味しそうに飲む。このナイアス大陸には珍しい茶葉を使ったお茶だ。これも先生がこの地に召喚された時に伝えたと聞く。
「エルファンの王も、軍を起こしたとか」
「焦る事はなにもありません。我らはその時を待てばよいのです。待つ事も戦なのですよ。法王が何を言ってきても、無視して下さい
」
グランドロア聖教連合法國の法王たるグランドロア七世は、【神巫】でありながら、この北方地域六カ国全ての王家を取り纏める為、【巫女】よりも権力が強かった。他の地域とは逆で、神巫の下に、巫女がいるのだ。それはケルン神よりもシステムを神として信仰する為、システム管理者としての【神巫】が上位者として君臨していた。だが【マルドゥク争奪戦】において、【紅蓮の軍】はあくまでも【紅蓮の巫女】に仕える軍である。【神巫】ごとき法王の言葉などに従う言われは無い。
「我らは純粋に戦い、そして勝つ。【神巫】ごときの思惑など関係ありません」
そう言い切る男の瞳には強い決意が見て取れた。
◆◇◆
ヴァイアの街には、【災厄の渦】の時に構築した防衛陣地が未だに稼働していた。だからこそ、この地を【白銀の軍】の本拠地としたのだ。続々と南方域の各国から騎士団と軍が派遣されて来る。
ワイアット・アープは、空白だったアリストラス皇國軍の銃士大隊隊長を拝命した。先日まで、ヤクザな連邦保安官だった自分には、分不相応だと思ったが、いまの状況では仕方がない。ブツブツ言いながら、その大隊に着任した。
「……あんたが、前隊長の元副官かい? 」
「は! メイデル・リ・シャーリーです! 」
【インターバル 参】をお送りしました。
(映画【鳥】を観ながら)